第61話 エドガーのメア
「他人にママの命を絶えさせることは出来ないよ」
すぅうう。
ふぅううー~~……
「それをしなきゃいけないのは――自分だけだ」
カエデは煙草に火を点けて、煙を吹かしながら言った。少し、言葉は強張っていたけど、彼の決意は本物のようだ。でも、この場面は――僕も、どこかで身に覚えがある。
えぇっと。どしてだろう。この感じは。
◆
『エドガー。メアは……メアは――』
◆
思い出せない。一体、どうしてこんなに苦しくなるんだ。一体、どうしてだろう。
「ママ。お願いだから――塵になって」
『はァー~~?? 手前がオレの相手をするって? 坊や。オレに勝てると思ってるのかなァ』
僕が混乱している中でも二人の探り合いと、言い合いは続いていた。
(スミタ……逃げた方がいいんじゃないのかな?)
スミタに僕は言った。こんなところで立ち止まることは出来ない。僕は。僕は。
「逃げ出す訳にはいかぬ。あの者を、野放しにも出来ぬ。あの者は――敵でござる」
僕の言葉にスミタが言い返した。
そうスミタなら言うだろうなとは思っていたし、だから、僕も言い返すこともしない。
でも、このママと戦ったところで。
「……勝てるのかな。カエデは」
「ああ。あいつは勝よ。勝ってもらわにゃあ~~ダメでしょうー」
声を出してしまった僕に、あろうことかマサルの奴が言い返してきたんだ。しかも、ひょうひょうと、満面の笑顔でだ。ちょっと、腹立つな。やっぱり、こいつは嫌いだ。
「でも。その前に――崩落されたら。僕たちが死ぬわよ」
ジノミリアも腕を組んで言う。
「加減をママがしてくれるのかしら」
そうだ。相手は《屍》のようなモノだ。感情も、常識も。
すでにないのと同じだ。そして、それに――愛情はどうなんだろうか。
「マサル。自分は拙者が守るでござるよォ」
「……あんがと。でもさ。出来れば――ここの連中も守ってくれよ」
「訊けぬ」
そう断言をするズッキーナに、マサルの奴も苦笑交じりに言う。
「なら。絶交かなー」
「? 絶交とは……なんでござるかァ?」
「ぅんー~~……口利かないってことかな? 永遠に。会わないってことだよ」
ざわ。
ざわわ。
ズッキーナの髪が逆立った。目も丸くなっている様子に、ショックだったんだなぁと僕は思ったんだ。それが証拠に。
「すみ田殿。何か、いい案はござらぬか??」
「如何なる――いい案でござるかな。鬼灯殿」
「ママだけを封じる方法でござるよ!」
ズッキーナの言葉にスミタは顔を横に振って、すぐに顔を手で覆った。
「『あるわよ? あるけど……それをする《代償》はどうするの?』」
スミタの声がメゴのものに変わった。そんなことお構いなしにズッキーナも呟くように言う。
「《代償》――……《対価》か」
ズッキーナはジノミリアを見た。それに気づいたジノミリアは肩をすくめて、両腕を横に広げた。その女は大して役に立たない。メアみたいな力があるわけでもないのに。
◆
『……エドガー。メアの最初の最後のお願いを訊いて欲しいんだ』
◆
こんなときにメアがいたなら。きっと、この状況を変えてくれるはずなのに。メア。君は一体、どこにいるんだよ。会いたいよ、メア。




