少年漫画ヲタは異世界がわからない。④
ついに異世界へ入った。
「おおー!ここが異世界!じゃあ冒険を始めようか!」
「いいえ、まずは情報収集とギルド集会所に行きます。輝崎さん、これは異世界冒険の常識ですよ。」
「は、はい。」説教された気がする。
「あ、そういえば私たちの能力ってどうすれば知れるのでしょうか…」
「あ~、それは多分コップに水を入れてその上に葉っぱ置いて手を…」
暗城さんが真剣に聞いている。
「え~っと、少年漫画ネタです。ごめんなさい。」
「そうだったんですか。やはり少年漫画については博識なのですね。」
「ではとりあえずギルド集会所を探しに行きましょう!」
ああ、可愛い。
俺たちはギルド集会所に行き対魔王軍戦士として登録した。ビームの女神様は今日1日はお試しと言ってたが登録なんてしてよかったのだろうか。暗城さんはやる気満々だな。
それから俺と暗城さんは1、2時間程その村で冒険の準備をした。正直、暗城さんと一緒に村を歩くのは楽しかった。これがデートというものなのだろうか…
そんな事を考えてのほほんとしていると突如警鐘が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
「あっちの方からです。」暗城さんが村の西の方を指さす。すると村の西側から上へ黒い影が飛んだ。
「今度は何だよ!」
そう言った1秒後にソレは落ちてきた。
「なるほど、あの女、俺たちを止めるためにこんなガキどもをよこしたのか。」ソレは訳の分からないことを言い始めた。ソレは3m程の身長で黒い肌をしていた。顔もさぞかし恐怖を誘る顔なのだろうと恐る恐る見た。
「え、メガネ…」予想だにしなかった顔だったので思わず声に出てしまった。ソレは肌は黒いが眼鏡をかけた男性の顔だった。しかも面長で出っ歯でおかっぱだ。
「ひゃっはー!スズキ様!すげージャンプ力だったぜ。」
右の方から明らかに魔王軍下っ端って感じの奴らが来た。って今こいつなんて言ったスズキ?異世界系ライトノベルでは普通なのだろうか。
「な、なんですか!?スズキって!こんな敵の名前嫌です!もっと異世界系の敵っぽい名前にしてください!」暗城さんが敵に訴えている。どうやら異世界系ライトノベルでも普通ではないらしい。
「やっちゃっていいですか?スズキさん!」
「ああ。だが殺すなよ。」
魔王軍下っ端らしき者たちが武器を持ち近づいて来る。
「ままままままずい。逃げるぞ!」俺は暗城さんの手を引っ張って走り出す。
「ちょ、輝崎さん。何で逃げるのですか。今こそ私たちに目覚めた能力で戦う時です!」
「どうやって能力を出すんだ!俺たちは調子に乗ってたんだよ。この世界を救うなんて無理なんだ。俺達はただの高校生なんだ!家に帰れば家族が待ってるし、明日は火曜日で学校がある!俺たちがこの世界を救うなんて幻想だったんだ!」
「だったら私がその幻想をぶ…」暗城さんがなんか言おうとしたが急に曲がったせいで言いきれなかったみたいだ。俺は暗城さんの手を引っ張り一番近くにあったドアを目の前にして願う元の世界に帰りたいと。ドアを開くと見覚えのある倉庫が見える。
「よしっ!」そう言ったとき俺は暗城さんの手を掴んでいた左手の力が緩んでしまった。そして暗城さんは俺の手を振りほどき俺の背中を押しこう言った。
「あなたと一緒に来れて楽しかったです。私には私の帰りを待つ人はいませんので…」
そして彼女によってドアは閉められた。俺一人だけが元の世界に戻ってしまった。