第45話 吠える重惏
『さて……貴方は――すみ田君に何かな?』
強張った声でシゲリンがズッキーナに訊いた。
動きが止まったことに。
僕達全員が安堵の息を漏らしたのもつかの間。
「さー~~?? なんでござるかなァ? ま。赤の他人でござるとしか申せず」
『なら。なら手を出すんです? 赤の他人様が』
「それは好きな女子に頼まれたからでござる」
『――すみ田君じゃないのなら! 邪魔をするなぁアアアッッ‼』
ぼたぼた。
ボタボタボタ――と大量の蛆が飛び散る。
はっきりいうなら汚いって表現が一番だと思う。
「ま。確かに」
にこやかに宙に浮び上がるズッキーナ。
表情を歪ませてシゲリンが見上げ、
『逃がさないよ』
浮かび上がった。
「ふむ。いい度胸でござるなァ」
『ご存知でしょうか? 貴方は――《神殺しの一族》を』
「??」
『ああ。どうやら存じて居ない……みたいだッッ‼』
斬!
「!? っか‼」
斬ッッ‼
「あ゛、っがァ゛ア゛ア゛ッッ‼」
シゲリンの剣が真っ黒な煙を纏うと。
そのままズッキーナに斬りかかった。
ズッキーナの額の《神の眼》を。
突然の痛みと、溢れ出る血に彼が呻き。
顔を手で覆うと落ちて行った。
「っず、ズッキーナァ―~~ッッ‼」
驚いた表情でマサルがカエデの肩から降りた。
そして、ズッキーナへと駆け寄った。
「ぉ、おい! おい! おいって‼」
「っだ、大事ない……で……っく!」
「大丈夫じゃねぇ~~じゃねぇかよォおおうぅうぅ‼」
絶叫するマサルの横にカエデがつくと。
ズッキーナを持ち上げた。
事実上のリタイヤだ。
邪魔者が居なくなったことに。
シゲリンも鼻を鳴らした。
『っふ。肩慣らしにもならなかった』
「だ」
『? え』
足元から訊こえる声に。
シゲリンも視線を落とした。
顔は獰猛な獣のように、溢れ出る気配は――禍々しくもあった。
僕も、それに充てられる。他の奴らはどうなんだろうか。
『……すみ田君』
ボタボタボタ――
ボタボタボタ――
『貴方……武器は、何処から?』
腹部にはスミタが持っていた剣が刺さっていて。
貫通をしていた。
でも。
それは致命傷にもならないんだ。
ジゲリンには。
「ぁえ……ら」
スミタは地面を小さな足で踏んだ。
そこには《影》があった。
「っは! っふ、っふっふっふ‼ 影から! 影からですかぁああ‼』
びちゃびちゃびちゃ!
真っ黒い血と、蛆が飛ぶ。
なんとも気持ち悪いとしか言えない。
「か……ぇせ……れ、を……」
『私以上に執念深いのは変わっていませんねぇえ゛え゛♡♡』
喜々と恍惚と顔を歪ませるシゲリンの表情。
鳥肌も収まらないって。ヤバい、ヤバい!
「あ゛」
『すみ田くぅんんンんンンんん♡♡♡♡』
彼らの対立する様に。
「引くわー~~ありゃあ引くわー~~」
マサルがドン引きで視ていた。
そんなマサルに、
「……今の自分は、何も出来ない人間の女子でござる。あっさりと死ぬ存在になり下がったでござるよ」
ズッキーナが、息絶え絶えに言う。
言われたマサルは、
「‼ だから、なんだって言うんだよ! そうしたのはお前っだろォおおうがァああ‼」
強い口調と、手で額を叩いた。
おい。
そこは傷口だぞ。
「――――~~っつ! づァ゛アアアッッ‼」
「ぁ゛。悪ィ……」
「大丈夫。お宅が心配する必要なんかないよ。だって――マサル君は、自分が守るから」
「っひぃ‼」
カエデがマサルの肩にキスを散らす。
その行為に鳥肌を、別の意味で立てる。
おい。
状況と、空気を読めよ。




