第3話 導れし二人
少し、彼もジノミリアも小走りに進んでいた。
足音も、身体も大きく揺れている。
「しかし。やはり洞窟でござるな」
「そうね。空気が冷たいね」
「お主、身体がもっこもっこでござるな」
「僕はこう可憐な姿であっても! 《人外》なのよ♪」
彼女は。
《毛長獣》の系統なんだろう。
彼らは鋭い角と、長い毛と。
身体を野獣に変え。
並外れた馬鹿力が特徴的だ。
(今、古代種族はどれくらい生き残ってるんだろ)
「ふむ。羨ましい限りでござるなぁ」
「ふふぅん♪」
自信満々に胸を張るジノミリアに、
「肩を組んでくれぬでござるか?」
そう彼が言う。
「ふぁ?!」
それにジノミリアが顔を破たんさせた。
彼は、さらに、
「肩車をすれば肩から温かくなるでござるな」
にこやかに言った。
「ふぁ~~?! なななな、何を馬鹿たことをッッ‼」
「ふむ。駄目でござるか」
口を突き出しながら、そう残念そうに言う。
「あったり前でしょうがぁああ‼」
「寒いでござるなぁ」
ちら、とジノミリアを見た。
「あー風邪引きそうでござるなぁ」
「あー~~もぅ゛‼」
◆
「ぬっくぬくでござるなぁー」
「はぁ。ったく!」
ジノミリアは妥協して、彼の腕を組み。
身体を寄り添っていた。
ドキドキって心臓音が伝わってくるのが。
僕にも分かる。
「さて。真っ直ぐにまず行くでござろう??」
なのに、少年には伝わっていないようだった。
カッチン!
「「ん??」」
何かを踏んでしまったような音が。
静まり返っている空間に鳴り響いた。
うん。
罠は、あって当然だよね。
「何? 何か踏んだ??」
「……--恐らくは」
二人は顔を見つめ合った。
そして、頷くと。
背中を合わせた。
くる、くるっと回る。
「「よし!」」
勢いよく走り出した。
っだ!
ド!
ッゴ、ォオオオンッッ‼
「「おっとっと‼」」
またしても、近くに爆弾が落ちたのか。
激しく墓を揺らした。
「もう! いい加減にしろよ‼ 戦争脳~~ッッ‼」
「全くでござるなァ‼」
二人が苛立ちも隠せない。
「真っ直ぐでいいでござるか?!」
「え? ぁあ゛ー~~」
ジノミリアも、返事に困り。
何とも言えないようだ。
前に見えるのは、三つに分かれた路があったら。
そりゃあ、迷うよね。
僕も正解なんか知らないけどね。
「いや! どっちも違う‼」
ジノミリアが地面を指した先には。
大きく口を開けていた。
「あそこだァああ‼」
うん。
それ――罠だよね?
ダダダダっっ‼ とジノミリアと少年が。
勢いよく駆け下りて行く。
一切の迷いもなくだ。
(この子たちのこの自信てか、確信てか……怖い~~‼)
僕は一緒にいることも怖くなって来た。
この先の行き路がいいにしても。
この後の帰り道をどうする気なの??
「はぁ……はァ! きっと、ここなら平気でしょう!」
「うむ! そうに違いないでござるな!」
胸を撫で下ろす少年に。
「スミタ! あんた、絶対にあんたが押したのよ!? ちゃんと気をつけてちょうだい!」
「む! 拙者で……ござるかなぁ? うむぅ」
「そうよ! 絶対に、そうよ!」
いや。
それは違うでしょ?
そのことに、君は気づいているじゃないか。
ジノミリア。
「す、済まぬ……ジノミリア殿」
「次は気をつけてよね! スミタ!」
そうか、スミタって名前なんだ。
この少年は。
「うむ」
のしのっしと歩き出したジノミリア。
「ジノミリア殿‼ 寒いでござるよ!」
慌てて少年ーースミタが足先を速めた。
そんなスミタにジノミリアも苦笑交じりに手を差し伸べた。
「たっくもー~~! 早く来なさいよ!」
「うむ! 忝い!」
そして、二人は手を取り握った。
◆
「しかし。いくら行っても、行ってもーー」
「――……髑髏の廊下でござるなぁ」
「何なのよ! ここは墓場じゃないの?! 墓参りする人間を無視し過ぎじゃないの?!」
いや、違うよ。
ジノミリア。
ここは骸の墓場、埋葬場所と名がつくだけの。
骸の棄て場に過ぎないんだ。
「迷路でござるなぁ」
「関心していないで! 何か、案はないの?! スミタ! あんたは‼」
「ふむ」
スミタは目を宙に上げ。
ゆっくりと目を閉じた。
「そうでござるなぁ」
ド!
ゴゴゴゴゴゴォオオンンんッッッッ‼
「「‼」」
まただよ! 近い! 近い~~‼
徐々に、爆弾の落下地点が。
この《グレース・セメタリー》に近づいて来ている気がするー~~‼
怖い! 怖い! 怖いー~~‼
寝た屍を起こすかのようだよ!
止めて! 本当に止めてェー~~‼
「しかし、亡者をも恐れぬ者共でござるな」
「本っっっっ当に! 頭くるよね! 戦闘機落として来ようかなァ゛‼」
メキメキ、と身体を獣の姿に変えようとするジノミリアに。
「《経文結界》 一重! 初歩式っっ‼」
スミタが唱えると。
彼の前に魔法陣と、見たことのない難しぃ何かが浮かぶと。
一気に、それは大きく広がった。
「何をしたのよ? あんた」
「何って。一応、微弱ながら結界を張ったでござるよ。あまり頑丈にはしておらぬが、ないよりはましでござろう」
「結界?? 何それ???? ま、いいわ! 進みましょう!」
結界の意味も分からないジノミリア。
少しは訊いた方がいいんじゃないのかな?
「あ! 見て! スミタ! 出口だわ!」
「うむ! うむ! ようやくでござるか‼」
見えた空間に、二人は喜々として向かった。
そして、そこで見たものは。
黒煙を立てる。
「「‼」」
無残にも。
爆撃を受けた場所だった。
突き破った天井の穴には。
スミタの術が上手く塞いでいた。