第27話 すみ田の消滅
「っは……はァはァ――」
スミタが少し息を荒げていた。今まで見たく息をするのも。
少し困難なのか。いや。
あまりの衝撃に対応しきれていないだけなのか。
顔も、どこか青ざめているんだ。
「スミタ? あんた息上がっているじゃない。しっかりしなさいよね!」
ジノミリアがスミタの横で、そう悪態を吐いた。
そうは言ったって。彼は半分……いや。
ほぼ《屍》状態なんだ。
今までの生きているという自覚すらも、実感が薄れていくんだ。
意識はとうに、機能を停止させていって。
次第に《理由》という《未練》に縛られるんだ。
「うむ……済まぬ。ジノミリア殿」
「べっつに! お前が謝る必要なんかねぇーや。スミタぁ~~」
マサルのすかぽんたん男がジノミリアに言い返した。
しかし格好は間抜けだ。
「うっさいわね! あんたは黙っておんぶされてなさいよ! カエデの奴に‼」
それをジノミリアがほくそくみながら言い返した。
マサルも、頬を膨らませて。
ついには押し黙ってしまうんだ。
「ジノミリア嬢。お宅も黙ったらいいんじゃないの」
負かされたマサルに、カエデも加勢した。
「エドガー君。スミタ君の心拍数とかは?」
「とうに肉体はないんだ。そんなもの自体ないけど?」
「エドガー。お前、そんな半透明なスミタの懐によく入れるなァ?」
関心するかのように言うマサル。
さらに僕に訊く。
「いや。お前がいるから安定してんのか? どうなんだよ??」
「さぁ。それは僕のせいなんかじゃないよ」
僕も素っ気なく言い返した。
理由なんか僕も訊きたいぐらいだよ。
「でも。案外――君が言う通りかもしれないね」
すかぽんたん男がいうように僕がいるから。
という理由で。スミタの容姿が安定しているのかもしれないな。
「でも。それはおまけで――スミタは心底にあの男嫌って追って来たから。安定しているんだと思うよ。マサル」
「だなー~~人間てのは根深く。執念深い種族だかんなァ」
どこか他人事にように言うマサルに、
「君だって。人げ――……ああ。忘れてたよ」
業とらしく、露骨に言った。嫌味だよ。
「にゃろォ~~! カエデ下せ! あの馬鹿殴ってくっからよォ‼」
「ダメに決まってるでしょ。お宅も煽んないでくれないかい? エドガー君」
カエデが眉間にしわを寄せて言う。
「本当に済まぬな」
そう短くスミタが言い放った。
「しかし……拙者も。これまでか――」
僕はスミタを見上げると。
色が澄み通るスミタに、
「ダメだ! ダメだ! スミタッッ‼」
僕は声を上げた。
『済まぬでござる……エドガー殿』
その言葉を最後に。
スミタがいなくなった。
僕と、スミタの剣が地面に落ちた。
「ぁ゛ああァ゛アア゛ッッ‼」
あまりのことに僕は声を上げてしまう。
「いちいちっと! ったくよォおお‼ っとッッ‼」
「!? あ゛! マサル君‼」
マサルも、声を吐き捨てると。
黒い靄に変わり。
スミタを追うかのように続いて――消えた。
「……今度の性別。何かな」
「!? っくぅうううー~~‼」
僕が小さくぼやくと。
カエデがしゃがみこんでしまう。
子供みたいに。馬鹿みたいにだ。
「……ここの墓標にはないのか? 屍は。なんでだ?」
立ち上がって僕に訊くカエデに。
僕も言う。
「ここ肥料は屍だからだよ。きれいに吸収されてキレイに木々を芽吹かせるんだよ」
ここの領域はそれを糧に成長をし続けるんだ。
永遠の楽園で在り続けるんだ。
「媒介は――《屍》だけか? なぁ。エドガー君」
首を捻りながらカエデが僕を拾う。
そして顔の前で向かい合わせた。
「お宅。自分に言っていないこと……あるんじゃないの?」
鋭い眼光で射抜くカエデ。
(ま。そうは考えちゃうよな……頭が切れる奴なら)
確かに媒介はそれだけじゃない。それは事実だ。
「それに。あのスミタ君が絡んだら――」
ゆっくりとした口調で言いながら。
っふ、ぅううー~~と煙草の煙を僕ぶに吹きかけた。
「厄介なことになるとは思わないのかい?」
君が言わなくたって。
僕だって、そのことには気がついていたさ。
でも。
「それをスミタが望むなら。結果として――いいとは思うよ」
遠くの《墓標》なんかよりも。
ここでよかったって。
あのすかぽんたん男にも感謝をしたいぐらいだ。
「……何があるんだ。ここには‼ エドガーッッ‼」




