人は見た目が全て ─3─
この日の仕事は極楽だった。
男という男はほとんど皆、アタシの仕事を手伝ってくれた。
今までは当然のようにアタシが入れたお茶を飲んでいた部長でさえ、
『高木くん、疲れたやろ? お茶でも飲んで休憩しとき』
と、玉露茶を入れてくれた。
おかげで暇を持て余すくらいに、アタシはやる事がなくて逆に困ったのだが。
「アホか!」
ゆっくりとお茶をすするアタシの背後で突然部長の罵声が響き渡り、危うく湯呑みを落っことしそうになる。
「こんな単純ミス、今時小学生でもせぇへんぞ! 遊びとちゃうねんからしっかりしてくれんと困るんや!」
怒鳴っている部長の前で、顔を伏せ背中を小さく丸めているのは──── 元、アタシがいた世界では可愛いと有名だった、伊東 奈々。アタシはこの女が、大嫌いだった。
『いいからいいから。初めは誰だってミスするもんや』
入社して二日目に、部長が言った言葉。と言ってもアタシにではなく、奈々に。
奈々とは同期入社で、初めて顔を合わせた時は、なんて可愛い子なんだろう……と、女のアタシでも見とれたものだ。
サラッサラのストレートヘアに小さな顔。の割にはクリクリと大きな瞳が印象的だった。
アタシを見てニッコリと微笑む可憐な表情を、友好的なものと捉えたのはとんだ間違いで。
すぐに奈々は本性を現した。
『高木さん……麗美ちゃんって呼んでいい?』
そんな事を言われて断れる筈もなく。アタシは奈々の申し入れを快諾した。
『わぁ嬉しい! 今年の入社って私達ともう一人、なんか暗い男だけやん? 凄い不安やってん』
そう。この年、社員数50人の中小企業である健康食品を取り扱う会社『ムーン・アイランド』に入社出来たのは、アタシと奈々ともう一人、地味で冴えない男性だけだった。
なんの取り柄もない、美貌もない、スタイルだって良くもなけりゃ悪くもない。そんなナイナイ尽くしのアタシと。
小太り、チンチクリン、パッとしない、のんびり屋の男性。
必然的に奈々の引き立て役になったのは言うまでもなく。たちまち奈々は、ムーン・アイランドで大人気となった。