第33話 帰って来た○○②
「スミタ! スミタはどこだ!?」
僕はそう叫んでいた。
カエデのポケットから顔を出すと。
そこには火薬の匂いがした。
カエデの手には銀の銃を持っていた。
銃口から煙も出ている。
ジノミリアは《人外化》していた。
目も爛々となっているんだ。
「そうだよ。スミタはどこなんだ?? お前っっ‼」
口腔の牙も鋭く、鈍く光っていたんだ。
しかしだ。
「スミタはいい! それよりもマサルだ‼」
そう声高らかに。
カエデが言い放った。
「「……ぅおぃ」」
思わずジノミリアと僕の声も被ってしまう。
どうして、そこまで入れ込めるのだろうか。
「自分のマサルを! マサルを返せ‼」
とてつもなく低い声で。
銃口を、彼に向けている。
そのまま撃てば。
何事もなければ。
カエデは勝てるだろう、が。
相手は。彼は人筋並みにはいかない気がするんだ。
「うむ。自分に返してやろう。そら!」
「!? っわ゛、っちょ! わ、わわ…ぁあお゛!」
放られたマサルに慌ててカエデも腕を伸ばした。
なんとかキャッチをすると。
その場に座り込んでしまう。
そして、マサルの顔を見て。
「……――この、コイツは……誰だ??」
カエデは声を失った。
そう。
受け取った人間は。
明らかにマサルじゃない。
明らかに別人だった。
「あんた! コイツは誰なのよ‼ あの馬鹿をどこにやったのよ?!」
ジノミリアがそう彼に言った。
彼は目を丸くさせて、肩を揺らして嗤った。
「何処も何も。今、自分が腕に抱いているのが、その者でござるよ? 分からんのでござるかな?」
弾。
弾ッ!
弾弾ッッ‼
「ふむ」
タン。
タンッ!
タタンッッ‼
彼が扇子で弾を弾いた。
「甘い攻撃でござるよ。自分は――弱いなァ」
満面の笑顔で言い放った。
そんな彼に、
「煩い‼」
カエデが叫んだ。
苦虫噛んだような表情でだ。
そんなときだった。
「ぅ…うあ゛‼ ゃ、やだ! 止めろ‼ 俺に‼ 俺に触るんじゃねぇー~~‼」
バキッッ‼ とカエデの頬が鳴った。
「っつ……」
「っへ? ぁ……あれれ~~??」
「お宅は……なんのつもり?」
引きつった笑いを向けるカエデに。
「‼ カエデっじゃん! カエデー~~‼ ぅあ゛ー~~‼」
涙目で抱き着いていた。
抱き着かれたカエデは口をへの字にさせ。
引きはがした。
「確認をするよ」
「? え゛……何をだよ???」
「自分。名前は?」
「はァ?? お前ふざけんじゃねぇぞォおお?!」
「いいから、質問に応えろよ」
言い合う二人にジノミリアが鼻を引くつかせて。
彼の傍に行く。
「? マサルじゃん。この匂い」
素っ気なく言い捨てると腕を組んだ。
そして、
「何か説明は出来ないの?? あんたは‼」
目の前で扇子を回転させる。
もう一人の彼を見た。
「名前は聞かぬでござるかな? 女子よ」
「覚える必要ないことを訊いたって仕方ないじゃないのよ」
はっきり。きっぱりと言い放ったジノミリアに。
扇子を閉じた。
ぴっしゃん! と。
「拙者は――」
「おい! こらァああ‼ ズッキーナァああ‼」
「……おい、こらでござる。こっちの台詞でござるぞ」
「俺をどうした?! スミタは! スミタはどこだってんだよ‼」
よろけながら彼――マサルのすかぽんたん男が立ち上がった。
その様子をカエデも見上げて。
伺っていた。
「率直に申せば。すみ田殿の身体を自分の黒い靄にて遺骸と接着し誕生させ、その身を削った自分の器はない以上。拙者が粘土で作り命を与えたでござるぞ。《神の息吹》は貴重であって、この世界にないものを。お守より頂いたでござる」
淡々を語る……ぇ、っと。
ズッキーナに。
僕も訳が分からなくなっていくんだ。
「つまり……どういうことだってんだよ! ズッキーナァあ‼」
「……自分。口が減らないでござるなァ」
「ぃぃから! 応えろよ‼」
「ようは。自分は《人間》として第四の生を、生きたまま迎えたということでござる。それは今までの歴史にもないこと。誇るがよいでござる。ただ――副作用はあるでござるが」
「あるんかー~~い‼」
思わずマサルもツッコンでしまう。
「訊きたいでござるか? マサル」
「…ぅんにゃいいや。今はな! ほら! スミタを返せって!」
「……何とも楽観的で、不思議な男でござるなァ。自分は」
髪を掻きむしって。
ズッキーナがはにかんだ。
そして。
扇子を勢いよく広げると。
平らにすると光りの玉が集まった。
色とりどりの結晶体だった。
徐々に大きくなっていく球体。
中も徐々に見えて来た。
「……スミタ……なのか? 中に入っているのは」
その光景に。
マサルが小さく漏らした。




