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第18話 湯気重惏なる男

 スミタの目つきが、その色を変えた。

 怒りの色にだ。


『この私を追って来たのでしょう? すみ田君は』


 目の前にいる――シゲリンが話す度に。

 僕もさぶいぼが立った。

 とても冷やかで。

 でも、どこかいい匂いが辺りを包み込んでいた。

 

「重惏殿ぉおおおおッッ‼」


 駆け出したスミタにジノミリアも続いた。

「あの男女は!? 何だってのよ?!」

 

 かちゃ! と《黒鉄》を鞘から抜いた。


「その者は何者ではない! ただの遺骸でござるッッ‼」


 ジノミリアが欲しい情報ではなかったが。

 余計な情報はいいかと飲み込み。


 息を飲んだ瞬間。


『貴方は何方どなた様なのかな?』


 綺麗な顔の彼が――ジノミリアの前に在った。


「!?」


 驚く間もなく。

 そして、スミタも反応も間に合わず。


『邪魔ですよ。お嬢さん』


 鋭い目が、ジノミリアを射抜いた。

 口元は大きく口端を吊り上げ。


 嗤っていた。


「――~~~~っつ‼」


 シゲリンの手にも剣が握られていた。

 

『《事切れ丸》‼』


 縦に大きく振りかぶり。

 一直線に振り下ろした。


 斬ッッ‼


「っんのぉお゛おおぅ゛うう゛‼」


 その瞬間。

 マサルがジノミリアを抱きかかえて。

 黒い靄になって、その場から消えた。


『????』


 見たことのないものを見たシゲリンは。

 目を丸くさせたが。

 すぐに表情を元に戻した。


「マサル殿! 忝いでござるよ‼」


『? ああ、すみ田君』


 スミタが頭から、シゲリンの足下まで。

 一直線に剣を振り下ろした。

 手ごたえもあったはずだ。


 肉を、骨を切り刻む感触が。


 ただ。その斬る行為で死ぬのは。

 生きている人間だけで。


 彼は――元から死んでいる。


「っく!」


 スミタも剣をシゲリンから抜き取った。

 すると、切り裂かれた身体を。

 シゲリンが自身の手で合わせて。


 治してしまう。


『私は死んでいるんだよね? だって――今日までの記憶が私にはないんだもの』


 何かを確認するようなシゲリンに。

 スミタが足を踏み込み剣を左右。

 横一直線に振った。


 その動作を見ることなく。

 シゲリンは飛び上がり、スミタの頭を軸に。

 身体を翻して、後ろへと飛んだ。


『まるで。昨日のことのように思い出すよ。すみ田君』


「一体! 何をでござるか‼」


 スミタが勢いよく後ろに振り返った。

 すると。

 シゲリンはスミタの長い髪を掴み。


 自分の顔元まで、持ち上げた。


「っづ! ぁ、ああアァ゛ッッ‼」


 頭の皮膚が引っ張られる感覚に。

 スミタも悲鳴を漏らしてしまう。


『立派に成長したもんだねぇ。すみ田君』


 にこやかにシゲリンが言う。

 それにスミタも睨みつけた。

 歯を剥き出しに。


 っぐ! とさらに持ち上げられてしまう。


 髪を持つ手で叩き。

 剣で斬るも。


 離される素振りもない。


 すぅううう……。


「子供相手に。見っともないなァ」


 ふぅううう~~ッ!


 ここに来てようやくカエデが。

 シゲリンに声をかけた。

 そして。

 シゲリンもカエデの存在に気がついたようで。

 目を大きくさせたが、すぐ目を細めた。


『私の国は12歳では成人でしてね。子供の定義は通用しないんですよ』


「そいつぁ。お宅の国の話しでしょ」


 すぅううう――……。


「この国では立派な子供だよ」


 ふぅううう~~ッッ‼


 煙草の煙を口端から噴き出しながら。

 カエデも言い返した。


「大人は子供を守らなきゃいけないんだよね」


「いかん! カエデ殿‼ お主も――」


 かちゃ!


 カエデの手には銃が握られていた。

 それはシゲリンの額に押し当てられ。


「離せ。スミタ君を」


 細い目が吊り上がっていた。


『本当に。子蠅の分際で』


 シゲリンとカエデが。

 睨み合みあって。探り合うかのように。

 向かい合っていた。


 それは息が詰まるような攻防戦。


 

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