第31話 待ち人来る
堕ちたスミタを追った俺の前に現れたのは。
見覚えのない尻尾の生えた少年と。
鳩から人へと。
その姿を現した少年だった。
「……消え去れってんだよ! どいつもこいつも!」
俺はそう吐き捨てた。
正直、俺はスミタを拾って戻りたいだけんだよ。
なのに、なのにだよ。
「おい! おいおい! お前さんは誰に向かって言っているのかを分かってないにしたって、んな言い方をすんじゃねぇよ! マサルよォおお!」
飛ばしたはずのカズユキが。
俺の傍に、いや胸目がけて飛んで来やがった。
なんつぅ~~変態野郎なんだよ。この猿は。
俺も拳を握り締めた。
いつでも殴れるようにだ。
これ以上胸を汚されたくなんかないんでね。
てか、こんな血まみれで、あの男の前に帰った日にゃあ。
恐ろしいったらねぇわァ。
ガクブルって言葉が当てはまるってもんだよ。
「これ。かず志殿! あまりはしゃくのも大概にせよ。あの者に通達してもいいのでござるかな?」
「……すいませんでした。ゃ、止めて下さい。お願いですから。止めてもらいませんかなァ?」
手でゴマすりながら。
カズユキがえっと……――ああ、鬼灯奈落。
コイツの名前は鬼灯奈落だ。
さっき自己紹介されたんだった。
突拍子もなかったんで。
少しばっかし忘れてたわ。
「うむ。よかろう。だが、拙者の指は一本折れたぞ。残り二本でござる」
「っく!」
仲が悪いのか。
下剋上の関係なのか。
俺には関係がないんで、他所でやってくんねぇかな。
「っじゃ……じゃあ。俺はお邪魔なよぅ、なんでー~~」
俺は半笑いになりながら。
そう足を後ろにやった。
ゆっくりと下げる俺に。
「「マサル」」
二人の声が同調して。
上手くかち合った。
「‼ ぁ……あの。俺も、あの、忙しぃんでぇー」
「自分がどこに行こうが勝手ではござるが。それではすみ田殿は戻らぬでござるよ」
コイツのことをなんと呼ぼうか。
鬼灯奈落だから。
鬼灯か。
それとも奈落か。
「……ズッキーナ」
「変なあだ名を拙者につけるでない」
「それでズッキーナ。お前は」
「だから。可笑しなあだ名で呼ぶなでござると言うておろうが」
少し眉間にしわを寄せるズッキーナに。
俺は楽しくなった。
本来なら楽しんでいられないってのに。
俺はおかしくなっちまったのか。
「いいじゃん♪ 可愛いよ♪」
「っはァー~~自分は。なんとも……彼に似て居るでござるな」
「? 俺に? きっと可愛いんだろう? そいつは俺みたいに♪」
「……うむ。可愛かったでござるな」
どこか寂しく微笑んだズッキーナに。
俺も、よく分からないってのに。
「じゃあ。俺も可愛がってよーそいつみたくさー」
返し言葉のように。
言ってしまって。
大後悔ってのをしてしまう。
「‼ っち、違う! っは、ははは。これは言葉のアヤってヤツで――」
「よかろう。ご期待に応えるでござる」
「っち、ちが!」
「かず志殿」
「っは、はい! っな、なんでしょぅかァ……――」
ゴマすりの手のまま。
アイツが来た。
「《花星晶》持って居らぬでござるか? 自分は」
「? んにゃ。儂は持ってないなァ」
「ふむ」
小さく息を吐く。
そんなズッキーナの顔が俺の目の前にあった。
本能的に、
「っく!」
俺は黒い靄になろうとした。
コイツらの前から、一刻も早く。
(逃げねぇと‼ ヤッバイ‼)
「逃げるなでござるよ」
パシ! と腕を掴まれてちまった。
その手は、酷く温かいもんだった。
「っは、離せよ。離せよ! ズッキーナ‼」
「……それはもう固定でござるか……ふむ。よかろう。自分の好きなように拙者を呼ぶでござる」
バサ! と背中に羽が生えた。
「あ゛! っちょ! お前さんだけで!? そいつぁ~~あんま……――」
カズユキの言葉の途中で。
俺の視界が真っ暗になった。
◆
「遅い……一体。どこまでマサル君はスミタ君を追っていたんだ」
地面に腰かけてマサルたちの帰りを待つ二人と一匹。
木に身体を押し当てながら。
煙草を吸うカエデの本数も増えていく。
いくらそれが害のない煙草だとしても。
数が多ければ、それは人体に有害となる。
「煙草を止めなよ。吸い過ぎだよ」
僕も、ついお節介にも言ってしまう。
「あと。君の懐か、ポケットに入れてもらいたいんだ」
ついでに本音も。
無言で僕を掴みと、僕をコートのポケットに放り込んだ。
よかった。
投げ捨てられるかと思った。
「お願いだから。お願いだからエドガー君……彼を探して」
か弱い声で僕に言うカエデに、
「そんなのずっと。ずっと、やってるんだ。僕だって」
僕も言い返した。
それにカエデも返事をせずに。
すぅうううー……。
っふ、ぅううう~~……。
煙草を吹かしていた。
そんなときだった。
ジノミリアが言ったんだ。
「帰って来た! 二人共だわ!」




