第51話 目覚めのすみ田ちゃん
『――シゲリン』
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『すいませんが。この刀を――預かっては頂けませんか?』
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顔から蛆を垂らしながら。
そう彼はオレに言ったんだ。
ああ、どうして。
思い出したんだろう。
◆
『ああ。いいぜ、いいのかい? オレのような悪霊に頼んだりして。この神剣が錆びちまねェか?』
『――……貴女で錆びてしまうようなら。私の元では炭となり果てましょう』
◆
女のオレなんかよかよっぽど女だったよ。
口が裂けても言わねェけど。
オレもどうしたっていうんだよ。
泣けるんなら、きっと、恐らく。
オレは泣いているだろうねェ。
『――……《クロアゲハチョウ》か。主人が……亡くなったのかい? 手前が啼いてんのかい?』
かちゃり、と剣を抱き締めた。
オレの姿も土まみれで汚れている。
栄光ある《警衛官》の制服もドロドロだ。
こんな姿――旦那や、あの馬鹿たちにも見せられないねェ。
『手前の主人の敵討ちは――してやるさ。少しでも話しちまった仲で、親しくもねェが。ここに死なない屍》を倒した猛者が居ると知った以上はッッ‼』
オレの顔に何かがドロリ、と零れ伝う。
手で拭えば、そいつァ~~真っ黒な血だ。
中には小さな蛆が蠢いている。
別にどうだっていいさ。
『あ゛っはァああ゛あ゛~~♥♥♥♥ 血が滾るぅううううッッ‼』
今一度、少しの平和を味わうがいい。
そのあとすぐに。
シゲリンを堕とした場所へと葬ってやろうじゃないかァ!
◆
「なぁ。ジノミリア、ジノミリアってば!」
マサルがジノミリアの肩に手を置いて。
左右に振った。
ここは《グレース・セメタリー》内部にある《楽園》だ。
さっきまでの騒ぎが嘘のように。
静まり返っている。
少し、寒いとか言って。
小枝を集めて火を点けてやがるし。
やりたい放題じゃないか。こいつら。
「何よ。うっさいわね、あんた」
「スミタの奴は? っへ、平気なのか??」
「あんなに血を吐いてんだから平気も糞もないわよ! もう、どっかに行ってなさいよ!」
ドン! とジノミリアが人外の腕で。
マサルの身体を吹っ飛ばした。
「っぎゃ! ジノミリアァああ~~ッッ‼ お前ェ~~‼」
木にめり込みそうになっているマサルを。
「止せ。拙者の心友を苛めるで無し!」
ズッキーナが手を広げて。
マサルの身体を宙に止めていた。
魔法とはじゃないく、これはなんなんだろうか?
「……? ズッキーナァああ??? っこ、これって――」
「む? 蜘蛛でござるよォ?」
「っぎゃぁアァアァアアアアァアアっっ‼」
さぶイボの立っているマサルを他所に。
「蜘蛛の糸に感謝をするでござるよ。マサル殿」
ズッキーナは蜘蛛に糸を吐かせて。
マサルの身体に巻きつけると。
一気に引いた。
その身体はズッキーナの胸の中に納まる。
「ほれ。蜘蛛は無害のもののが多いのでござるぞ?」
「……苦手なもんは苦手なんだよ! 馬鹿‼」
ズッキーナに抱かれながら。
言い合うマサルに、
「マサル。お宅は自分のだよ」
カエデが後ろから腕を伸ばして離させた。
「っぎゃ! 変態ぃいい~~‼」
カエデの手がマサルの薄い胸を。
わし摘みになっていた。
ふに。
ふにふにに。
「っひ! ひぃいいい~~‼」
ぞわぞわ、と身体を震わせながら。
バンバン! とカエデの腕を叩いた。
「離せ! キモい! キモいっつぅのォおお‼」
「そうだ。自分は離すが良し。嫌われにも磨きがかかるでござるぞォ?」
「――煩い。お宅には関係がないでしょう?」
すぅー~~……
っふ、ぅうう~~……
「マサル殿もはっきりと申すでござる。ざっくりと!」
「‼ ぇ……あ、あぁ~~ぇ、っと……」
「マサル殿??」
「カエデ」
小さなマサルの身体を抱え込み。
カエデは腰を下ろした。
そんなマサルの尻に当たる股間。
「……まず。勃起させんな。マジでない! あり得ないからぁああ‼」
「勃つものは仕方がないでしょう。自分も我慢してるんですけど」
「あったり前だわ! このボケ‼ ……――つぅか。本当に暴走しないで。今が今だろう? なのに、お前がそんな情緒不安定になっちまったらよ~~俺、殺されそうじゃん。真っ先にwwww」
ビク! とカエデが跳ね上がった。
「んなのヤダし。俺は人間の男に戻りたいんだよ。んで、ここにはそれが叶うものがあるって訊いたからついて来たんだ。だから、俺の為に役立てよ! んで、俺の為に死ね♪」
長く括られていない黒髪に。
カエデは顔を埋めた。
「ん。いいよ、死んであげるよ。だからお宅も――」
一枚のタオル越しにあたる。
カエデの股間の熱に。
「添い遂げてくれるの?」
ぶわ!
ぶわわわわっわっわ‼
「っむ、無理! それは無理! ぉ、男だもん! 俺は男だも~~ん‼」
泣き喚くマサルに、ズッキーナも。
「ほれ見よ。自分がきちんと言わずに甘やかした結果でござるよォ? 阿呆らし」
そう言い捨てると。
唾を地面へと吐き捨てた。
そんなときだった。
ジノミリアが声を荒げたのは。
「! スミタ?? 野郎共‼ スミタが起きたわよ‼‼」
感極まって大粒の涙を流し。
その涙が、スミタの顔を滑り落ちていく。
「ん……ぁ゛? ……――????」




