第13話 すみ田のゲージ
ぜひ!
はァ……はァ――……。
スミタ達は走っていた。息を荒くさせながら。
「本腰だァ?! 何を寝ぼけたことを言ってんの?! お前は‼」
ぷっるるん! と大きな胸を弾ませながらマサルがスミタに詰め寄るように言う。
それにスミタも、
「ようやく。少しばかし法力も戻ったでござる! 少々。荒いものも何とかすることも出来るでござるよ」
笑いながら言ったんだ。それにマサルのすかぽんたん男が。
「じゃあ! やれよ! ほら!」
「……――使ったとして。どれだけで、また。法力は貯まるの? お宅は」
カエデがマサルの胸を見据えながら、スミタに訊いた。
「ゲージってヤツだな。上と中と下って。どうすりゃあ、また使えるようになるかってこったな」
マサルはカエデの顔を殴りつつ言うんだ。なのに、その手を掴んで結んで、かつ、一緒に走ること止めない様子に、彼の執拗な何かを感じて。僕も見なかったふりをする。
なのに。
「男同士でなぁ~~に! お手て繋いで歩いてるわけぇ~~?? っは!」
ぺっし!
ジノミリアが、その手を手で叩いて離させんだけど。放っておけばいいのに。
空気も読めないのか? この馬鹿は!
「スミタ! それをやったらーーあんたは大丈夫なの?! 死なない????」
「死なぬでござるよ。拙者も、易々とは逝かぬ」
「どぉー~~だがなー~~元気な死体もいっしなァ」
叩かれた手を撫でながら、含みの言い方をするマサルに、
「お主が何を言いたいのか。拙者には分かるでござるよ」
スミタも大きく頷いたんだ。それにマサルも笑顔で訊き返した。
少し、意地悪な表情を浮かべているのが、僕には腹が立つ。知っていることを言わずに、知らない相手をおもちゃにするのはーー許せないし。趣味が悪いにもほどがあるんじゃないのか?
「! ふぅん? どんなだよ、スミタちゃん♪」
「拙者の身を心配をして言ってくれておるのでござろう?! 忝いでござる!」
「っは、はァ~~?! 何? 何?? 何なんだよ! その身勝手な解釈はッッ‼」
突然のスミタの言葉に足が絡まり、前のめりに転びそうになったすかぽんたん男を、溺愛するカエデが腕を伸ばして態勢を戻すのも手伝って支えながら、一緒にも走った。
「っす、すまねぇな」
「いいんだ」
はにかんだ表情が、髑髏の壁から漏れる灯りに照らされる。
「好きでしていることだからね」
「んな言葉は。あの女みたい奴に言ってやれよ」
マサルがジノミリアを指さしてカエデに言った。それも失礼だろうが! 指をさすんじゃない!
「! 何? 何なの?? こっち見んな!」
ジノミリアも慌てて腕を振った。
そんなときだ。
「拙者は。誰が何と言おうと、心配しようとも。命が削られようとも!」
三人のやり取りの中で、スミタが強い口調で言い放つと。
「構わぬ! 《呪経文》発動ッッ‼」
スミタの影からーー見たことのない文字が浮かび上がると金色に姿を変えて、僕達の前に丸い扉を模った。繊細な模様の描かれた扉が近づいていく。
それにマサルの足が止まりかけて足も絡み合って、またしても前のめりに転びそうになった。お前、いい加減にしろよ?
「ぅお‼ っとっとーーあ゛ァ゛‼」
「よーー……っと! 全く、お宅は♪ 自分がいないと転んじゃうね」
がっしりと腕で支えるカエデに、
「っす、すまねぇ……まぢで!」
マサルも、それしか言えないようだ。当たり前か。
胸が押しあたる腕に、少し、カエデの鼻下も伸びているように見えるけど。どうでもいいや。
「スミタ! っこ、これは!? 何なのよ?!」
「《経文陣》なる法術の、絶対なる。唯一の――《場所移動》するための法術でござる!」
スミタは額の汗を拭い、拭き払った。
スミタ無理をしているのは。僕にだって分かったよ。
恐らくこれも――高等術式なんだ。
「すっごー~~い! すごいじゃないの! スミタ! あんたってば!」
なのに。この女ときたらー~~ッッ! 目を輝かせて、スミタの背中を叩くんじゃない! バンバン! って‼
ただでさえ、走りながらやっているのに!
「った! ぃ、痛いでござるよ。ジノミリア殿~~」
「すごい! すごい! 他の役立たずよかよっぽどすっごー~~い!」
「「逆ブーメラン」」
それにマサルとカエデも小さく漏らした。
ジノミリアだって、役立たずの中に含まれるからだ。
「さ! では襖を開けるでござるよ!」
スミタが、そう言い放ちながら、その扉に手を掛けた。
「っきゃー~~♪ 早く! 早くぅ~~‼」
馬鹿女が、スミタをそう急かす。目を輝かせながらだ。
「うむ!」
スッパーーン‼
スミタが勢いよく扉を開けた瞬間。
僕達の身体も、中に吸い込まれるかのように。
辺りの光景も消えたんだ。
◆
「「「「「‼‼?????」」」」」
◆
その扉の先にあったものはと言えば。
「っちょ……あの……っは……はは……え?」
ジノミリアの腰が引けてしまう。
「あ゛ァー~~……ぅ、っと……ぅおー~~い!? スミタぁ~~!?」
マサルの口もスミタを咎めるように開くし。
「これは。困ったね」
カエデはーー落ち着き払いながら。
煙草を抜き、
すぅうう……。
っふ、ぅうううー~~……。
白い煙を吐いた。
「実に――困った事態の真ん中だね。スミタ」
低い口調でスミタに言い捨てながら。
「どうするつもりなの? これは」
スミタに確認をするんだけど。
当のスミタと言えば。
顔面蒼白状態だった。
そりゃあ、そうなるよね。
だって。
ぅ゛ううう゛……ァ゛アアア゛ァ゛……ア゛ァ゛ッッ‼
出た先の墓場の階層には、《屍》の大群の。
本当に――真ん中に出てしまったからだ。
たじろく三人を他所に。
「仕方あるまい! 初めての術式でござるし!」
開き直ったスミタが声を勇ましく上げた。
いやいやいや! 大声はダメでしょう! この状況はッッ‼
僕も慌ててしまうけど。今となっては――どうしょうもない。
「皆の者! 攻撃と! 防御の準備をするでござる!」
敵陣地の中心でスミタが叫ぶ。
だから! 声がでかいし!
「逃げよう! スミタッッ‼」
だから、ついつい! 僕の声も大きくなってしまうじゃないか!
本当に、この状況は!
洒落になんないよ‼ スミタッッ‼‼
「おいおいおいーお前は馬鹿なのかぁ~~? エドガーよぉ~~」
半笑いでマサルが僕に言うのに、
「何? 馬鹿に馬鹿とか言われたくなんかないよ?」
僕も、声を尖らせて言い返した。
「こぉ――~~んなさァー~~?? 敵さんの、真ん中からどうやって逃げるってんのよ?」
髑髏の壁から漏れる薄暗い灯りに僕達と《屍》が照らされる。
どうして、こうやって平然に話せているかというと。
どうゆうわけだか。
敵の《屍》が制止してしまったからだ。
僕達の存在に気づいたかのように。
これ以上の好都合があると思っているの?!
「っで、でも! 《屍》は動く様子もないし! 出るなら、今だろう?!」
すぅううう――……。
「それは。そうだろうけど……マサル君。お宅は戦闘型な方なの?」
「そう見えるってんなら。眼科行けよな!」
「だと……思ったから。訊いたんだ」
「さっきも言っただろう!? 俺は非戦闘型ってよォ‼」
「だっけ? ま。それならそれで」
っふ、ぅうううー~~……。
「自分はお宅を守ろう」
「僕を守れよな! 女の子なんですけどー」
ジノミリア唇を突き出しながら言うんだけど。
「「戦闘型でしょ」」
僕とカエデの口調が合わさったことに、マサルが笑い出した。
そんな僕達を横目に、スミタは目を左右、前後へと見据え。
何かを考えているようだった。




