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美意識過剰  作者: 桜木 葉
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妨害者たち ─6─

 



「も……もしもし?」


 声がつっかえて上手く出せない。


「あ、麗美ちゃん?」


「……はい?」


 耳に届く声は男性のものではあるものの、海原の柔らかに響く低音ボイスとは違っていた。



「俺オレ、峰岸。久しぶりやな、元気やった?」


 あまりの普通っぷりに、反射的に「うん」と返事をしてしまったが、最後に峰岸に会った時の屈辱とも羞恥とも言える出来事を忘れるはずはない。


 ホテルに誘われ、そのまま逃げるように去ってからは、一度も会う事も連絡する事もしていなかった。その彼が今更なんの用があるというのか。



「あのさ、こないだ、さ。……ごめん!」


 その場で頭を下げている姿を想像出来るほどの勢いに、アタシは返事をする事も出来なかった。それでも峰岸は構わず続ける。


「昨日、朝倉に偶然会ってんやん。俺、朝倉の事も麗美ちゃんの事もすっかり忘れてしまってたんやけど…… 俺ら同級生やってんな? あいつに言われて思い出した。ほんでそん時ゆうててん。麗美ちゃんが今時珍しいくらいに純情やって。何て事してくれたんや! どアホ! ってメッチャ怒られた」


 朝倉とは凛の事だ。凛はたまたま会った峰岸に、ホテル事件の事を食って掛かってくれたらしい。そして謝りの電話をしてきた、という理由(わけ)だ。




 そもそも、アタシには人を許さない、といった選択肢はない。少なくとも今までは。


 ブサイク人生において、理不尽な思いは数え切れないほど経験してきた。その中で、数少ない、”謝罪する人“ に出くわせば、たちまち許してしまっていた。何故なら、傲慢な態度は美しい人間だけに許された行為だから。


 ブサイクが傲慢な態度を取ろうもんなら、一瞬にして嫌われる。それを周りにいたブサイクな人々から沢山学んできたアタシには、「ごめん=いいよ 」一択しかなかったのだ。



「うん。もういいよ」



 美人になった今、許さない、という選択肢が増えた。でもアタシは…… やっぱり無理だ。



「いいん? ────良かった~。ほんま、ごめんな」


「もうわかったよ。いいって」



 あの時は、アタシにも隙があったと凛にも言われた。まだ美人に不慣れだったせいもあり、余裕もなかったのだろう。


 結局何もなかったんだから、もういいや。こうしてわざわざ電話してきてくれたんだし。



 昔とは違った意味で人を許せる余裕が出来たアタシは、本心からそう思えた。









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