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美意識過剰  作者: 桜木 葉
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初めての彼氏 ─3─

 


 この日はさっぱり仕事にならなかった。なんとも言えない高揚感と、まだどこか夢の中にいるようなフワフワとした感覚が、あまりにも現実味がなく他人事のように思える。


 それでも定時にはデスクの上を片付け、気が付けばロッカールームにいたのだから、習慣とは怖いものだ。


 冷やかしの言葉や祝いの言葉、ニヤニヤと眺めてくる視線や羨望の眼差し。それを全て受け止めながら、例の換気扇の側のベンチまで辿り着くと、そこには先客がいた。



「海原くん、とうとうゆうたんやなぁ」


 四ノ宮が嬉しそうにそう言うと、ようやくジワジワと嬉しさが込み上げてきた。


「なんか……夢見てるみたいです。本当にアタシ……彼氏が出来たんですよね?」


「そりぁ、あれだけ皆の前で宣言してたんやからなぁ。けど、別れられへんな?」


 上目遣いで少し意地悪そうに言う四ノ宮に、アタシは必死で反論する。


「別れるわけないじゃないですか! あんな素敵な人と……」


 言ってるそばから恥ずかしくなり、顔が真っ赤になっているのが自分でも分かった。


「初めての彼氏が海原さんなんて……幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうです」


 一人、顔を両の手のひらで覆いながら悶絶していると、四ノ宮が豆鉄砲を食らったような表情でアタシを見てきた。



「……は? 初めての彼氏?」



 そういえば四ノ宮には言ってなかったっけ?


「はい。アタシ、今まで誰ともお付き合いした事がなかったんで」



 四ノ宮の叫び声が、人もまばらになり始めていたロッカールームに響いた。









 着替えを済ませロッカールームから1階へ降りるエレベーターに乗っている時も、まだ四ノ宮は、


「うそやろ? こんな美人が付き合った事ない? 20年間?」


 と呪文のように呟いていた。アタシはただ、苦笑するしかなかった。


「────? って事はアレ? まさか……生娘?」


 妙に古めかしい言い方をする四ノ宮が可笑しくてつい笑ってしまうも、聞かれている内容は『生娘』には生々しく、再び頬を赤らめながら、ただ頷いた。


「はぁー…… こんな超絶美人彼女にして、しかも生娘かぁ。こりゃ海原くん、事故にでもあうな」


 不吉な事を言う四ノ宮に、反論すべく口を開きかけたその時。




「誰が事故にあうって?」




 声の方へ顔を巡らせると、優しげに微笑む海原がそこにいた。





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