初めての彼氏 ─5─
若干前のめりになっていたアタシと海原の顔、距離にして約20cm。一気に近付いた焦りで、反射的に首を後ろへ反らそうとしたアタシの頭を、そうはさせまいと海原が支える。
そしてさらに顔を近付けてくる彼に、「キスされる!」とアタシの頭の中はとんでもないパニックになった。
「……そんなに意地悪ゆうんやったら、その可愛い唇ふさいでまうで?」
そう言って悪そうな笑みでアタシに言う海原こそ本当の意地悪だと思ったが、そんな事を口に出す余裕さえなかった。
アタシがパニックに陥っていると、小気味よい音がパーンと響くとほぼ同時に、海原が頭を押さえ痛がる。
「いっ……たぁ……」
「か、海原さん!? どうしたんですか!?」
何が起こったのか分からずオロオロしていると、
「おいマサ、可愛い後輩に何さらしとんねん」
と、店主が盆を手に立っていた。恐らく、これで叩かれたのだろう。
「おっさん……なんやねん。」
頭を擦りながら振り返り、渋い表情で文句を言う海原。
「俺の店で何しようとしとんねや。彼女びっくりしとるやないかい」
「いや……冗談やん! 意地悪ゆうてくるからちょっとやり返したろうと───」
「アホか! んなもんピーマン食べへんお前が悪いんやんけ」
「あ、そういえば…… おっちゃん俺がピーマン嫌いな事……」
「おう知っとるわ。せやけど綺麗な姉ちゃんとやったら食べれるか思て出したったんや」
要するに、一番意地悪なのは店主だったというわけか……
一悶着ありつつも、また今日も美味しい料理を沢山出してもらって、アタシはとても気分よく酔っていた。アルコールにも、彼にも。
ようやく一段落付いた店主が、またシャーベットを持ってきてくれる。今度はカシスオレンジのシャーベット。
「だから俺には?」
諦め混じりで海原が言うと、彼の前にもコトンと同じシャーベットが。
「え…ええの?」
言ったはいいが本当に置かれると少し動揺してる海原が可愛い。
「今日だけや。俺からの祝いのシャーベットや。甘酸っぱい恋の味やで」
店主のセリフに、私達は顔を見合わせる。
「なんや、バレてないと思っとったんか? 自分らバレバレやで。なんやようわからんけど、オーラ? みたいなんがビシバシ出とったわ。───付きおうとんやろ?」
は……恥ずかしい。恥ずかしすぎて何も言葉が出てこなかった。すると海原が、
「うん。今日からこの子、俺だけのもんやで」
もう……ダメ。キュンキュンしすぎてダメ。恋愛って、こんなにも疲れるものなんだと、初めて知った。
「まあ、仲良うな」
二人の世界にまた引き戻されたはいいものの、今度は緊張から何を話せば良いのかわからなくなる。
こんな調子で毎日を過ごすなんて─── 想像しただけで無理だと思った。




