第19話 鬼ごっこの始まり
『君が私達の間に立って。何の得があると言うのでしょうか』
シゲリンが顔を傾げた。
表情も真顔に近い。
『しかも、異国のすみ田君。君には全く関係のないことだ』
淡々とシゲリンがカエデに言う。
訊かれたカエデは煙草を咥え続ける。
無言で。
彼を睨んでいる。
目元鋭く。
『ただのお節介でしょう? 私達の藩の問題に異国の君が絡むこともない』
「お宅。生前はどうだったか知らないよ? 知らないけど。世間知らずのようだ」
口元をつり上げながら。
カエデはシゲリンに言い返した。
「――カエデ殿……お主は逃げるでござる!」
それにスミタがカエデに叫んだ。
この敵は危険。
つまりは――今、戦うべき相手ではないという。
そんな認識だった。
「お宅も馬鹿だねぇ? スミタ君」
「カエデ……殿――拙者を置いてに――……」
っふ、ぅううう――……。
「子供だろうが。大人であろうが。一回でも会って話せば仲間だよ」
にこやかに言うカエデに。
スミタが自身の長い髪に剣の刃をやると。
ザッッッック‼ と切った。
『……すみ田君。勿体無い。私は君の艶やかな髪が好きだったのに』
「好かれたくもない!」
短くなった髪に。
スミタも身体を震わせた。
――……怖いの? 震えているよ? スミタ。
(いや。首元が涼しくて)
小声で話す僕達。
自身から離れて行ったスミタを。
シゲリンは、口を尖らせた。
『――カエデ。君の名前はカエデと言うのか』
「そうですけど? 何か?」
『私の故郷にも楓なる葉があります』
「だから? 何だって?」
『秋になるとひらひらと舞い散るのですよ』
「だから?」
言い合い。
煽り合う二人に。
「だから! カエデ殿ッッ‼」
スミタがカエデの腕を引く。
でも、カエデは微動だにしない。
スミタは歯を、また噛み締めた。
そして。剣を鞘に納めた。
キン――……。
それを横目で見ていたシゲリンの表情が。
驚きと――喜びの何とも言えない色となった。
シゲリンの視線に。
表情に気がついたカエデも。
「――スミタ君? 一体な――……」
スミタの方へと伺い見た。
すると。どうだろう。
真っ黒な気がスミタから立ち上がっていた。
スミタの胸の中にいる僕にも分かる。
冷たい空気。いや。殺気――そのものだ。
「――『黒鉄よ! 拙者の手で唸れ‼』」
『あは! っはっはっは! 流石だ! 流石だよォ‼ すみ田君ンんン‼』
口を大きく開けて。
シゲリンが嗤った。
剣が銃に変わったことに。
カエデも眉を上げた。
訳が分からないとばかりに。
『《黒天獣銃》ッッッッ‼』
スミタも銃をシゲリンへと標準を合わせた。
短距離。いや、真正面からの狙い撃ちだ。
弾!
弾ッ‼
弾ッッッ‼
弾ッッッッ‼‼
「――スミタ君。お宅は一体、何なんだ?」
驚きに上擦った声で。
カエデもスミタに訊いた。
「そのような話しは後でござる! カエデ殿‼」
スミタも強い口調で吐き捨てるように叫んだ。
さらに。
「《経文結界! 厳重強度‼ 束縛ッッ‼》」
自身から文字を出し。
彼を包み込んだ。
『ああ。すみ田君、お得意の経文術式だね……これは、厄介だね』
はにかみながら言うと。
『いいよ。お逃げよ――鬼ごっこを始めようじゃないか』
視えない壁に両手をつけた。
両手からは黒煙が上がり。
煙が中を覆う。
『逃げろ♪ 逃げろ♪ 逃げろ♪ さぁ! 百まで……いや一万まで数えてハンデを上げよう♪』
「シゲリン!」
「カエデ殿! 行くでござる! ここは引くが吉でござるよ!」
そこへ。
「お! 丁度いいじゃん? 俺様登場!」
マサルが黒い靄で現れた。
「‼ っま、マサル君ッッ‼」
「きも」
「マサル君‼」
「うざ」
腕で引きはがし。
「スミタぁ? 怪我はねぇか??」
「うむ! 大事ないでござる!」
「うっし! じゃあ! 逃げるぜ‼」
ひゅん!




