人は見た目が全て ─2─
翌朝。
いつもはしてもしなくても大差ないと思ってしていなかったメイクを施した。
鏡に映る自分の顔は、どうひいき目に見ても“おてもやん”だったけど。
「行ってきま〜す」
覇気のない声でママに声をかけ、いざ外へ。昨日は緊張でほとんど眠れなかった。
美人になった自分に、会社の人達はどう接してくれるのか。そんな事を延々と考えていたんだけど。今は不安で仕方ない。
元の世界に戻っていないだろうか。アタシはまだ綺麗なの?
そんな心配は、電車に乗る事によって更に増長する。
────見られてる。
突き刺さる視線。俯いたまま顔を上げれない。やっぱりメイクなんてしなきゃよかった。
いつも通りの時間の、いつも通りの車両。俯いているアタシには見る事は出来ないが、たぶんほとんどが同じメンバーなんだろう。
『ブサイクがなに色気づいてんねん』
そんな失笑の声が聞こえてくる……気がした。
駅につくとアタシは、一目散に駆け出した。
こんなメイク、とっとと落としてしまおう。トイレに入った足が、ピタリと止まる。
鏡の前には、メイクに勤しむ女子高生の群れ。しかも全員が手を休めてアタシを凝視していた。
クルリと踵を返すと、今度は会社に向かうべく駆け出した。
自動扉が開くのももどかしく、なんとか通れるだけの隙間が出来ると同時に滑り込むようにビルの中へ。
トイレはエレベーターの前を通って右手奥にある。アタシが勤める会社は、このビルの三階フロアだ。
どうか誰にも会いませんように……そんな願いも虚しく、
「おはよう、高木くん」
この声は────部長だ。
無視するわけにはいかない。そんな事をしたら、1ヶ月……いや、1年は嫌みを言われるだろう。
「お、おはようございます」
少しだけ顔を傾け、蚊の鳴くような小声で挨拶する。
「そんな下向いてんと、ちゃんと顔見せてえや」
いつものダミ声───アタシをネチネチと叱る時と同じ声で、部長は言った。
もう、どうでもいいや……
さあ、笑うがいい!
真っ正面から部長のテカテカと脂ぎった顔面を直視する。すると、
「高木くん……その顔……」
自分が見せろって言ったんだろ!と心の中で叫ぶ。
「いや〜今日もベッピンやなぁ! 目の保養にもってこいのベッピンさんやホンマ」
目尻をデレーッと下げて発した言葉は、とても嫌みには聞こえなかった。
アタシまだこの世界にいたんだ……
まだ綺麗なんだ!