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第7話 彼たちとすみ田たち

 二人は霊園を通り抜けながら進んで行っていた。

 もちろん、見渡すは古びた墓が並んでいるよね。

 髑髏が埋まった壁から漏れる光りは淡いし。


 余計に怖さを強調させている。


「スミタ。何か、寒くない?!」


「いや! 拙者は寒くはないでござるよ」


 ジノミリアは両手をクロスさせて。

 二の腕を掴んで、身体を震わせた。

「こんなに……こんなに、寒いのに?!」

「? いや。うむ」

「信じられない! もぅ‼」


「うむ。済まぬ」


 ジノミリアの剣幕に、スミタもどうしてだが謝ってしまう。

 謝る必要なんかないのにね。

「あー~~もう! 行くわよ‼」

 ジノミリアは声を強張らせながら。

 スミタに言った。


「! ぅ、うむ!」


 スミタも素直に頷き一緒に走ったんだ。

 そんな二人の足音とは違う音は。

 本当に、増えていっているようだった。


「「――……ッッ‼」」


 二人も息を詰めて。

 生唾を飲み込んでいる。

「も。いいんじゃない? 足音も、遅いようだし」

「む? そうでござるか??」


「ええ。多分、あいつらは――走れないのよ」


 ゆっくりと、足をジノミリアは止めていく。

 それにスミタも、

「それも、そうかもしれぬな。所詮は――遺体でござるしな」

 小さくため息を吐いて。

 にこやかにジノミリアを見た。


 っだっだっだっだ!


「「‼??」」


 安堵していた二人に、僕にも。

 走る音が聞こえた。


 ものすっごく、勢いよく。


「「走って来たッッ‼」」


 声を合わせて二人は叫んだ。

 そんな悠長なことしていないで走って!


 ――逃げてッッ‼


「‼ っむ! ジノミリア殿‼ 行かねば‼」


「あ! っそ、そうだね!」


 でも。

 

 ――‼ 足音がっ! もうそこまで来ているよ‼ スミタっっ‼


 僕は状況を、彼に教えた。

 スミタが動こうと促したときだよ。


「「‼??」」


 薄暗い中に。

 二つの影が浮かび上がったのは。


「ぅお! 待て待て! おい!」

「? 何?」

「何じゃねェよ! こ・れ・だ・よ! こ・れ‼」


 二人とも男だ。


「? これ?」

「はァ?? 見えねェのかよ?? はァ??」


 怪訝な声が前に突き出された。

 

「ぁ、あんたたちは……誰?」


 ジノミリアが、彼らに訊いた。

 訊かれた方も。


「自分たちが誰って。その前にお宅らが言うべきじゃないの?」


 素っ気なく吐き捨てた彼に、

「うむ。それもそうでござるな」

 スミタも頷いた。


 何で、そんなに受け入れられるのかな?

 スミタってば……。


「拙者は――伊井すみ田でござる!」


  っだ、っだ、っだっだだ。


「! 少し、増えたようでござるな!」

「っそ、そうなの?? あんた、耳いいのね!」

 スミタにジノミリアが誉めるように言った。でも、それは誉めている訳なんかじゃない。むしろ、そうであって欲しくないという気持ちがこめられているようだった。

「っかー~~! これだもんはなァ~~‼」

 後から来た人間の男の二人の内の一人。特徴は質素の薄い髪に、頭部にまとめられた髪なんだけど、その紙は首元で括り、それを上にあげて留めているっていう方がいいのだろう。

 後、あれ? 手首に何か嵌められている。拘束具だ。どうやら彼は犯罪者のようだ。

 しかも、服は着ていない。いや、腰にタオルを巻いている程度だ。しかも裸足。

 何処かの監獄から脱走して来たというなら、納得もしてしまいそうだよ。


「何が? お宅の言う意味が分からないんだよね、自分は」


 仲間の一人でもあろう男は切れ目でーああ、最初の男も切れ目だけど。この彼とは違うんだ。そうそう、どちらかといえば勝気な意思の強い目だ、メアとは似ても似つかないのに、どこか彼女を思い出させる――心が落ち着かなくなる目だ。

 そして、もう一人の目はどちらかというと――何もかもを見抜くかのような眼光の強さだ。彼はもう一人の彼とは違い、頭半分高くて。伸びに伸びた木だ。しかもひょろ長いやつだ。

 服装はあの腰布と違って、きちんとしたスーツに、コートも羽織っていた。どちらも真っ赤な色をしているけど、似合わなくもない。むしろきちんと着こなしている。似合っているんだ。

「俺はいっっっっっつもこうなんだよ! いきなり! いきなりだぞ?! サウナに入ったら異世界! ポンコツ魔術師が召喚の練習つぅのをしてて! あ゛ー~~‼ 本っっっっ当にムカつくったらねぇ!」


「ふぅん? で?」


「!? で? じゃねぇよ! お前は訊いてたのかよ!」

「訊いていたよ。だから、何だって言うんだよ」

「はァ??」


 仲がいいのか悪いのか。いや、どっちかと言えば、あまり仲がよくないようだ、いや、それ以前に親しくもないような面持ちにも見えるけど、僕にはどうだっていい話しだし、興味もないね。

 その様子を、スミタ達は茫然と見ていて、あ……走って行くんだ。うん、その選択も悪くはないけど。

「あの得体の知れぬ者共は放っておくでござる」

「ああ! そうだな! 頭痛の種になりそうだしな!」


「お前らもどう思う?? この馬鹿に何か言ってやってくれよ!」


 ガジャガジャ! と拘束具を鳴らしながら彼が、一緒にあろうことかついて来る。お願いだから、巻き込まないで欲しいんだけどなぁ。


「興味がござらぬ故! 同意を求めるのも止めて頂きたい!」

「そうだよ! くっだらねぇ内輪もめは二人で解決しろってんだよ!」

 スミタとジノミリアが、キツイ口調で窘めつように辛辣に言う。まぁ、僕も言いたくなる気持ちも分かる。

「何だよ! ちみっこ共は冷てェなぁ~~ったく!」

 唇を突き出して、そう彼が言うけど。僕もいい加減にどっかに行って欲しいとしか思わないんだけど、連れの彼もどにかしてくれないかな。


 っざ!


 スミタが足を止めた、僕も胸の中で大きく身体が揺れた。本当にジノミリア並みに、彼のことが大嫌いになれそうだ。

「お主が何者かはは知れぬ! だが‼ しかしでござる!」

 カチャ!ってスミタが腰から何かを抜いた。それは確か――武器だったような気がするけど。スミタは、この彼を威嚇をするようだ。


「お宅。武器所持の許可は得ているの? これ――刀って鋭利な刃のついた殺傷能力のある武器モノでしょ」


 ゆっくりと、歩いて来た彼が。スミタの武器を横目に煙草を咥えた。火を点けようとする彼にジノミリアも、

「止せよ。火なんか点けて爆発したらどうすんのよ! 馬鹿なの?!」

 険しい顔つきで、声を荒げた。にもかかわらず。カチ! と火を点けた。

「あんた! 馬鹿なのぉおお?!」


 ふぅううー~~。


「馬鹿なのもお宅達も同じじゃないの? こんなと一緒にされたいの?」

 彼が彼の拘束具を掴み高く持ち上げた。

「お主は何者なのでござるか?」

「スミタ。スミタ! っこ、このいけすかない男は! 《警衛官ルヴァドフォ》だ!」


 ジノミリアがスミタの腕を強く掴み、ひそひそ、とスミタに言ったけど。ダダ漏れなんだよね。

 彼は煙草を強く吸い、ゆっくりと煙を吹いていた。


「そ。自分は《警衛官》の一人。カエデだ」


 


 


 

  

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