素晴らしきこの世界 ─5─
「ねぇ、麗美」
そう言ってアタシの前の椅子をひき腰掛けるママ。食べる手を休めず、ん? と答えると、
「あなた好きな人が出来たの?」
唐突すぎるママの質問に、アタシはご飯を喉に詰まらせた。
「───っん……」
「ちょっと大丈夫!?」
お茶を飲み、なんとか落ち着く。
「ママが突然変な事言うから……」
「あら、変じゃないわよ? 最近の麗美、一段と綺麗になってきたし、今日のいっぱいの荷物だってあれ、全部洋服でしょ?」
さすが母親、色んな所をよく見ている。
確かに、今まで格好なんか気にせず生きてきた。ブサイクが着飾ったって無駄だから。そんなアタシが洋服や靴を大量に買ってきたら、驚くのも無理ないか。
「……好きかどうかはまだよくわからんけど……きっ、気になってる人やったら……おる」
想いを口にすると、改めて心臓がバクバクする。人に伝える事によって、一層何かが膨らんで行くのを感じた。
「ふふ、やっぱり♪ いいわねぇ若いって! あ、大丈夫、お父さんには言わないから」
人差し指を口にあて、ママがウインクする。いつまでたってもお茶目なママが、可愛くて仕方ない。
「ごちそうさま! 美味しかった」
残りのご飯を食べ終えると、手を合わせてママに礼を言った。そして、両手いっぱいに紙袋を持って二階へ。
バタンと足で部屋の扉を閉め、荷物を放り投げるように床に置いた途端───ピロピロピロ♪ とめったに鳴らない携帯が音をたてた。
なんの変哲もない電子音。着うたなんてものは設定していない。ほとんど鳴らないのだから必要もなかった。
「はいはい、ちょっと待って」
慌てて鞄から携帯を掘り出しディスプレイを見ると、思いもよらない名前がそこにあった。一呼吸置いてから、通話ボタンを押す。
「……はい」
「麗美ちゃん? 俺オレ! 詐欺じゃないよん♪」
不必要な程に軽快な峰岸の声が、逆にアタシを一気に緊張させる。
「今、話してて大丈夫? あのさ、今度の土曜ヒマ?」
気遣う素振りを見せながらも、勝手に話を進める峰岸。
呆気にとられたまま言葉も出ないアタシに、
「USJ行けへん? タダ券もらってん。ってゆうても俺、別にケチなんちゃうで!? それ以外のもんは全部俺が出すからさ、麗美ちゃんは身一つで来てくれたらいいねん。な? 行くやろ?」
機関銃のごとく話す峰岸に、アタシは「……うん」と応えるのが精一杯だった。
結局、峰岸のペースに呑まれて、土曜の朝10時に駅前で待ち合わせる事に。電話を切った後、アタシは小首を傾げて呟いた。
「そんなとこ一緒に行ってどないすんねん……」
そして、土曜日当日。




