第50話 悪夢の連鎖
(私の何が間違っていたって言うんでしょうか)
◆
僕は痛々しい姿のシゲリンの心の中の声を訊いた。
とても、寂しそうでどうしてこうなったのかと、疑心暗鬼のように。
淡々とそう呟いていた。
でも、それから僕は耳が離せなかった。
僕は、この亡霊が何を想って。
この世界から散って逝くのかが。
知りたかったんだ。
◆
(私はただ……ただ。貴方たちと……貴方たちと違っただけで。同じ人間だったのに。どうして私だけがこんな目に合うんでしょうか。理不尽じゃないですか……あまりにも、理不尽ではありませんか)
◆
「……何を考えてんの? あンたは」
メゴは情緒不安定なシゲリンに向かって、そう吐き捨てた。
そうだ、心の声は僕にしか聞こえないんだから。
『いいえ。別に……貴方には関係がないことですよ』
ゆっくりとした口調で言うシゲリンに、
「ま。どうでもいいさ! しかしだよ? もしも、また動く真似をしてみろ? すみ田の手で逝けなくしてやるよォおお??」
メゴが口端をつり上げていく。
『ええ。それは困りますね』
軽く微笑むシゲリンにメゴは目を閉じた。
「さ。最後のお別れを――」
ヴォン! と音が鳴った。
そして。
「‼ っと! った、ったった!」
膝が折れてしまう。
額には大粒の汗が浮かび上がっていた。
ついには手を地面につけてしまう。
荒く息を吐く様子に、シゲリンが訊いたんだ。
『――……すみ田君。なの、かな? 貴方は』
「!? ンぁ゛!」
『そ……っか。うん、そうだね』
「あ? 『大丈夫でござるか?!』じゃねぇよ! 馬鹿野郎‼」
マサルがスミタの傍へと駆け寄った。
カエデとジノミリアも一緒だ。
しかし、ズッキーナは腰を下ろしたまま。
こちらを視ていた。
「敵を心配する前にお前が大丈夫かっての!」
「あ゛! んぁ゛!」
「ん? 『ゲージ満杯でござるよ!』たって。そぅかよ。なら、いっか」
「こら! マサル! 決着の邪魔よ! こっちに来なさい!」
「っだ! ぉ、おおぅい‼ 腕! 腕ぇ~~‼」
ジノミリアに腕を引っ張られて。
離されていくマサルの腕をカエデが掴み。
定位置に戻した。
「しっかりとアンタも固定しておきなさいよね! カエデ‼」
「うん。そうだよね」
すぅううー~~……
っふ、ぅうううー~~……
「少しばかり亭主関白にならなきゃね」
「ばっか! キモ! キモいー~~ッッ‼」
そう騒ぐ外野を他所に。
緊迫した空気が不穏に流れていく。
因縁同士が、こうやって面と面を合わせて。
最終的な敗者を決め。
因縁に終止符を打つようだ。
◆
(どうしてこうなったのかと悩んだところで。どうなるって言うんですか。私は、本当に後悔をしてきたことがないから。だから、こうなってしまったのかな)
◆
マサルが手を伸ばすと。
影から《クロテツ》が突き出て来た。
その柄に手を置くと、剣が鞘から抜かれた。
でも。
なんでかすぐに鞘へと戻して。
鞘ごと影から引き抜いたんだ。
「……げ、りん……ど、ノ」
『っふ! そんな攻撃しなきゃいけないほど、私が野獣に視えますかぁ?』
シゲリンの言葉にスミタが顔を横に振った。
そしてシゲリンを視ながら手を差し出した。
「か、ぇす……ござ、る」
『っふ! 私が頂いた《黒アゲハ蝶》はここの実力NO.1の悪霊に預けていますよ! でも、いいじゃないですか! 喜ぶべきでしょう?! 《蜜蜂》が戻ったのですからねぇ‼ 弟のしげ洸も喜ぶでしょうねぇええッッ‼』
「ヴぁ……ふぁろォ」
ジャキ! クロテツが剣の形状から銃へと変わった。
でも、でも。
それを使ってしまったら。
マサル。君は――君も死ぬ気なのかい。
その悪党と一緒に。
『名前だけは教えておいてあげるよォおお?? 強敵だからねぇええ~~??』
「な゛わ゛?!」
『舞姫殿』
ヴォオオオォォオオンンンッッ‼‼
至近距離の顔正面からスミタが放った。
その熱によってシゲリンは灰から塵へと。
目の前から、この墓場から姿を消したのだった。
今までが悪夢だったかのように。
「まぃ…姫……どの」
地面に落ちたミツバチの柄を掴み上げると。
影の中へと放り込んだ。
そして、そのあとすぐに。
「っぐ! アアぁあ゛ああ゛ァァアアッッ‼ ぇ、エエ゛エォ゛アぅ゛うう゛ッッ‼‼」
スミタは身体を丸めて大量の血を吐き出してしまう。
地面の緑を染めるほどの量の吐血だった。
「っか、っはァああッッ‼ ぅおァ゛おぇエ゛エ゛~~‼」




