第8話 パーティの完成
ツヅキマサルって男ははっきり言えばジノミリア同様に、どうしょうもなく。僕は好きになることが無理なような感じがしたんだよね。だって、彼はほぼ裸だし、裸足だし。身元も分からない。
そんな人間をスミタ同様に、信じろたってどうする? 僕側になって考えて欲しいもんだ。
「寝言は寝て言えでござる!」
スミタも彼に吐き捨てながら、向かい合ったんだ。すると、マサルはへらっと表情を緩ませた。思いもしないことに、スミタも身体を引いちゃった。顔を引きつかせながら。
「いいから行こうぜ。いつまでもここってのも……ほら」
マサルは来た路への視線を向けたんだ、忌々しいといった表情を見せた。何があったか、何を見たかなんて僕にはどうだっていい話しだ。メアを、メアを探しに一刻も早く行きたいのに!
「都合も悪いし。時間も勿体ねぇったらねェしさ♪」
◆
彼が言うのは可笑しなことだった。でも、その話しをカエデは否定もしないで、横から訊いていた。一体、彼らがどこからの知り合いなのかも分からない。
「んで! 俺達ァーここまで走って来たって訳だ! どうよ!」
胸を張り、話しを終えたマサルが誇らしげに言うんだけど。どうだっていいんだよね。僕には。
「何か分からないちみっこはいねぇのか?」
「居るも何も。あんたさぁ~~そんな子供騙しの話しって。っふ! 幻覚でも見てたんじゃないの?!」
ジノミリアが噛みつくようにマサルに言い捨てた。そうだ、そうなんだよ。彼の話しはどこか絵空事なんだ。実感が湧かないんだ。僕もだけど、ジノミリアとーースミタにとっても同じだろう。
「はぁ?! 音を訊いただろう?? ばったばった、ってのを! それがあいつらの足音だってんだよ! 疑り深ぇ奴らだなァ~~‼」
「確かに。足音のようなものは……足音も、咆哮も訊いたでござる。が」
「が。何よ。がってのは」
「どうして。そのようなことが――」
すぅうう。
ぷっはァ~~……。
「そんな結果論を言い合ったってしょうがないじゃない」
カエデが煙草の煙を吹きながら、そう言い聞かせるように言うんだけど。彼が一番、興味なさそうで。何よりも焦燥感もなく、自身の目的のために突き進むっていう硬い意思すら見える。たった一人になったとしても、彼ならそれは実行するだろう。そんな感じだ。
「今がこっから出ることを考えればいいよ。お宅達は」
カエデの言葉に、スミタとジノミリアが顔を見合わせた。
「――……お主は。カエデ殿は出る気は――」
「ないね。自分には行かなきゃいけない場所があるんで」
「それは。拙者も同様でござる」
「子供は黙って出なさいって。あのどうしょうもない大人は自分が引き受けるから」
「おいおい! 勝手に同伴を決めるんじゃねェよ! 俺にだって――」
「お宅に人権はない。犯罪者なんだからね」
「まだ! 犯罪を一つだって犯していないのにか?! 横暴じゃねェのかよ‼ 手前ッッ‼」
カエデはマサルの身体を指さし、下半身と足元へと下していく。彼が何を言いたいのかを僕にも分かった。スミタとジノミリアも同様だろう。分からないのは張本人の――馬鹿だけだ。
「「「過剰露出」」」
声を合わせて彼にそのことを言う。
マサルは顔を朱に染めながら、喚いた。ウザいなァ。
「だーかーらー~~! この格好で召喚されたんだっての! まぁ、異世界でもこの格好で過ごしてたのも事実だが! 誰一人として、それを言って来た奴なんか居なかったぞ! つまりは普通ってこった!」
「こいつ。危ないからとっとと《警衛署牢》に放った方がいいんじゃないの? あんたも出たら?」
ジノミリアがカエデにそう言うも。彼は煙草を咥え直した。返事がないということはその気はさらさらないってことだ。頑固なもんだね。
「いい。逃げるようなことがあったら、ただじゃ、おかないし」
すぅうう。
っふ、ぅうう~~……。
「っざけんじゃねェよ! この陰険野郎‼ 早く、この手錠を外せっての!」
「外さない。さ、歩きなよ。好きなだけね」
「っこのォおお~~‼ いけすかない野郎だぜ‼」
マサルも歩幅を大きく開かせながら、前に進んで行く。その様子にスミタも思わず訊かずにはいられなかったのか。カエデに訊いた。
「お主達は――仲間ではござらぬのか? 仲がよくないようでござるが」
「仲がとか。そんなんじゃないよ、犯罪者を同伴に来ただけだし」
「うむ。何故に?」
「入り口に居たから来ただけだよ」
すぅうう。
っふ、ぅうう~~……。
「理由なんか必要なんかない。ただの偶然なんだから」
吐き捨てるカエデにスミタも。
「では、拙者達と一緒に同伴されては如何でござるかな? その犯罪人の監視も多い方がいいでござろうし」
マサルを指さしながらカエデに言うと、カエデも頬に手を置き。小さく頷いた。
「うん。その方が自分もお宅達を監視しやすいし。いいよ」
「「監視ッッ?!」」
「くっそ! 段々! 音が近くなってきているな!」
ジノミリアが忌々し気に吐き捨てた。確かに僕にもそれは、嫌というほどに分かるんだ。ただ、彼女と同調したなんかとか思いたくもない。
「うん。確かに」
すぅううう。
「あいつらは来ている」
ふぅううう~~……。
「空気が……変わってきているよ」
「なぁ~~にが! 変わってきているだぁ~~よ! んなもん誰だって分かるっての! なぁ! マサルよぉ~~」
「え。あ……うむ」
ガサ……ガサガサ――……。
「「「「!?」」」」
四人がいるのは霊園ーーつまりは墓場の真ん中辺りだ。壁の髑髏が淡く光りを灯して辺りを見せる。ただ、その光りも薄暗くて見え辛い。
「怖いねぇ。お化け出そうじゃないか」
「出てるんだよ! 来るとき、奇妙なモン見たじゃねぇかよ!」
淡々に言うカエデにマサルが噛みつくように言う。そして肩に、腕を回して頬を突くマサルに、怪訝に煙を吹きかけた。
「‼ っげ、げほ! っごっほ! お前ぇ~~‼」
「お宅が悪いでしょ。気色悪ィったらない」
「何だよ! この野郎‼ あ~~煙草の煙苦手なんだよ! あ゛~~煙いぃ~~」
「お宅が悪いでしょ」
マサルの頬をつねりながら笑っていたような気がしたんだけど。そんな気がしただけだったようで。真剣な目つきで辺りを見渡していた。
「ねぇ。スミタは――攻撃系? 癒し系?」
「拙者はどちらも――……と言いたいでござるが。攻撃と防御のみ。いや、うむ。その二点だけであれば《佃田》では最強でござる」
「そこ以外では? 最強なの??」
「こう言ったら。アレでござるが……」
言い淀むスミタにカエデが言う前に。馬鹿が訊き返した。横からちゃちゃをいれないでもらいたいんだけどね。
「お前ってさ~~」
「何で……ござるか? マサル殿」
ずい、といつの間にか膝を折ってスミタと視線を合わせた馬鹿の顔を、僕も胸の中から伺い見ていた。今居るメンバーの中で一番――幼いような印象だった。一番、幼いのはスミタだとは思うんだけどさ。
「今、居る国で――化け物扱いされていない?」
飄々と訊くマサルの鼻先に《黒鉄》を向けた。いつの間に鞘から抜いたんだが。
「されぬ! されたことなどないッッ‼」
「ふぅん? いい人ばっかよかったじゃんか。羨ましい限りだわ!」
バン! とスミタの頭部を叩いたかと思えば。マサルが眉をしかめた。
「おい! カエデよぉ!」
「何? お宅に呼び捨てにされる覚えはないよ」
「拘束具を外せよ!」
ジャラと両手を上げてカエデに嵌めれた拘束具を見せた。見せられたカエデも、舌打ちをして煙草を吹かした。
すぅううう。
ふぅううう~~……。
「俺は人間じゃないんだよ!」
「嘘を吐くなら。もっとましな嘘を吐くといい」
「これ! 何か変な素材で出来てんだろう?! 俺の言うことを身体が訊かねぇんだよ!」
「その為の。拘束具だしね」
平行線を辿る会話にジノミリアがしびれを切らしたのは。この会話でだ。
「いいから! 言う通りにしなよ! 戦力は大事だろォううがぁ‼」
歯を剥き出しにカエデに言うジノミリアに、言われたカエデは眉間に親指で突きながら。目をつぶってしまう。いやいや、そんなに悩むことじゃないから! 早く、解けよ‼
「……――カエデ殿。もし、拘束具を外し、彼が逃げようとしたのなら。拙者があらゆる手段を用い、彼を連れ戻すと誓うでござるよ。この約束ならば。お主のせいだけにはならぬ。自身を咎めることも必要とせぬでござろう? 如何でござろうか?」
「はぁ?!」とスミタの言葉にマサルの顔に大粒の汗が伝い、声を裏返させてしまっていた。流石の彼も、スミタの怖さを無意識に分かっているようだ。いや、彼だけが最初っから。
スミタの正体を見抜いていたんだから。
しかも、未だに。そんなスミタの正体をカエデも、ジノミリアも気づかない。もしかしたら。スミタとマサルは同じ種族なのかもしれない。だからこそ――無意識に気がついたんだろう。
「仕方ないな。っち」
「舌打ちすんなし! この野郎‼」
「っち」
「さぁ! 俺の拘束具を解くがいい! この野郎‼」