第52話 元・彼たちの事情
目惚けながら辺りを伺いように視る。
そんなスミタに、
「ぁああー~~‼ スミタァ~~♪」
ジノミリアが勢いよく抱きかかえた。
「止せっての! 馬鹿女ァああ~~ッッ‼」
マサルが慌てて。
ジノミリアの腕からスミタを奪いとる格好だった。
「あ! ちょっと! マサルッ! あんた‼」
咄嗟のことでジノミリアの身体が横に。
大きく倒れてしまう。
「お前! 自分の握力を考えろよ‼ スミタの奴、死んじまうからッッ‼」
「っわ、分かってるわよ! っちゃ、ちゃんとセーブしょうと思ってたし!」
「嘘吐くなよ! 馬鹿女ッッ‼」
言い合う二人に、
「仲良くするでごじゃるよ。二人共」
スミタが、そう声を発した。
「! ああ……そぅ、だよな。うん、うん!」
マサルが喜びに顔を歪ませて。
言葉を震わせた。
「スミタ。身体の調子はどうなのよ?」
マサルがようやくスミタに。
確認するかのように訊いた。
煙草を吹きながら。
すぅー~~……
っふぅうううぅうぅ~~……
「痛いところとか――」
「身体の節々が……こう……成長期のように軋んでいるでごじゃる」
「か、身体が……変わってっから。そりゃあ、まー~~違和感があるんじゃねぇの? やっぱりさ」
「?? む????」
スミタが目を大きくさせて。
マサルの奴を視た。
ひょっとして。ひょっとして。
「む」
唇を突き出しながら。
自身の手を、抱かれてぶら下がって揺れる足を。
顔を触るスミタに、
「これで視るで良し」
ズッキーナの掌が鏡のようになっていた。
「っこ、この者は……何者でござるか??」
ズッキーナを見上げながら。
そうスミタが言う。
「? 何。拙者を覚えて無しでござるか? 自分は」
「――全く、でござるな」
息を積めて睨み合う。
そんな二人に、
「止せって! ほら。スミタ、俺は分かるかい? 俺はマサルだ!」
マサルがスミタの向きを変えて、顔を見せた。
「ま・マサル……殿?! 嘘を申すなでござる! マサル殿は体格のいい成人男性でござった! お主のような十代の少女で……は……!? お主! どうして、そのように薄い布切れ一枚なのでごるかァああ?!」
怒涛の言葉攻めに。
マサルの奴お顔も目が点って状態だ。
「本当に俺なの。都築マサルな」
「――……ま、誠なのでござるか? そんな……そんな悪魔のような所業が」
「あは! 俺が元々アレだったし。んで。そんな悪魔の所業をしたのが。このズッキーナだ」
そうズッキーナを指すマサルから。
スミタもズッキーナを見た。
「……っず――」
「鬼灯奈落でござる! そんなセンスの皆無な名がある訳が無し!」
「ふむ。鬼灯奈落殿でござるか。悪魔の名に相応しいでござるなぁ」
低い口調でスミタが言うと、
「その悪魔に救われた自分が申す台詞で無し」
さらに強い口調でズッキーナが言い返した。
「「…………」」
スミタは身体を掴むマサルの腕を解き。
地面へと降り立った。
ここでようやくスミタに実感したのかもしれない。
自身の身体の変化にだ。
見上げるほど高く見えるズッキーナと。
ジノミリアとカエデの身長差にもだ。
「ありがとな。スミタ」
「?? 何がで……ござるか? マサル殿」
「俺。お前のおかげで念願の人間にまっちまったよ。この性別が腹立つけどなwwww」
マサルが満面の笑顔をスミタへと向けた。
その笑顔に、
「え。どぅいう……ことで――」
スミタも訊き返してしまう。
「自分の魂を創生するのに必要だったでござるよ。仕方無し」
腕を組み式ながらズッキーナが。
スミタを見下ろした。
「犠牲のない成功が。この世に在る訳が無し」
「ぁ……拙者の為に、人間に??? 人間に????」
「あー~~気にしなさんなwwww 俺は人間になる為にこんな墓場に着ちまっただけだし。手間が省けてラッキーさ! いや。いやいや! マジでだぜ!?」
「しかし……しかし! マサル殿」
「いー~~から」
ぎゅっとマサルがスミタを抱き締めた。
スミタも腕を背中にしがみつかせた。
「お前も女だしwwww」
「?! っへ??????」
上擦った声を出すスミタに。
「ほれ。チンコないっしょ?」
マサルがスミタの股間を指で強く推した。
その指先に当たるはずの茎や玉がない。
男性器、そのモノがないということに。
どっと油汗が噴き出した。




