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交わらない恋の行方は

作者: きなこ


どうして、と思う。


なぜ彼は私が彼を愛しているという考えがないのだろう。

まあ確かに私たちの関係は到底平穏とは無関係の事象から始まったが、その後もまた色々あったが、協力して乗り切ってきたのに。

もちろん恨んだし、理不尽に思うこともあったし、苛立ったことも一度や二度じゃない。

でも幸せを感じたことだってあったのに。


あなたの気分次第で私は一気に転落する。

生殺与奪を握ってるって嘘じゃない。本当のことよ。

だからこそ私は彼を裏切らないし、忠実だ。

それを信じて私を信じないってなんて本末転倒なの。



あなたは別に間違っていない。違うわね。正しいことをした。

一国の国の主として、自国の民を守るために他国を見捨てるのは当たり前だ。

ましてや彼は王太子、意見を言ったところで聞き入れられるとは思えない。

あの時、支援を切っていなかったら感染は他国にも広がりパンデミックは一層拡大しただろう。優先順位は付けないといけない。

守るものがある立場なら尚更なこと。




たかが許嫁がいる国など、見捨てて当然なのよ___




まだ感染症の情報が城に届いた頃、私たち王族は逃げることが出来た。

遠い街での爆発的な感染。

発症すると寒気、嘔吐などが起こり、高熱が出たら治療が功をそうしない限り数日で亡くなってしまう。


国から医療班を派遣した。しかし状況は悪化するばかり。

逃げる事は出来た。それでも。


いくつかの都市で起こったとき、逃げ出した貴族はいた。

病の情報を集める。

発症者が最初に出たのは熱帯付近だった。

その次はその都市との貿易が盛んな街。

都市間の移動を制限するお触れを出したとき、もう手遅れになっていた。


(まだ2週間も経っていないのに。)


嘔吐、下痢の症状が出たとき、脱水による衰弱がみられると経過が悪くなるとわかってきた。

そのため水分補給を徹底させた。

アルコールを蒸留し、より度数の高いアルコールで消毒を徹底させる。

患者の吐瀉物や体液から感染が疑われるため、それらを素手で触ることを禁じた。




しかし、事態は悪化するばかりだ。


とうとう王都で発症者が出たのだ。

感染は一向に止まらない。穏やかなはずの城下には暗雲が立ち込めていた。


王家の書物庫で文献を探す。

過去に同じような事例はないか。

台に乗り、届きそうな書物に手を伸ばした。ぎりぎり届かないそれに身を乗り出しすぎたのがいけなかったのだろう。傾いた体を強かに床に打ち付けた。

元々睡眠不足だったせいで受け身も満足にとれなかった。

頭を打った瞬間何かが弾けた。


そして私は暗闇に落ちて行った。



目覚めた私は、違う世界で医師をやっていた"私"の記憶を持っていた。多分ちょっと精神がおかしくなっていたのだろう。普通疑うし、混乱するそれを私は受け入れた。好都合だと思ったのだから。


上がってきた詳細と地理と"記憶"を照らし合わせる。詳細は不明だが、おそらくマラリアに類似した病原菌によるものだと検討した。

マラリアと仮定したら蚊で媒介される。

虫除けのハーブと蚊帳を全部の拠点に配布した。他の選択肢を頭に留めつつ、対策に乗り出す。

城内に感染者が出た今私を止める者などいなかった。


だってどこも安全な場所などないのだから。




特効薬がない状況では対症療法しかない。

それでも何か治療薬はないかとさまざまな薬を試してみた。

抗ウイルス活性もつ生薬、気をめぐらし瘀血を促す漢方、原虫を殺し得るオイル。

西洋、東洋、代替医療と思い浮かぶものを試していく。


いくつか効果が認められるものが出てきた。一筋の光が見えた気がした。

しかし、国を絶望に突き落とす。

国王と王太子が発症したのだ。その連絡が来た時、私は薬の原料を取りに出掛けていた。

特効薬が切れたために。城から1.2日は離れている場所だ。


私がなんとか城に戻った頃には2人は熱で朦朧としていた。既に紅斑が体に出ている。体が震える。足元から崩れ落ちた。こうなってしまうと致死率は95%。本人を信じるほかない。薬を煎じ、輸液を行い、どうにか摂取できそうな食料を探す。だんだんと衰弱していく彼らに身が千切れそうな思いを抱いた。そして。2日後に父が、3日後に兄が息を引き取った。


私はこの時13才。国を背負うには幼過ぎた。


1ヶ月、2ヶ月とあっという間に過ぎ、事態が大体収束し始めたのは半年を過ぎた頃だった。

王都がひと段落したらまだ猛威を振るう地区に向かった。

拠点ひとつひとつを訪ねて、状況を確認しながら治療を行う。



国を絶望に落として2回目の春を迎えた。


その頃には感染症は終わっていた。生き残ったのは国の1/4にも満たなかった。変わり果てた土地に住むには私たちの心は癒えていなかった。少し離れた草原に集団で居を構え、暮らしていた。


ようやく、自然な笑顔が戻ってきた時また事件が起こった。

何かが燃える匂いと狼煙。

城が燃えている。燃やした方がいいのは知っていた。

それでもそれを出来るほど立ち直ってなどいなかった。呆然と立ち尽くしたのはどれほどの時間だったのだろうか。もしかしたら数十分だったかもしれないし、数時間だったのかもしれない。

気が付いたら隣国の兵に囲まれていた。



正直、殺されるのかと思った。



しかし国に連れて行かれた。身一つで。禊を行い、数ヶ月私たちの病の兆候が見られないことを確認すると城に招聘された。


大好きだったあの人を見ても甘酸っぱい思いが蘇らなかったのは不思議だった。"テレビ"を見ているかのように。現実味がない。

ただ動いているものをぼやっと見つめているだけに過ぎなかった。


温かい言葉などない。目も合わない。広い絢爛豪華な部屋に閉じ込められ、1日3回食料を与えられる。まるでペットにでもなったようだ。



(婚約者としての義務でも果たそうとしているのか。)


私の国を併合したことを伝えられる。


ああ、なるほど。その建前として私を連れてきたのね。妃にしておけば、問題はない。病原菌のような私に触れないのもただの道具に過ぎないから。知ってるのよ。私がこの国で病原菌扱いされていること。手離してくれたらいいのに。


失笑が漏れた。


せっかくだし、私も好きにすることにした。先の感染症についてまとめる。"学会の症例報告"を基にした。詳しいデータを持ち出せなかったことは心残りだけど仕方ない。全て燃えてしまったから。


数年が経ち、彼はたまに私のもとを訪れる。部屋の外に出るのも許容されるようになった。城から出るのはあまりいい顔されないけれど。笑ってくれない。眩しい笑顔ではなく、相貌が柔らかく崩れるはにかんだ笑みが好きだったのに。


婚約が結ばれないまま、私はこの城に留まっていた。時折ふと抱き締められる。ぎゅっと離さないと告げるような抱擁と呼ぶには幼すぎるそれを私は持て余している。


嫌われてはいない。おそらく病原菌扱いもされていない。彼は私が好きなままだ。決して私に告げはしないけれど。自惚れがすぎるって?だって仕方ないでしょ。



(申し訳なかった。君は俺を恨んでいるだろう。でもすまないが離してやれない。)



寝ている私に愛していると泣きながら縋る男を見て愛されていると思わない方がおかしいと思うのよ。




宙ぶらりんの関係に嫌気がさしてきた。そろそろ決着をつけるかと考え始めた頃、再び病魔が目覚めた。今度は彼の国の水の少ない地域だった。何の感染症だ?元の知識を基に考えを巡らせる私と反対に彼は固まっていた。


より情報を集めようと城から飛び出した私を彼は監禁する。私の知識など必要ないと言わんばかりに。分かっているでしょう?我が国の知識が必要なことに。なぜ閉じ込めるの。


「きみを失いたくない。あの絶望した日々を思い出したくない」


嘆く彼に、私は憤った。交わらなすぎる。


「私が何もしなかったって思っているの?対策だって立てた。衛生環境も改善した。最低限の医療施設も用意した。マニュアルだって作ったし、その講習だって望まれれば何度でも行った。」


違う。それもそうだけど問題はそこじゃない。多分彼は恐れているのだ。私が見捨てられたことを思い出して、自分から離れることを。


「何であなたは私の愛を信じてはくれないの?」

「よく考えてみろ。俺がお前の国にした仕打ちを。」


「いい加減にしなさい。私たちは今を生きているのよ。そこに留まりたいならそれでもいいけど、私はあなたを倒してでも未来を取りに行く。それが昔亡くした人たちの救済にも繋がるはずだもの。」




逞しすぎる女の子は好きですか?私は好きです。

もう少しちゃんと感染症について勉強して書いてみたいと思っております。

お付き合いいただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 某フローレンス女史を彷彿とさせる主人公ですなあ。 そのうち一人で簡易ベッド持ち運んでぐずる患者を強制的に寝かしつけそう。 そしてそのうち「小陸軍省」とか呼ばれそう。
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