第6話 這い寄る恐怖
古い墓地でもある――ここ《グレース・セメタリー》を訪れたのは。
人間の少年と、人外の彼女。
「ん? この裂けた場所の下――明るいわよ?」
「む? つまりは、吹き抜けになっておるということでござるか」
「ええ! そうよ! スミタッッ‼」
喜々として応えるジノミリアをスミタが見て。
軽く頷いた。
そんな彼の様子に、ジノミリアも。
「行きましょう? 人間さん♪」
「うむ!」
っちょ!
ちょっちょおおお!?
躊躇なく飛び降りる二人の行動力に。
僕は圧巻してしまう。
驚きだよ。
今の時代の人間や人外は。
全員がこんなにも命知らずなんだろうか?
「少しばっかし! 狭いで‼ ごっじゃるなァ‼」
っだ!
っだっだっだ!
壁を蹴飛ばしながら。
裂け目の岩を踏んずけながら、スミタが下り進んで行く。
器用にもね。
「仕方が! ないじゃないか! っと! ぅわ゛‼」
言いながら続いていたジノミリアが。
身体のバランスを崩した。
喋りながらの片手間で行けると思ってるのかな?
馬鹿だね、ジノミリア。
「ジノミリア殿ッッッッ‼」
「っす、スミタ!」
先に下りていたスミタが。
上へと岩を踏みながら、ジノミリアへと腕を伸ばした。
「スミタ!」
「ジノミリア殿ッッ‼」
二人の手が合わさり。
スミタはジノミリアの身体を自身へと合わせた。
「人外とて女子でござるな」
「‼ ぅ、っさいわよ!」
頬を膨らませながらスミタに歯を剥き出しに。
ジノミリアが吐き捨てる。
「それでは。改めて! 降りるでござる」
「ええ!」
たっっっっん‼‼
二人は上手く着地が出来た。
やっぱり。
あの裂け目は吹き抜けだったんだ。
辺りを見渡していると。
髑髏が埋まった壁が光り出した。
カカカカカ‼
「む、むむむ!」
「また光ったわね。古代の力ってば半端ないわね!」
「うむ。そのようででござるな」
辺りを見渡せば。
「「大量の墓石」」
眉を潜めながら。
小さく漏らしたスミタとジノミリア。
うん。
ここは――《グレース・セメタリー》なる墓場だ。
当然じゃないか。
ぽたぽたぽた……。
ぽた――……。
ん?
僕の耳に微かに。
何かが滴り落ちる音が聞こえた。
嘘だ。
あれは――消滅した、はずだもん。
落下したときに。
でも。
ごきゅ! と僕は息を飲んだ。
僅かに残った液体が。
膨張したのだとしたら?
この先。
「お主。大丈夫でござるか?」
僕達に――勝機は……。
「む? 大事にでござるか?」
――ぅ、うん。
ない、と言わざるを得ない。
その後も。
黙々と歩き進んだ。
「ふぅー~~! 結構、進んだでござるな」
「そうね」
「ふむ。思えば遠くに来たものでござるな」
スミタが宙を見上げて、ため息を漏らしていた。
僕はスミタに囁いた。
――何か。嫌な予感がするんだ。戻った方がいいかもしれないよ。
緊張したのか、上擦った言葉だと。
僕自身、思った。
「大事ないでござる! 何かあれば拙者が牙をむき、お主達を守るでござる!」
スミタの強い口調の言葉に。
僕は何て言えばいいのかさえ分からない。
「こんなところで立ち止まる訳にもいかぬ! さァ! 参るでござる!」
◆
って。
言って数分後。
「「ぅおおおおぅうう‼」」
二人は走っていた。
油汗を額に光らせて。
「っちょ!ちょっとォおおおうぅうう‼ あああ、あれはァ??」
「っせ、拙者がしっし、知るはずなかろう!」
っど、どっどっどっど。!
「「‼」」
静かな墓場に二人以外の足音が鳴り響いていた。
一人や、二人ではなく。
倍近い――足音だ。
こうなるまで。
なった経緯は、こうだ。
まず。
『? 何か、音がしなかった???』
異変には人外のジノミリアが気がついた。
スミタは顔を傾げていたんだけど。
すぐに。
『――……うむ。何か……こう。出て来てる……音が』
スミタも気づいた。
何かが這い出ているような。
その何かによって、地面が揺れ動いている感覚が。
スミタの懐にいる僕まで伝わる。
いや。
空気まで震えていたんだ。
『っな、何か――嫌な予感がすんのは僕だけか? あんたは?! スミタ‼』
声を荒げたジノミリアに、
『進むでござる! ジノミリア殿! 急いで、ここより離れるでござる‼』
スミタも声を荒げて、駆け出した。
そっからの。
暗い中を一心不乱に走る二人を。
ゆっくりと髑髏の壁も、光りを灯し点けた。
その光りに浮かび上がったのは。
緑の光りが奔る地面と、髑髏の壁だった。
『っこ、これはッッ?!』
『何かが――こう……侵食を、しているようでござる』
緑色の光りが。
満遍なく――ここ《グレース・セメタリー》に侵食していく。
それの光りは、スミタとジノミリアを避け。
目にも見えない速さで。
奔っていたんだ。
僕の悪い予感は、きっと――このことだったんだ。
恐らくの原因は。
と、僕が思いにふけっていたときだった。
ァああァああ゛ァアアアアっっ‼
静寂とは程遠い騒音が響いた。
それはまさに。
野獣の叫び、そのものだった。
「ァあああ、あんなの! 何かのドッキリで! 住民がからかっているんだ!」
「そのような! このような場所で待ち構えるのは! 大馬鹿でござる‼」
ゆっくりと迫り来る――それに。
二人は走る速度を上げていた。