アタシが……美人!? ─2─
まだ喚いているオトンを余所に、アタシは二階にある自室に入り、ホッと一息ついた。
そのままベッドに倒れ込むと、今日起きた不可解な出来事を振り返る。
朝、ママに着付けをしてもらったアタシはヘアメイクをする為に美容院に行った。
そこで華麗に変身! するでもなく、ちょっと小綺麗にはなったものの、到底美人とは言える代物ではなかった。
そこから駅まで向かう途中、三軒隣のオバチャンに偶然遭遇。その時も、
『まぁまぁ麗美ちゃん、綺麗な“振り袖”やねぇ』
と無遠慮に言われ。
会場で会った凛は男達の視線を独り占め。勿論アタシには誰も見向きもしなかった。
帰りの電車でも……
帰りの電車……
そういえば……
アタシはガバッと起き上がると、部屋の隅に置かれた紙袋の中身を確かめる。全ての物を床に並べると、まだモヤがかかっていた頭の中が、クリアになった気がした。とは言っても、不可解極まりない事には変わりないのだが。
2つのうちの1つを手に取り、マジマジと眺める。
「割れて……ない」
確かにあの時、陶器が割れたような鈍い音がした。階段から落ちた……予定のあの時。
なのに実際は、恥ずかしいまでのペアカップにはヒビすらなく、アタシ自身、掠り傷さえ無い。
白昼夢。そんな言葉が頭を過ぎった。
「夜やったけどね……」
軽口を叩いてみても、心までは軽くならない。こうなったらこれ以上、落ちた落ちてないを一人討論会してたって仕方ない。次に進もう。
そう……その後、仕事帰りらしいサラリーマンがアタシをジロジロ見て行ったっけ。
それから───峰岸。
携帯を手に取り、アドレス帳を開く。たった10件の登録しかない、それもオトンとママと数少ない女友達だけだったアドレス帳に今日、初めて男性の名前が入った。それも、初恋の君。
ほぼ強制的だったにしろ、アタシにとっては衝撃の出来事だ。
『今度飯でも一緒に食べようや』
そんなセリフに、『あ、ようするにアタシは金づるか』と瞬時に思ってしまったのは、彼氏いない歴20年女の悲しい性。
『いい店知ってんねん。ご馳走するわ』
こんなセリフに、『ご馳走した後に妹の手術費用が必要やねん。300万……とか言うんやろ』と瞬時に思ってしまったのは昔、峰岸に言われた酷いセリフを忘れてはいないから。
それでもほんの少し、少しだけ期待してしまうのは……
5年の間に散々傷付いたアタシにもまだ、人を信じたい、恋したい、綺麗と思われたい、という気持ちが残っていたのか──どうかはわからない。
でも初めて人から綺麗と言われた。それも、オトンとママと峰岸に。あ、三件隣のオバチャンもだ。
気紛れだったのかもしれない。みんなして騙してるのかも。それでも、キラキラと輝く宝石を手に取った時の様に心が躍る。
「アタシにも普通の女の子の部分があったんやなぁ……」
再びベッドに横になると、アタシは携帯を胸に抱いたまま目を閉じた。