第32話 帰って来た○○
僕とカエデの耳に。
ジノミリアの弾んだ声が聞こえた。
「帰って来た!」
その声にカエデの目にも。
光りが戻ったような感じだった。
「二人共だわ!」
勢いよくカエデが立ち上がった。
ポケットの中の僕も揺れた。
「わ゛! カエデっ!」
僕は渋々とポケットから外を見上げた。
辺りはあの《楽園の墓標》
の先に。
「……――眼だ」
天井から地面と木の幹に。
ギョロリ、とした眼が浮かび上がっていたんだ。
何か得体の知れない僕らを視ているかのようだった。
「これは……何なん……だ、よ?」
ポケットから落ちそうになるぐらいに。
身を乗り出してしまった僕を無視して。
「っぎゃ! っか、かかかか、カエデー~~‼」
慌ててポケットの中に僕も戻った。
心臓音を高鳴らせながら。
(あの眼は……何だ??)
僕は一瞬でも見たソレを思い出した。
宙と地面を一直線に在った。
真っ黒い稲妻を放ちながらだ。
「ジノミリア嬢! どこにいるんだ?! どこに??」
そんな影が見えない憤りに。
カエデがジノミリアに言った。
「はァ?? 見えないの?? うっそでしょう‼」
ジノミリアも怪訝に言い返した。
『これこれ。お嬢さん、無理なことを申すでない』
怪訝に言うジノミリアに言い返す声があった。
その声は。
マサルのものでも、スミタのものでもない。
一体、誰の声なんだよ。
この声は。
「拙者が視えるのは。人外のみでござる」
「いいから!」
「む?」
「いいから! そんなことはどうだって‼」
カエデが声の主に。
そう叫んでいた。
くるくるん、と身体を回転させていた。
僕も回ってしまう。
(っま、回る゛ぅ゛ー~~)
「お宅の言葉なんかどうだっていい! どうだっていいんだ‼」
強張っているカエデに、
「……本当に。依存し過ぎで引くわー~~」
ジノミリアも唇を突き出して。
そうボヤいたのを僕は聞こえた。
僕も同意見だ。
気が合うな、ジノミリアのくせに。
「自分のマサルを返せェえええっっ‼」
『……のぅ。お嬢さん』
「? ぇ、……何よ。気安く声を掛けないでよ」
腕を組みながら。
訊いてきた声の主を邪険にするジノミリア。
ただ、声も気にせずに、
『あの青年と、あの靄の青年は……友人でござるか?』
関係性を訊いた。
「……友人?? 友人……エドガー~~任せるわ」
「‼ っま、任せるな! クソ女‼」
ジノミリアの棚に上げた言葉に。
僕もポケットの中から叫んでしまう。
それにジノミリアがため息交じりに。
「友人なんかじゃないわ。この《グレース・セメタリー》の入り口に会ったに過ぎないもの」
短く説明をすると。
「む……ま。かまいたくなる感情は分からなくはござらぬな。彼の者は」
声が鮮明に変わった。
「拙者は名前も知らぬが」
「‼ 眼が……開いたっっ‼」
「可愛かったでござるよ」
僕もどういう状況なのか確認したくて。
顔を出して視ようとしたのに。
勢いよくカエデの身体が動いていた。
ポケットの中で僕も回りに回る。
「お守とは、また違いでござるが」
「お宅! 腕から! マサルをォおお‼」
「む」
「離せェええっっ‼」
弾。
弾ッ!
どうやらカエデは武器を放ったようだ。
そして。
その相手の腕にはマサルのすかぽんたん男が抱かれているようだ。
僕に関係はないな。
(――……スミタ……スミタッッ!?)
マサルのすかぽんたん男のやり取りばかりで。
僕はここでようやくスミタの存在を思い出した。
ぞわ。
ぞわぞわわ‼
「スミタはどこだ?!」




