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神話とは裏腹な現在

「当たり前だ!昨日、ほぼ寝れてもないんだぞ!」


「お前がその状態なら俺も同じだ」


さも当然とばかりに言い放つ円佳に将義は不真顔で即座に突っ込む。相方がその状態なら同じ状態に放り込まれた自分も当選同じ状態だ。その返しに相方がムスッとした表情を浮かべるのに将義は冷静に昨夜の出来事を口にする。


「そもそも被害が拡大して、後始末に時間がかかったのも、お前が先手必勝で叩き込んだ雷のせいだ。あれがどれだけの被害を撒き散らしたと思ってる」


取り締まり事態はそこまで難しくなかったが被害を拡大させたのは紛れもなく相方だ。自分の言葉にムスッとしたまま相方がさも当然と言わんばかりに言い放つ。


「神域で肝試しする人間の方が悪いだろ」


「だからといって、問答無用で雷術を落としてクレーター並みの穴を山に空けたのは誰だ」


「……うっ…」


痛い所を突かれた相方が罰の悪い顔で押し黙る。その様子に昨日も例に漏れず、相方の起こした被害に巻き込まれた将義は遠い目をする。


ー高砂ー


それは日本国内に置いて神の力を繋ぐと言われる各家の中でも別格の扱いを受けるお家柄。その名は人ならざる力を持つ者達の中でも有名かつ、有力な力を持つ一族。その中でも、近代稀に見るほど一際強い力を持つのが自分の相方である高砂円佳だ。艶のある黒髪。意思の強さが現れた黒い瞳は強い力を使う際は金色に変わる。その圧倒的までに麗しい姿も含めて、一庶民の自分では想像もつかないほど高貴な血を引いたやんごとなき家のご出身だが、そのせいか相方さ自分の力のコントロールが非常に苦手なのだ。よって、時々相方が牽制に放った一撃がまさに自然災害のような甚大な被害を撒き散らすのだ。


ー建御雷之男神ー


そんな相方の祖は読み方としては“たけみかづちのおのかみ”と呼び、雷と武に厚い神とされ信仰されている。国譲り神話において、大国主の神に国譲りを迫り、その息子達との対話によって天照大御神の意を果たした神としても有名。ちなみに自分はその神話において建御雷之男神と最後まで戦った建御名方神の子孫。時が時なら、敵対関係にあってもおかしくないが諏訪にあった自分の家系は最早自分達一家と力の強くない分家しか残っていない。今となっては国譲り神話にどれほどの信憑性があるのかは分からないが今も尚、自分達が祖である神々と変わらぬ力を持つからにはやはりそういった経緯があったのだろうとは推測される。もっと言わせて頂けるから神話からすれば建御雷之男神の血を引く相方の方が心が広く穏やかであっていい筈なのに、悲しいかな実際には数千年の時を経た今は荒ぶる神と言われたご先祖様を持つ自分の方が穏やかな力を持つ一族となっているのだ。


「昨日、そんなに大変だったのか?」


昨夜の騒ぎを思い出して押し黙った将義に合流した倖人と会話していた康仁が会話に割り込む。その言葉に将義は遠い目をする。


「まぁな…」


言わせて頂けるなら昨夜は非常に大変だった。まさか神域にて肝試しを行った神社近所の若者達が誤って神を封じていた注連縄を落として遊ぶという暴挙に出ると誰が思う。案の定、神域を侵された神は怒り狂い、みさかえなく人を引き裂こうとしたのだ。それに気づいた文科省の術者達が事態の収束を図るために動いたが奇しくも神域から飛び起きた神は水神。このままでは神の起こした大雨によって下流の街や村に被害が出ると判断し、気象を操る力に長けた自分達が呼ばれたのだ。神に言葉を届けるために祈る術者とは裏腹に慌てふためく若者達を神の繰り出す情け容赦ない攻撃から守り、尚且神の怒りを鎮めるためにかなりの時間を費やした。昨日ほど、何も感じない人間の行動を怖いと感じたことはない。神の放つ凄まじい攻撃から若者達を守るために相方が放った渾身の一撃が神の山を抉ったという事実を思い出して将義は深いため息吐く。少し前まではその身に宿る力を使って、雨乞いをしたりしていた一平凡な庶民だった自分が今や、気象庁に新設された特務課の問題児認定されていることが地味に辛い。そんな自分の胸のうちを知らない相方が忌々しげに吐き捨てる。


「そもそも神域を侵した時点で死を覚悟してないやからをなんで、俺が助けないといけないんだよ」


“ごもっとも”


本音としては相方にほぼ同感だが、そう言ったらこの相方は次から起きても来なくなるだろうし、自身の力を制御しなくなる。それは非常に困るのだ。将義のなんとも言い難い表情からなんとなく昨夜の出来事を読み取った康仁は気の毒そうな表情で肩を叩く。


「お疲れ」


その言葉に将義は肩を落として深いため息を吐く。そんな将義とは対照的にムスッとした表情を崩さない円佳に忍び笑いを溢しながらも康仁は切り出す。


「ま、それはいいとして。珍しく早く終わったしみんなで飯でも行くか?」


「あ~…そうだな…」


その言葉に昨夜の災害のような出来事を思い出していた将義は顔を上げて目を瞬いて、チラッと自分の相方を確認する。不機嫌が表に出てはいるがどこか自分と同じどんよりとした寝不足の圧を纏う相手を見て嘆息する。欠伸を必死で噛み殺しているが相方の限界は近そうだ。そう判断すると将義は声をかけてくれた康仁に首を振る。


「悪いな。俺達はこのまま帰るから二人で行って来てくれ」


「ん?いいのか」


その言葉に康仁は目を瞬くものの、横で欠伸を噛み殺す円佳に納得した表情で肩を竦める。


「なら、俺と倖人は飯喰ってから帰るわ~」


「そうしてくれ。俺達はこのまま帰って昼飯を食ったらそのまま仕事まで寝る」


康仁の気遣いに“すまない”と思いながらも将義はため息を吐く。ただの高校生でしかない自分達は日夜巻き起こる騒動を鎮めるために日夜奔走する。自然を操る力を持つがゆえに自分達は持たざるものを守り、それを悪用する人々を取り締まるのだ。自分も相方も国に集められたいわば生け贄兼人質。そう分かっていても非力な自分達が国に抗える筈もなく、ただ自分達は遥か昔に課せられた役目を果たすためにここに存在する。


「そうだね…それがいいかもね…」


将義が苦いものを噛み殺しているとは知らない倖人が自分の背中越しに円佳を伺う。今もパチパチと目を瞬いてなんとか起きてはいるが放っておくとすぐに眠ってしまうだろう。倖人の言葉に康仁も将義を見る。


「なら、俺達は飯食ってから帰るわ。お先」


「ああ。助かった」


「じゃあね、将義。円佳。また後でね」


「ああ」


自分の言葉に身を翻した康仁と倖人がヒラヒラと手を振って去って行くのを見送った将義は“さてと“今にも目を閉じてしまいそうな相方に目を移す。


「とりあえず、俺達も帰るぞ」


「ん~」


その言葉に生返事をあげた相方が凭れていた校門から体を引き剥がす。そんな相方の様子に今にも眠りに旅立ってしまいそうな相方と二人。将義は寮に帰るべく駅に向けて歩き出した。

いつもお読み頂きましてありがとうございます。誤字・脱字がありましたら申し訳ありません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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