第2話 招かざる侵入者
ド!
ドォォオオオオンッッ‼
「ぅわアアん! 揺れる~~‼」
僕は寝床で声を上げた。
近くで爆撃があったらしく。
住処も、大きく揺れた。
「メア! メア?! メアー~~??」
僕は、その衝撃に。
慌ててメアの寝床に行った。
すると。
彼女の姿はもぬけの空で。
僕は驚いた。
「メアー~~ッッ?!」
茫然とする中。
まさかの。
「ここが《グレース・セメタリー》でござるか!」
「そうよ! 恐怖に慄きなさい! 馬鹿なんだから!」
「しっかし。先ほどの爆音は近かったでござるな~~」
「《非戦闘地区》の近くに《戦闘地区》があるんだもの。仕方がないわよ」
入場者が二人がやって来た。
僕はとっさに貝の中に潜った。
たまに、こういう馬鹿がやって来て。
墓を荒らすつもりが墓に吸収されてしまう。
(何なの?! ちょっと! 何で来たの??)
チラーー……。
声がする方へと僕は、目を向けた。
近づく足音に。
僕の心拍数も上がって来る。
(早く行って! 死んで‼ お願いだから!)
「暗いなァ! あんた、何かないの??」
「なくもなーー……む゛?」
僕の願いも空しく。
壁に埋め込まれた無数の髑髏が。
淡く光り始めた。
(自動照明が発動したー~~ッッ‼ っひ、ぃいいい‼)
この機能は。
千年以上前の住民が生み出した技術だ。
未だに発動するのは。
ある意味凄いとは正直思う。
この自動照明は。
熱探知により点くんだ。
近頃。
こういう面白半分で来る。
人間や、人外が多いなぁ。
うんざりだよ!
「わ゛! きゅ、急になんだよ! びっくりさせないでよ!」
「ふむ。高度な文明期に創られた墓なのでござろう」
「--~~ムカツク! 何で、あんたは驚かないのよ‼」
「驚くまでもござらぬ。ジノミリア殿はタクシーに戻られてもよいのでござるよ?」
(何? この冷静な少年は???)
「運賃も払うでござるし。お主まで行くことはござらぬし」
僕は殻に籠る以外にも。
人外である能力がある。
それは。
(心を覗いちゃおう! 腹が読めないのが嫌いなんだよね!)
本音を読むという。
あんまり好かれない能力だ。
じー~~! と集中し過ぎたせいなのか。
「‼ あ! 《喰苔貝》じゃん!」
少女が僕の存在に気づいてしまった。
石よりは少し大きく。
背負っている貝に気づかれた格好だ。
「これさー~~美味しぃんだよね‼」
(っひ、ぃいいい~~ッッ‼)
確かに。
僕の種族は食べることは出来るだろう。
でも、僕はある意味最古の貝だ。
多分、食べれば腹を下すんじゃないのかな。
(たたたた、食べられるぅうう~~‼)
淡い光りの中。
女の手が僕に迫る。
でもだ。
「止すでござる。ジノミリア殿」
「いいじゃん! 食料の一部なんだし!」
腕を被り振る少女に。
「腹を壊されては困るでござる」
少年が僕を胸元にある布の中に。
放り込まれた。
「この者は拙者が装備するでござる」
「はァ?! いいよ! 予備の食料な! それッ‼」
「そこまで食したいでござるか。お主は」
「美味しぃんだもん♪ それ♥」
少女の名前はジノミリアと言うようだ。
頭上から弓なりに鋭利な角が一本生えている。
《毛長獣》の系統だろうと思う。
もう一人の少年の名前は。
まだ分からない。
でも。
分かることはーー彼はこの世界の人間ではないということだ。
ここは《グレース・セメタリー》なる世界随一となる巨大迷路のような墓場。
そして。
ここ《グレース・セメタリー》は世界最悪三大悪霊が眠る墓場だ。
「この壁の髑髏は」
「ん? ああ、この墓を作ったーー職人たちの死骸で作られているのよ。確かね」
ぺたぺた、と少年が。
壁に触れた。
彼に恐怖はないんだろうか?
普通なら気持ち悪がるとか。
そういう、もんだと思うんだけどなぁ?
「あんた。怖くないの? この髑髏の壁」
「いや。拙者の国は戰があった時代もあり。こんなものの比ではないでござるが、嫌になるくらい見ていたでござる」
「--……あんたも参加したの? その戦争に」
「うむ。確か、9歳のときでござろうか」
「そ。ま、戦争に年齢は関係ないしね」
怖い!
怖い‼
何て会話してるの?!
僕は袋の中で、身体を震わせた。
出来れば。
この中からも出たかったんだけど。
ひょっとしてメアとも会えるんじゃないかなって。
淡い気持ちもあって。
そうもいかない。
「んで? あんたはどの層の墓場に行くのよ?」
「む? 層ーーでござるか??」
「っへ? ぇ、ええ。この《グレース・セメタリー》は入り組んだ路で、かなりの埋葬墓地があるのよ? え?? あんたってば! そんなことも知らないで‼ こんな場所まで遥々とヒノモトからやって来たっての?!」
「ジノミリア殿。耳が痛いでござるから、声の音量を落として欲しいでござる」
少年は眉間にしわを寄せで。
ジノミリアに言った。
「これが言わずにいられるかってのよ! 本ッッッッ当に馬鹿ね! 大馬鹿よッッ‼」
でも。
ジノミリアは大きく声を出し続ける。
墓場に響き渡っている。
ああ! 眠ってる屍たちが起きちゃうよ‼
騒音でしかない彼女に。
僕も若干、苛立ってくる。
「何を言っても無駄でござるなぁ」
「はァ?!」
「一応。他の者から埋葬場所の地図は貰ってはいるでござるよ」
「早く言いなさいよ! 馬ッッッッ鹿! ちょっと貸してみなさい! 僕が見てあげるわ‼」
少年が頷く前に。
ジノミリアが、その紙を取り上げた。
「どれどれっと! ……ここは入り口だから、えっと?」
「どうでござるか? 近場でござるか??」
少年が顔を近づけたから。
僕も。
少年の地図を伺い視た。
で。
絶句してしまった。
っそ、そこは‼
少年が、こんな田舎の最果てまで追って来た屍。
どんな行いをして、ここに埋葬されたかなんて。
僕には想像もつかない。
でも。
きっとーーその屍は、ここまで逃げて来て。
ここを死に場所に選んだんだ。
遥々と、こんな辺鄙な場所まで。
どこで。
この場所を知ったのかも分からないのだけど。
恐ろしいまでに。
何かを企んでいたように。
(怖い! 怖い! 怖い~~‼)
きっと、追って来るだろう少年を。
待ち構えているかのように。
僕には思えたんだ。
「ジノミリア殿。如何でござるか? やはり、お主でも分からぬでござるか?!」
「失礼な言い方しないでよ!」
「む」
「分かったわよ! 場所がね‼」
ド。
ドッゴオオオオンンン‼
「「‼」」
また。
近くに落ちたであろう爆弾が爆発して。
この墓場を揺らした。
「また派手に。近場で爆発したでござるなぁ」
「そうね。全く! クソ野郎どもがッ‼」
「お主。女子なのだから、言葉を選んではどうでござるか?」
「五月蠅い!」
凄むジノミリアに。
少年も顔を横に反らして、ため息を漏らした。
髪をぐしゃぐしゃに掻きながら、
「で。近場ではござらぬか?」
そうジノミリアに訊いた。
「ええ。ここ、入り口からーーかなり距離があるわ。墓地のはそれぞれ名前の看板もあるの。で、この地図にも、その名前が書いてあるから。あんたの目的の墓場の記述もあるし! ちょっと、時間はかかるだろうけど、大丈夫! 行けるわ!」
頼もしいジノミリアの言葉に。
少年の顔もほころんだのが分かる。
「うむ! では参ろう!」
「そうね。いつまでも、ここに居てもしょうがないもんね!」
ジノミリアも少年も。
ここ《グレース・セメタリー》の恐ろしさを微塵も分かっていない。
僕だけが知っている。
その恐ろしさを。