第67話 だから、ひとりじゃない
ガタン。
ガタタン。
「ん……」
すみ田が少し身体の重みに目が醒めた。そこは狭い空間で。
嗅いだことのある匂いだった。
「? こ、ここ――……」
「!? スミタ! 目が醒めたのね‼」
「ジノミリア……殿? こ、ここは一体」
「さぁ? 目が醒めたら、僕たちは居たのよ」
「僕……達?」
目を擦るすみ田は見渡した。
すると、
「自分もいるよ。ほら、マサルも♪」
胡坐の中にマサルが顔を蒼白させて口をへの字にさせているのが目に入った。
状況が呑み込めないすみ田は自身の手を見た。
小さな幼い手だったことに全部が夢ではないと思い知らされた。
「……拙者は。任を果たすことが出来なかったのでござるか」
《黒アゲハ蝶》を取り戻すことが出来なかったことを思い出したすみ田は頭を掻きむしった。
その手をマサルが腕を伸ばして掴んで止めさせた。
「……お互いさ。何をしてたのかって考えるのは止そうぜ。すみ田……だよな? メゴじゃないよな??」
「間違いはござらぬ。拙者は伊井すみ田でござる」
「まずは休息が必要さ。そっから――また一からやり直そうじゃん?」
マサルがすみ田へと抱き着いた。その仕草にカエデの眉が大きく吊り上がった。
「安心をするといい。この話しを訊いたら――希望も湧くでしょう」
カエデは自身が見たことをすみ田へと伝えた。
その隙にマサルをすみ田から引き離して抱え直した。
エドガーが《グレース・セメタリー》自体を飲み込み。
眠りについたことを。
「……エドガー殿が……あの。済まぬが……あの場所を飲み込むなんて真似は出来るのでござるか?」
「出来たのでござるよォ。寝過ぎでござる、すみ田殿」
「!? むむむ?? ズッキーナ殿??? 声がすれど――」
「この駕籠の上でござるが。中に戻るとしようかァ」
ガララン――……
「悪い虫がマサルについては叶わぬ故」
「どっちが悪い虫なのかな? あとから出て来たでしょうが。お宅」
「だから何か? 拙者はマサルの初めての男でござるが?」
「!?」
カエデが目を丸くさせてマサルを見た。マサルは振り向くことをせずに身体が強張らせた。
その様子にカエデも。
「マサル。自分に何か言うことはないのかな?」
「っな……ないけどぉ~~」
「ふぅん?」
そう鼻先で一蹴するとカエデはマサルの顎を掴んで。
自身の方へと向けた、が。
「みっとも無い」
鬼灯奈落がマサルの頭を押さえて止めた。
そして睨み合う二人に挟まれるマサルは涙目になっている。
「人間になったのにぃ~~なんなのこれぇ~~もぉ゛~~‼」
それよりも駕籠と言う言葉にすみ田は、
「……駕籠、なのでござるか。ここは」
躊躇してしまう。
この姿で帰っても分かってもらえるのだろうかと。
「――殿……椿姫……」
ぎゅうぎゅう、と腹の中にいる客に《御猿の籠屋》もよたよた、と進んで行く。
しかし、彼の機嫌はいい。
旧式であるが故に滅多に乗ってもらえないことも多く。
倉庫の暗い中に格納されていたから、安い運賃ででも、乗せることが嬉しくて堪らなかった。
だから、話しもしたいし。
だから、話も訊きたいし。
『おお。この匂いは《佃田》のあの客人じゃな?! 旅行の方はどうだったのじゃ?? 儂に何か一つ話しを訊かせてくれまいか?』
それが旅の客を乗せる喜びだった。
家に戻るまでが《旅行》だから。
「『ええ。本当にあった怖い話しをしましょうか♪』」
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