After school of the world
マスターは私を抱えて地下室まで歩いた。
地下室についたあとも私はタヌキを離さなかった。マスターは家においていけといったが私は拒んだ。作業台の上に横たわった私の隣にはタヌキが寝ていた。マスターは体内からなくなった部品をかき集め私の修理を始めた。かすかに意識があった私ははじめてマスターと出会った時のことを思い出していた。私が目を開けるとマスターが笑っておはようと声をかけてくれた。大切な記憶だ。
私の体内をくまなく検査していたマスターは時折手を休ませては椅子に座った。息づかいが荒くなりマスターは苦しそうだった。
マスターも近いうちにあのタヌキのように動かなくなってしまうのだ。
マスターだけでなく、他の動物も、私もいずれ死んでしまう。怖い。悲しい。苦しい。
自分が死ぬ時のことを考えた。それはただ動かなくなるだけではなく、世界や自分との永遠のさよならだった。私がどんなに愛おしく思い、縋っても必ずその時が訪れる。
世界を知って、学んで、愛して、でも知れば知るほど、学べば学ぶほど、愛すれば愛するほど死の意味は深く重くなる。愛することは死を見つめること愛と死は別のものでなく表裏一体だった。
マスターが私を修理をしている間、私は音もなく泣いた。修理を終えマスターは椅子に座って動かなくなった。そしてそのまま寝てしまった。
私は泣いた。泣いて泣いて涙が枯れても私は泣いた。
「いつまで泣いてるんだい」
あれからどのくらい時間が経ったのか私は分からなかった。マスターは目をこすりながら笑って言った。
「私はマスターが憎い」
なぜ私を作ったのですか。誕生していなければ世界の素晴らしさを知ることも、死による 別れに苦しむこともなかった。
呼吸は乱れ私は作業台に寝たまま口を開いた
「私はマスターのことが好きです。それなのにあなたとお別れしなければいけない。埋葬なんてしたくないのに、こんなに胸の奥が苦しくなるのなら、心なんていらなかったのに、感情なんて必要なかったのに、私にそうプログラムしたマスターを恨みます。」
マスターは悲しそうな顔を浮かべた。