第49話 悪魔のように
スミタの中のメゴは歯を剥き出しにして。
目の前の悪を見上げていた。
ぶぶぶ。
ぶぶぶぶぶぶ‼
シゲリンの奴は剣から。
またしても、どこからともなく。
蜂を呼び寄せて飛ばしている。
『そんな弓など! この私には通用しないっっ‼』
顔を強張らせるシゲリンからは。
気色悪いほどに――大量の蛆が噴き出し。
地面にこぼしていた。
でも。
間違いなく。
この場に居る、誰もが思ったはずだ。
口にはしないものの。
口にしてはいけないのだと。
「なぁ。ズッキーナさぁ」
「っつ……なんでござるか?? マサル殿」
「俺も。あーゆーの、使えるようになんねぇかなぁ~~」
口を突き出しながら言うマサルに。
カエデが後ろから羽交い締めにした。
「ぅげ! カエデ‼ お前っ、重いんだよ‼ 色々と‼」
ぎゃーぎゃー、と吠えるマサルに。
カエデも、
「お宅は。そのままでいいんだって、人間が何より。普通が何よりも……――《理想》だよ」
声を低くさせて言うんだけど。
言われた奴が納得するはずもない。
カエデに声を返さずに、マサルは目の前の。
最終戦を凝視していた。
メゴが放った矢は。
一直線にシゲリンの方向へと奔って行っていた。
確実に、それには意思があり。
悪を目がけている。
矢の風圧なのか。
それとも。
浄化的なものなのか。
僕には分からないんだけど。
バン!
ばばばば、バァアアアンンン‼
蜂達が激しい音を立てて爆発をしていた。
散っていく蜂の様子に、
『こんなもので! 私が負けたと言うとでもォおお!?』
シゲリンも嗤った。
それはまるで――
「あ。これフラグじゃん」
マサルがほくそくんだ。
そのフラグの意味は僕には分からない。
本当にマサルの奴はよく分からないから。
苦手以上に嫌いなんだ。
「あいつ――……」
言い返るマサルの口を。
カエデとズッキーナが手で覆った。
「「言わさない」」
重なった声に。
マサルも、その手で叩いた。
そんな彼を無視して。
全ての矢が突き刺さったシゲリンを。
「これで。仕舞いとはいくまい」
「ええ。でしょう、ね」
その行方を視ていた。
「あンた。執拗にすみ田を甚振りたいことを知っているぜ? アタシ」
シゲリンが矢に触れると。
手が激しく燃え出してしまい。
痛みのない遺骸のはずなのに、
『っく!』
少し、痛みのある表情を浮かべた。
「あンたは――羨ましかったからだ‼」
『っち、違う……ぃや。どうだったかな? どうだったかなぁあああッッ‼ そんな昔のことなんか記憶になんかないんだよォおおッッ‼』
「すみ田の記憶の中のあンたは……いつも咳をしていて青白い顔で、何処にも行けずに。室内にしかいられなかったんだから! 居場所が布団のエリアだけだったからだ!」
『ぃ、言うな……それ以上を――ッッ‼』
「弟のしげ洸よりもすみ田を必要としていたのは! あンただッッ‼」
そう言いながら。
正面から弦を引いた。
威力を目の当たりにしていたシゲリンも。
膝をつき。
剣を地面へと刺した。
降伏だった。
両手を上にさせ、
『最後の太刀は――すみ田君にして頂けないだろうか』
そうメゴに懇願をした。
「いいよ」
シュッッ‼
「ぉ、おい! メゴッッ??」
頷いておきながら。
メゴはシゲリンの眼に向かい。
矢を放った。
シゲリンの左目に貫通せずに残った。
「業と……手を抜いたようだね」
「うむ。反撃の力を削ぐように仕向けたでござるな」
「まさに。完膚無きまでに――叩いたわけね」
ジノミリアが息を飲んだ。
「なんて――悪魔のような女なの? そんなのとスミタがッッ??」




