初恋の君 ─9─
なのに……
『麗美ちゃんの口からそんなセリフ出るとは思わんかったなぁ』
意味不明な峰岸の言葉。
『セックスなんか挨拶みたいなもんやん。お互い気持ちよかったらそれでいいやろ。な?』
囁くような声にもかかわらずそれが聞こえたのは、彼の唇が後数センチでアタシの唇に当たりそうな位置にあったから。
『───っ!』
反射的に突き飛ばしてしまったアタシは、目を丸くして固まっている峰岸を残して、その場を走り去る。そうして一人、家に帰ってきたのだった。
電気もつけていない暗い部屋の天井を、ベッドの中からジッと見ていた。
───アタシ、そんなに軽そうに見えるんかな?
確かに今までとは違って、自分はこの世界では美人だ。さも色んな男をとっかえひっかえしているかのように捉えられていても仕方ない事なのかもしれない。
実際は彼氏いない歴20年。正真正銘の処女だというのに。
言い知れない虚しさを感じながら、再び布団をスッポリと被る。
───と。突然、携帯の着信を知らせる機械音が静寂をぶち破る。
暗闇に灯る青い光。
「びっくりした……鳴るんやったら鳴るって先にゆえって!」
驚いた自分に腹が立ち、思わず無茶な独り言が零れる。だがこんな事はしょっちゅうで、着信音に驚くたびにアタシは思う。
鳴る前に、『今から電話が鳴りますよ〜』と知らせてくれるとか。まあどっちにしても突然で、驚く事には変わりないか。
そんな風に考えている間にも、着信音は容赦なく続いていた。
「……もしもし?」
登録されていない番号からの着信に、声も慎重になる。
「もしもし麗美? 久しぶりやな!どうしてた?あ、今電話してて大丈夫?」
耳をつんざく元気な声に、アタシは携帯を慌てて離した。
「もしかして……凛?」
この間の成人式の時に、久しぶりに逢った中学時代の同級生の声だった。
「もしかしなくても私や! なんなん? この前番号交換したやん。まさか登録してくれてへんの!?」
まくし立てる凛に、アタシはオロオロするばかり。
そういえば……『赤外線しよう』という凛に、『そんなんアタシの携帯にはない』と即答した覚えはある。
『じゃあこれ、この番号にかけて!』と凛の携帯に映し出された番号にアタシが電話をかけて……
『今かけた番号、私のやから。登録しといてな』
うん、言ってた。
「ごめん……やり方わからんくて……帰ってから取説みようと思って───忘れてた」
言い終わると同時に耳から携帯を遠く離したアタシの判断は、間違ってはいなかった。




