美人は三文の得!? ─4─
鞄と携帯を持ち、2階の自室に上がろうとした時、『……風呂に…入って…く…』と、聞き取れない程の小さな声であからさまに背中を丸め肩をおとし、腕を前にブラーンブランさせながらリビングを出て行くオトンを見て、アタシはもう一度鞄を椅子に置き直して隣の席に座った。
「麗美、あんまりお父さんに冷たくしないであげて? 心配で仕方ないだけなんだから」
温かいほうじ茶を出してくれたママは、アタシの目の前の椅子に座り、言った。
「それは分かってんねんけどさー、ちょっとしつこ過ぎひん? いっつもモジモジモジモジしてるし」
オトンが心配性なのも、アタシの為なのも分かってる。だけど、アタシだってもう20歳だ。過干渉もいい加減うんざりしてくる。
ほうじ茶を啜りながら思い悩んでいるアタシを見て、ママが微笑みながら言った。
「お父さんね、昔からすごくモテたの」
まさしく熱いほうじ茶が喉を通過しようとした瞬間にそんな事を言うもんだから、変に飲み込んでしまって激しくむせる。
「あら、大丈夫?」
ママが渡してくれたタオルで口を拭いたはいいものの、 これ……台拭きやん。と途中気付いたが、もうどうでもよかった。
そういえば前から聞こうと思っていたんだ。
「ママさ、前からよく、『お父さんに似て良かった』ってゆうやん? オトンってさ、カッコイイん?」
いい機会だから聞いてみた。すると───
「何言ってるの? お父さんは今でも凄くモテるのよ。───だから余計に麗美の事、心配するの」
「え……だって───」
そう言われて、オトンの顔を思い浮かべる。
一重の腫れぼったい目。低く丸く横に広がった鼻。タラコが二つ乗っかったような唇……… それってアタシやーん! と突っ込みたくなるくらいに、自分の顔とダブった。
「あなた達、凄く似てるの。知らなかった?」
知らなかった。
「二週間くらい前だったかしら…… お父さんね、会社の女の子に刺されそうになったの」
「ふーん」
「はぁ!?」
シレッと爆弾発言をして茶を啜るもんだから、それがとんでもない事だと気付くのに数秒を要した。




