第5話 階層ぶっちぎり!
それはスローモーションで。
僕の目には、ゆっくりとした動きで。
落下していく二人が見えた。
「あ゛!」
途中でスミタの胸元から落ちそうとなったんだけど。
それをスミタが押し留めた。
「っく!」
スミタは周りを見渡した。
「ジノミリア殿っっ‼」
「スミタ‼」
なくなってしまった地面から。
足が宙に浮いてしまっている。
「スミタ! 天井の穴の修復はいい! どうせ、ここは廃れた墓場だもん! 自分たちの安全を優先させて‼」
僕も、声を上げてスミタに言う。
それに、スミタも目を堅く閉じると。
「っきょ! 《経文式解除》 凍結! 全面停止っっ‼」
スミタの言葉に、またしても。
あの魔法陣が、スミタの周りに浮かび廻る。
「ぅ、っわぁアアアっっ‼」
腕を伸ばして落下していくジノミリア。
「ジノミリア殿ー~~ッッ‼」
◆
パチ!
「む??」
スミタが目を覚ました。
「スミタ!」
それに、先に目を覚ましていたジノミリアが声をかけた。
「あんた! 馬鹿じゃないの!?」
「む????」
突然、詰り始めるジノミリアに。
スミタの目も点になってしまう。
「この僕が! 人外の僕が‼ か弱くも! 脆い身体だとでも思ったの?!」
一方に、
「あんたのが! 僕よりも何倍もか弱いんだからね‼」
そうスミタに言う。
見て分かるような性格だから。
僕は彼女のことが。
どうしょうもなく。
好きにはなれない。
「――……大事ないで、ござるか? ジノミリア殿?」
息絶え絶えにスミタは、ジノミリアを心配するかのようだった。
「っあ! 当たり前でしょう! 身体の作りが違うのよ! 作りが‼」
「そうで、ござるか」
スミタは宙を見上げた。
ぽっかりと空いていて。
爆弾で赤く染まっている――外の様子も見えた。
「よかったでござる」
「ええ! 頑丈に産まれたことに感謝しなきゃね‼」
スミタが起き上がり。
顔を横に振った。
「拙者を助けてくれたでござるか?」
「しょうがないでしょう! あんたってば気を失っちゃったんだから!」
「忝い」
スミタは立ち上がった。
そして、辺りを見渡す。
「ここは――」
――結構、下の階層に落下しちゃったみたいだよ。スミタ。
「みたいで……ござるな」
どういうわけか。
当たりの天井部の岩の欠片もない。
「? ああ。なんかねー床だった石さー」
腕を広げて、ジノミリアが顔を横に振った。
「木っ端微塵に、きっれ~~いになくなちゃったのよ」
――恐らく。《グレース・セメタリー》の何かが発動して。自身の危機を排除したんだと思うよ。ここの場所には。何とも言えない――力があるからね。
腕を組みながら。
スミタはほくそくんだ。
「みたいでござるな!」
楽しそうな様子にスミタに。
僕はメアの顔を重ねた。
「お主は、この階層が何処か分かるでござるか?」
僕は素直に言う。
――正直。僕にも分からないよ。
「うむ。前進あるのみでござるな!」
「拙者らは、かなり上から――落下したようでござるな」
スミタが宙を見上げながら。
進むことに、ジノミリアが背中を蹴飛ばした。
ガン! と。
「いいから! 歩きなさいよ! スミタっ! あんたは‼」
「った、たたた! ジノミリア殿~~蹴らないで下されー」
「たっく!」
そう鼻息を漏らしながら。
ジノミリアも、宙を見上げた。
「どぉやって……上に戻るのよォー~~」
そして。
二人は途方に暮れてしまう。
◆
《グレース・セメタリー》は地下何重層にも深く。
また、深く掘られている――霊園なんだ。
途中の刑務所において。
さらに増築し。
アリの巣の迷路に入り組んでしまったことは。
言うまでもないだろうけどね。
そして。
そのアリの巣の中に。
アリ地獄に落下した二人がいる層は。
第三層――《キルヴァロウスの墓標》辺りかな。
「こんな奥まで墓もぎっしりって! 凄いってもんじゃないわね!」
「うむ。そうでござるな」
この層だけじゃなくて。
必ず――墓標毎に名前が在ることには理由がある。
その最も悪名高い人間を葬った後に。
魂が起きずに。
歩き始めない様に。
名前で、その場に括るように呪術を施しているからだ。
つまりは。
その霊園に名前がつけられている霊は。
最も、厄介な偉人に、怪人――名のある《骸》ってことなんだ。
「今なんかよりも。かなり進んだ技術とかがない限り。無理じゃないの?」
「うむ。拙者も、そう思うでござる」
悠長に話しながら歩く二人に。
(いいから! とっとと歩いてよ‼ 先に進んでよ‼)
僕は苛立ってしまう。
ぼた。
ぼたた――……。
そう苛立ってしまうことには。
もちろん。
理由があるんだ。
さっきの爆弾から漏れていた液体。
一緒に落下したものは。
キレイになくなったんだけど。
壁や墓石についた液体までは、キレイに無くならずにいた。
(お、落ちて来てる……途中で、蒸発? はしているみたいだけど)
ッド!
ォオオオオンンンっっ‼
「「ぅ゛っわァ゛‼」」
またしても。
激しく左右に揺さぶられる。
僕が怖いのは爆発だ。
生者が驚く爆音に、衝撃なら。
安らかに眠って居る屍はどうだろうか?
たまったものじゃないんじゃないだろうか?
「あ! スミタ! スミタ! ここの出入り口だわ!」
「うむ。そのようでござるな」
二人は手を繋いだまま。
その方向へと。
さらに、深く――階を下りて行く。
――スミタ。もう少し。緊張感を持ってくれないかな?
僕も、流石に彼に注意した。
だって。
ここの一部になられたら。
僕が悲しいから。
「うむ。済まぬでござる」
スミタは苦笑交じりに、僕に謝った。
謝る必要なんかないから。
――じゃあ。早く、行こう。