第21話 狂気の重惏の殺気
三人は苔の生えた墓の中に立っていた。
すかぽんたん男は墓の上に腰を据えている。
ここは。
地上のように木々が生える――《楽園の墓標》
ここ――《グレース・セメタリー》内部の中で。
最も、苦痛と悲しみのない浄化された地域だ。
浄化とはつまりは。
遺骸が――《屍》が残らない、ということだ。
「いないものは。甦る訳がないじゃないか」
すぅうううー~~……。
カエデが煙草を吹かしながら。
僕に、マサルに言う。
「少し考えたら。分かることだよ。マサル君」
言われたすかぽんたん男は。
抱き着いて来たカエデに、
「変態。胸を揉むんじゃねぇよ」
すかぽんたんがカエデの胸に肘を当てていた。
「変態。どんどん! っう……ん゛! 止せっての‼」
抵抗するマサルを無視して。
カエデの馬鹿も揉み続けていた。
「で? あんたはどう? 落ち着いたの???? スミタ!」
ジノミリアがスミタにそう訊いいた。
スミタは芝の上に寝っ転がっている。
「うむ。大事ないでござるよ」
「なら……ぃいんだけどォ? 本当に大丈夫なんでしょうねー~~」
「疑り深いでござるなぁ。ジノミリア殿は」
そう話す中。
ようやくカエデを引き離したマサルは。
スミタの顔を覗き込んでいた。
ぷるるん! と胸を弾ませながら。
「本当に大丈夫なんだな? なぁ? おい?」
何度なく訊き返すマサルの表情は。
真剣そのものだ。すかぽんたんのくせにだ。
「俺はお前みたいな馬鹿と一緒にいたんだ。無理って絶対言わないけどよ。きっちし! やるときはやる女だったぜ」
一体。誰のことを思い出しているのか。
こっちが照れてしまうぐらいに。
はにかんだ笑顔を浮かべていた。
「その者は。よほどマサル殿にとって。良き仲間だったのでござるな」
「仲間? 仲間……仲間つぅか……なんつぅの? あれは……あれぁ~~ああ。糞生意気な妹って感じだったな。でも、……まぁ……俺にゃあ勿体ないくらいに……眩しかったよ。太陽みたいな馬鹿だ」
しっしっし! と笑いながら。
マサルのすかぽんたん男は、横に腰を据えた。
胡坐を掻いて、
「で。あの――重惏って野郎は。お前にとってなんなんだよ。スミタ」
膝を立てると肘をやり、頬に手をついた。
「僕も知りたいな」
ジノミリアも。
ゆっくりと腰を下ろした。
「あんなのと戦うには相手を知らなきゃ。話しにもならないしね」
小さく鼻息を漏らしながら言う。
「ほら。この女も、そう言ってんだ。ちゃっちゃと話し前よ。あの化け物が来るまえにな」
「うむ。それはそうでござ――っぐ……ォえ゛! っふ……ぅうう……っはぁー」
スミタが頷いた。
咳き込みながら。
こと、淡々と話していく。
思い出して、言葉を選びながら。
「拙者の故郷。日本の小さな藩。《佃田》藩主の湯気しげ洸の兄で在った。病弱であり嫡男であったにも関わらず。藩主になれなかった男でござる」
「要は逆恨みでしょ? それって」
ジノミリアがスミタに言う。
それにマサルが、
「逆恨みとは個人の感覚。感情論さ。先に見えない人間ほど……そういう栄光が欲しくて欲しくて堪んなくなるもんなんだよ。女にゃあ分からんねぇだろぉが。男って奴ほど。そいつを手にして――長く生きてぇもんさ……無茶だって。どっかじゃあ分かってんのに。歯止めが、枷がなくなっててよ」
何かを。また思い出したかのように言う。
「俺にも。分かるよ。その感情論は」
「はぁ? 訳の分からない悟りとか迷惑なんですけど? 死ねば? あんた」
「だから言ったじゃねぇかよ。女にゃあ分かんねぇ~~ってよぉ」
口を尖らせるマサルの前に。
カエデが膝を折った。
見て来るカエデに、マサルの眉間にしわがよる。
「しっつこいってのも嫌われる原因でっすよぉー~~??」
口を大きくさせてカエデに吐き捨てる。
なんだけど。
「……無言で見るのも嫌われるんだけどね!」
一向に。カエデは無言で。
ついにはマサルも諦めて無視をして続けた。
「で。結局んとこ。その重惏ってのはどうしてああなったんだよ??」
「大事なものを盗って。この異国に逃亡して――追っ手によってか、何かで。この墓場で死んだ。そうでしょう? スミタ君」
ようやくカエデが口にした。
それは確信に近い口調だ。
「うむ。左様でござる。カエデ殿の言う通りでござる」
口元を拭いながらスミタも言う。
それ以上は無理なのか。
口を閉ざした。
「で。スミタはどんな《呪い》にかかってんの? ソレって呪いの一種じゃあねぇの?」
閉ざしてしまったスミタに。
追撃をするかのようにマサルのすかぽんたん男が言う。
「例えば……武器を使うと。ああ、なるとかなんとかで? どぅよ」
「うむ。一句として間違ってはいないでござるよ。マサル殿は能力者か何かでござるか?」
「はっはっは! あんなの見りゃあ誰だって分かるよ! なぁ?!」
笑いながらカエデとジノミリアを見た。
視線があった二人は目を反らした。
「――……おい。カエデ。お前はせめて分かってろよー……」
ぷっるるるん! と胸を弾ませて。
マサルが立ち上がった。
「いいかぁ? スミタ! いいことを。いや……はっきりとお前は言わなきゃ分かんないから。この機会に俺が教えてやる! いいか! あのなスミ――」
ブチチッッ‼
ビッシャアアアッッッッ‼‼
「‼ っへ?? え゛???」
腹部から突き出るそれに。
マサルは触ると、後ろへと視線をやった。
『君は邪魔だ。少し黙るといいよ』
薄い姿の――シゲリンの姿があった。
これは。
殺気だ。殺気の塊だ。
『これで。暫くは地面を這うね、すみ田君♪』




