第10話 男・子供・おんな
とん! と地面に足をつけたすかぽんたんに、カエデが眉間にしわをよせた。
「? どこが女だって? ちょっと身長が縮んだ少年じゃない」
すぅううー……。
「可愛い姿だ。嫌いじゃないよ」
ふぅうう~~……。
「‼ っげっふ! かは! お前~~最悪だな‼」
涙目で見上げるすかぽんたの彼は、さっきの女の子の姿とはうって変わって。幼児の姿になっていたんだ。目つきと、髪型だけがそのままで。
「泣き顔がいいね。そそられるよ」
「‼ おおお、お前はグレダラスかよ! 気色 悪ィ‼」
「……グレダラス? そいつは誰なの?」
表情を険しくさせ、カエデが膝を折ってマサルと正面で見合った。真剣な面持ちにマサルも頭を掻きながら、やや面倒くさい様子で。
「何でもかんでも話す必要なんかねぇだろぉうよ! っぶ!」
そう吐き捨てた彼の頬を掌で、カエデが挟み込んだ。
「仲間にそう関係ないとかは許さない」
「っべ、別に許されなくたっていいもんねー」
ぐぐぐぐ……ぐぐぐぐ~~‼
「ふぁい! ひァい‼」
カエデの手の上からスミタも手を添えて、マサルの頬を挟み押した。少し、スミタも眉を顰めている。ってかさ。こんなことしている場合でもないって……覚えてますか? 皆さん????
「口には気をつけるでござるよ? マサル殿?」
にこやかにドスの効いた声に、マサルも顔を縦に振るほかない。
「ふんふん!」
頷いた彼に、
「も。よかろう? カエデ殿も離すでよいぞ」
カエデにも、そう伝えると頬から掌を離した。
そして、立ち上がるとマサルを見下ろした。
「そんな姿じゃ足手まといだ。どうにかならないの? お宅」
煙草を口に咥え直すと強く吸引した。
「どうにかって。前回は、この格好であっちこっち行って戦ってたんだぜ!」
「だから? 今は足でまといになる。死にたいの? はい、腕出しな。拘束具をつけるよ」
「はァ?! 何でだよ! っふっざけんじゃねぇよ!」
鼻息荒く挑むように見上げながらマサルが。
ふぉん!
「「!?」」
その姿を消したのに二人の目が丸くなった。もちろん、僕もだ。
「エドガー君。見つけ出してもらえるかな」
「何処に行ってしまったでござるか! マサル殿わァ~~‼」
対照的な二人の言葉に、
「うん! 探して――……」
言ったときだ。
「うしっ! これで! どうだよ‼ カエデさんよォおお‼」
ぷるるるん! と豊満な胸を前に突き出した。もちろん、モロにだ。
「「…………」」
二人とも目が点になってしまっている。僕はもう慣れてしまっているから何とも思わないけど。改めて見ると――華奢で、健康的で安産型のお尻だ。
「? おぉい? カエデさー~~ん?! ほれ! どうだよ! ほれほれ!」
胸をカエデに突き出し、カエデの胸に押し当てた。
「この姿はどうよ? 足手まといにならない?」
「…………」
「ふむ。形のいい胸なのは分かったでござる。それでは参ろうか!」
大きく頷きながら、スミタが進もうとするのをジノミリアが引き留めたんだ。ああ、そういやいたっけジノミリアも声を上げた。
「あんたおかしいんじゃないの?! 男で! 幼児だったのに! 女になって戻って来たのよ!?」
「どんな姿形になろうとも――マサル殿は拙者たちの仲間でござるよ」
その言葉にジノミリアも、スミタの腕を離した。
「あんたも大概だわ」
「ははは!」
ガシャン! と何かが嵌った音が鳴る。
「へ? んンん゛????」
自身の手首に視線を下ろすたマサルの目に映ったには拘束具だった。カエデが無言で嵌めたんだ。拘束具とカエデの顔を見返すすかぽんたん。
「――……愛らしい。これで、ずっと。その姿だね、お宅は」
ぞわ!
ぞわぞわぞわぞわ――~~っっ‼
「おおお。お前はグレダラスよりたちが悪ィ~~‼」
「一回さー出た方がいいんじゃいのー? スミター~~????」
ジノミリアがスミタにそう訊いた。確かに、その方がいいような気がするは確かにするけど。それは僕が困るんだよね。メアを探しに行かなきゃいけないし。早く、会いたいんだ。
「出たって。状況は変わるってもんじゃねぇぞージノミリア~~」
マサルがジノミリアに吐き捨てた。すかぽんたん、いいぞ!
「! っわ、分かってるわよ! そんなこと人間に言われなくたって‼」
「人間になりてぇなぁー~~」
そう小さくマサルがぼやいた。
「‼ あ゛ー~~」
口元を覆うジノミリアにスミタも、
「これ! マサル殿。ジノミリア殿を苛めるのではないでござる!」
そう彼に注意をした。
された方は、満面の笑顔で。ぷるるるん! って豊満な胸を揺らしていた。
「……お主。いつまで、その半裸状態で居るつもりでござるか????」
「? 半裸って。男に興味あんのかよ? ちみっ子のスミタちゃんは♪」
はにかみ、意地悪な笑みを浮かべるマサルに。
「か、風邪をひくかもしれぬし! 何かに噛まれ死ぬかもしれぬ! だから心配をしたのでござる!」
スミタはマサルの腹筋に指で突き、噛みそうな早口言葉を言った。薄明りの中でも分かるほどに、注意する顔だ。ただ、それが彼に視えているかだ。
「つぅか。俺にゃあ、この腰巻きのタオルしかねぇし? 仕方ねぇじゃんか」
彼は自身の股間のタオルを指さした。足も裸足だ。
「お宅は本当に手間をかけさせるね」
ふぁさ! とカエデがマサルに自身のコートを掛けた。
「?」
「身長もあんまり変わらないし。着れるじゃないの」
「要らね」
マサルは掛けられたコートを地面に落としたんだ。よっぽど嫌なんだろぅなと思った。
「お宅。風邪ひきたいの?」
「腕! 袖に腕通さないで肩で着ろってのか?? 意味ねぇし! っは!」
「「ああ」」
マサルの言葉にジノミリアとスミタが納得の声を上げた。もちろん僕も頷いた。
「《最弱解除》」
がちゃり――……。
眉間にしわをよせながらカエデは拘束具の繋がっていた金具を外した。よっぽど着てもらいたいんだろう、としか思わなかった。
「あのさー何か、その優しさに下心が感じられて」
それはすかぽんたんも同じだったようだ。
「逆にドン引きなんですけどぉ~~? カエデさ~~ん????」
「下心がないなんて言ってもいないしね」
「要らねぇよ! こんなもん‼」
「いいから。四の五も言わずに着ろよ」
「いー~~や~~だね~~ッッ!」
ぎゃーぎゃーと言い合う二人を他所に。
ジノミリアが言う。
「スミタ。僕はさっき言ったように戻ることを提案する」
「うむ」
スミタも押し黙り、
「うむ」
ついには無言になってしまったよ。
「――……拙者達は落下したことは覚えているでござるか?」
ようやく喋ったスミタは、
「《経文陣》で戻ることは可能でござるよ」
戻れることを言った。言わなきゃいいのにさ。
「しかし。しかしでござる」
「何?」
スミタは地面から伝わる、弱い衝撃を感じていた。
「このまま戻れば。恐らく――いや。確実に後悔をすると思うでござる」
「本当に強情! もう! ……本当に、いつでも出られるのね??」
「うむ。それは約束するでござるよ」
頷くスミタにジノミリアも髪を掻き乱しながら、大きくため息を吐いた。
「じゃあ! 後悔しないためにも進むっきゃないわね!」




