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美意識過剰  作者: 桜木 葉
12/67

ブサイク=美人 男前=ブサイク!? ─1─

 


 エレベーターを待つ時間も惜しく、息を切らせて階段を掛け降りる。ビルの出入り口である自動扉を抜けると、ほんの数メートル先に、煙草をゆっくりと燻らせる海原の姿があった。



 素敵……



 思わず立ち止まり見惚れていると、海原とアタシの視線が交差した。


「ご、ごめんなさい、遅くなって」


 頭をペコリと下げるアタシに、海原は何も言わなかった。


 お、怒ってる? とハラハラしながら顔を上げると。呆気にとられているような海原の表情と出会った。


「あの……海原さん?」


「あ……ああ。ごめん」


 ハッと我に返ると、ニコリと微笑み彼は言った。


「あんまり綺麗やったから、見とれてもうたわ」


 ハラハラしてしたアタシの心臓。今度はドキドキと鼓動を速める。そんなアタシを知ってか知らずか、


「なんか食べたいもの、ある?」


 長い足を屈め、首を傾げてアタシの顔を覗き込む海原。このままでは本当に心臓が爆発してしまう。


「な、なんでも! 海原さんにお任せします!」


 直視する事も出来ず、俯いたままアタシは答えた。








「あ……これも……いい」


 アタシは目を閉じ恍惚の表情を浮かべる。


「な、すげぇだろ?」


 海原は、少年のように瞳をキラキラさせて言った。


 どこでもいいとは言ったものの、高級フランス料理店などをチョイスされていれば困っただろう。なにしろマナーも何もわかったもんじゃない。


 だが海原が選んだお店は、何の変哲もない……いやむしろどちらかと言えば、違った意味で敬遠したくなるくらいに、古く汚い店構えの居酒屋だった。


 カウンター席に並んで座ったアタシ達。差しで食事するより、むしろこの方が好都合だ。



 驚いたのが、料理の素晴らしく美味しい事!


 海原に任せた料理のチョイスも良かったのだろうが、きっと全てのメニューにおいて、味の保証はされていると見た。


「ほんっとに美味しいです!」


 旨さを存分に噛み締め、ようやく飲み込み胃袋に収まったモツ煮込み。

 苦手だった筈の料理だが、自分でも驚く程に美味しくいただけた。それを海原に伝えると、


「ここのモツは鮮度が抜群やからな。臭みが全くなくて食べやすいやろ?───店は汚いけど」


 最後の部分は小声で、囁くようにアタシの耳に届いた。が……


「汚いは余計や。───それより、女の人連れてくるなんて初めてやなぁマサ。しかもどえらいベッピンさんときた。お前一生分の幸運使い果たしてもうたなぁ」


 今まで寡黙を押し通していた店の店主が、カウンター越しに口を挟む。


「なんやオッチャン、地獄耳やな。紹介するわ、同じ会社の麗美ちゃん。去年入社したばっかりやねん」


「ほうか。まだピチピチか」


「そんな魚みたいな言い方せんとってや!」


「じゃあチピチピか」


「なんやそれ……」



 漫才みたいな二人のやり取りも頭の上を素通りして行った。海原さん今、麗美ちゃんって……


 下の名前を知っていてくれた事。そして呼んでくれた事に、アタシは驚きと喜びが入り混じり、頬が赤くなっていくのがわかった。


「あれ?麗美ちゃん顔赤いで? 飲み過ぎた?」


 言いながらまた、顔を覗き込むように見てくるもんだから。アタシは収拾がつかない程に茹で上がってしまう。



「いえ、あの……麗美ちゃんって……」


「あ、嫌やった?」


「そんな! 嫌なわけないです!」


「なら良かった。さすがに会社では高木さんって呼ぶけど、プライベートな時間ぐらい麗美ちゃんって呼んでもいいやろ?」


 コクコクと首振り人形よろしく何度も頷くアタシの頭を。


 ポンポンと優しく撫でるように海原は叩くと、「ちょっとトイレ」と席を外した。






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