第24話 天国と地獄
「《経文探索》発動‼」
スミタがそう詠唱した。
するとスミタの影から、あのよく分からない文字のあものが。
勢いよく立ち上った。
「あんまり無茶をしないで頂戴よ‼」
ジノミリアがスミタにそう一言をかけた。
そんなの言わなくたってスミタも分かってんだよ。
馬鹿女。
バタバタと強風にスミタの服が大きく煽られる。
短くなってしまった髪も。
バサバサと揺れていた。
「綺麗な髪だったのにな」
ジノミリアが小さくボヤいたのを。
僕には訊こえていた。
――で。スミタ、どうなの?
(うむ。やはり法力が足りぬのか。今一、はっきりと全体像が見えないでござるな)
僕とスミタが内心で話し合う。
それはジノミリアにも。《人外》には訊かれないようにした。
訊かれて不味いことはないんだろうけど。動揺させたくないでしょう。
とくに女って生き物をは厄介だ。
「しかし。おかしぃでござる……なぁ」
「何?? 何?! どうかしたの?? スミタ‼」
スミタの身体がヨロけてしまって。
術の発動中にも関わらず倒れてしまったんだ。
「スミタ??‼」
ジノミリアが速度を上げて駆けて。
スミタの傍に寄った。
「スミタ‼」
顔を持ち上げて。自身の膝の上に置いた。
「スミタ?! ねぇ!? スミタ‼」
「……? あぁ。ん?? 拙者は――」
「? 倒れたんだよ! 無茶したんだろう‼ 言ったそばから‼」
どろり、と鼻から血が零れた。しかし、その色は。
明からに――
スミタが鼻に手で触れた。
思わず。ジノミリアが手首を掴んだ。
「……ダメだよ。見ちゃあダメだよ、スミタ」
真剣なジノミリアの顔を見て。
ジノミリアの掴んだ手ごと。見た。
視界に映ったのは。
真っ黒な血だった。
「!? っこ、これは??」
声を裏返しながら。
スミタが起き上がった。
◆
「ぉいー~~も……ょせってぇ゛ー」
急転直下の二人から離れる二人。
カエデがマサルの傷を舐めていた。
薄い腹と、大きな胸の下を。
ぴちゃぴちゃ、と音も鳴る。
「も゛、ぃいからぁー~~もういいから! 変っっっっ態ぃ゛いい゛‼」
余りの恥ずかしさにマサルが。
泣き声を漏らした。
「も。閉じるよ……もう、少し♪ もう少し♪」
その声に動じずにカエデも言い返した。
「も……何か。変だから……も、ぃいってばー~~」
「完全に治らないにしても。少しでも直さないと。ぽっくり、逝っちゃうったらどうすんの? お宅にも。ここに来た理由があつんでしょう? なら。我慢しなきゃね?」
少し上げた顔を、また傷口へと戻した。
「ふぃ゛いー~~も゛! 何か! 色々とヤバいんだってば!」
腕で顔を隠すマサル。身体も小刻みに震えている。
それに、カエデも。意地悪く訊き返した。
「どこが? 色々とヤバいのかを♪ 教えてもらおうか? マサル君」
「ぅ゛……っだ、だから‼ 色々ってのは……色々なんだよ‼」
「ここなら。あの三人からは見えないし? ね? 自分に教えて?」
カエデが悪魔のようにマサルの耳元で囁いた。
熱い息の感覚に、
「ぅ、っさい! も、死ねよ‼ お前ッッ‼」
マサルも熱い息を漏らしながら。
カエデに言い返していた。
「自分なら。お宅の熱を冷ますことも出来るよ?」
カエデの言葉に。マサルの喉が鳴った。
平常心と理性。興味心と限界のラインが超えていた。
「熱……冷ましてーカエデー~~」
陥落と言う言葉が正しく。マサルはカエデに懇願をした。
腕をカエデの首元に巻きつけながら。
何やってんだよ。馬鹿なのか。
◆
「黒い……血?!」
青ざめた顔を向けるスミタに。
ジノミリアが言う。
「違うからね! あんたは《屍》になんかなってなんかないからね?!」
笑顔を向けて言うジノミリアに。
スミタも、不安に押し潰されそうになっていたんだ。
「っじゃ……では、拙者は――」
指先の黒い血を、一点に見る。
擦ると、それに粘着があり血とは違った。
「ぁ、あんたは! スミタは! あんたは‼」
低い声でジノミリアが言う。それは決して。
今のスミタには言ってはいけない言葉だと言うのに、だ。
次回更新は4/1となります。申し訳ありません……投稿作品が終わり次第書きます!




