初恋の君 ─10─
「麗美!」
ハツラツとした声に振り向いたアタシは、相変わらずな凛の美しさに息を呑んだ。
シンプルなジーンズにTシャツ、黒のダウン。そんな簡素な姿にもかかわらず、まるでモデルのようにカッコイイ。
が……アタシは知っている。凛はこの世界では、ブサイクだって事を。
「久しぶりやなぁ、麗美。また綺麗になったんとちゃう?」
「え? そんな事ないよ」
一応謙遜してはみたが、今のアタシは自信に満ち溢れていた。
ジャージ姿でも綺麗だと言われたアタシが、髪型やら服装やらメイクやら、やたらと凝ってるのだ。綺麗でないはずがない。
「とりあえずどっか入ろか」
というわけで、アタシ達は待ち合わせ場所のすぐ目の前にあった小洒落たカフェへ入った。
「えぇぇ!? 麗美って処女なん!?」
「ちょ……バカ凛! 声がでかい!」
慌てて周りを見回すも後の祭り。そこにいた人という人は皆、驚いた顔でこっちを見ている。
「もぅ……知らん人達にまでアタシが処女やってバレたやん」
「ごめん。ってゆーか誰も麗美が処女なんて思ってないって!」
「何よ、どういう意味?」
上目使いで凛を睨みつけながらアタシは問う。
「だからぁ〜、麗美みたいな泣く子も黙る超絶美人が処女やなんて誰も思わんって」
───じゃあやっぱり……
「峰岸くんもそんな風に思ってたんかな……?」
一部始終を凛に話したアタシは、眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
「難しそうな顔しとっても綺麗なんやなぁ」
と凛に冷やかされながら。
綺麗になったと言っても、顔が変わったわけではない。けれど、アタシは周りから認められる美を手に入れた。でも、誰とでも寝ると思われるのは嫌だ。
そんな思いを察知したのか、凛は頬杖をつきながらこう言った。
「男の前では隙を見せたらアカンで?」
───隙?
「結界張っとくんや。私は簡単に身体許すような女じゃありません、って。こんなんゆうたら気ぃ悪くするかもやけど、男がその気になるような仕草してんちゃう?」
「そんなん……」
言いかけてアタシはハッとする。そういえば手を繋いだけど……
凜に告げると、
「そらぁアカンわ。好きな相手で抱かれる覚悟があるんやったらまだしも……ってか峰岸の事好きなん?」
ズバリ聞かれると、首を傾げてしまう。
あのドキドキは恋愛感情なのか、慣れない異性とのデートだからなのか。
自分の事なのに、いくら考えても答えは出なかった。
別れ際に凜は、
「麗美が男と付き合った事ないなんてビックリやけど……もっと色んな男と付き合って免疫つけた方がいいんちゃう? じゃないと騙されんで?」
そう言い残して帰って行った。
「免疫……かぁ」
溜め息混じりに呟くと、重い脚を前に出し、アタシは歩き始めた。




