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皆は魔法使い

作者: 神奈宏信

シャリーのアトリエというゲームのおまけで、スタッフさんがもし魔法が使えたなら飛んで会社に行くと考えて自分が嫌いになったと言っているのを見て思いついた、本当にどうでもいいしょうもない話です。

皆は魔法使い


 「やっべ。」

けたたましく鳴る目覚まし時計の音に、俺はベッドから跳ね起きた。

時刻は既に八時を回っている。

着替えながら、朝日が差し込む窓辺に置いてある机に駆け寄る。

何で起こしてくれないんだよとぼやきながら、制服に着替えて鞄を手に取る。

ドアを開けて、階段を駆け下りる。

玄関の隣に、リビングに通じるドアがある。

「なんで起こしてくれないんだよ。」

「もうそんな時間?」

キッチンにいた母親の声が聞こえてくる。

「そんな時間だよ。」

「だったら、飛んでいかないと間に合わないんじゃない?」

のんびりとした調子で母親が言う。

他人事だと思ってこの野郎・・・。

母は昔からそうだ。

おっとりとしているというか、どこか抜けている。

テーブルの上には、トーストが一枚置いてある。

他は調理中のようだ。

待っているほど暇はない。

「もう行ってくる。」

「ちょっと待って。今卵焼いちゃうから。」

リビングの奥にあるキッチンで、母はフライパンを軽く宙に放った。

さらに、卵を投げて指の上にフライパンをのせてくるくると回す。

殻の割れた卵が落ちてくるのを見計らってから、指先から炎を出す。

「そんな暇ないっての。」

「ちょっと待った!」

「うわっ!」

急に足を取られて転びそうになる。

母が左手を翳して、足元から岩を繰り出したのだ。

「こ、この野郎!」

魔法で強引に止めようとするなんて卑怯だ。

取り落としそうになったパンを慌てて受け止めて、母の方を睨む。

「浮遊魔法発動。」

母の周りから青い光が放たれる。

振り返りながら左手を薙ぐように振ると、フライパンの中の目玉焼きが飛んでくる。

「やべっ!防御魔法!」

目の前に青い障壁を展開して飛来する目玉焼きを受け止める。

それは、障壁に阻まれて顔の前で止まった。

「どこ狙ってるんだよ!」

「あら、ごめんなさい。ついうっかり。」

これだから母は・・・。

障壁を解除して、目玉焼きをパンに乗せる。

「ああ、もう行ってくるからな。」

パンをくわえて走り出す。

「いってらっしゃい。」

背後から、母親ののんびりした声が聞こえた。

玄関のドアに手をかけて開くと、一瞬身をかがめて魔力を溜める。

「はっ!飛行魔法!」

一気に魔力を放つと、体が宙に浮いた。

このまま学校まで一直線で十五分程度だろうか。

空には、スーツ姿の男や俺のように急ぐ人々がせわしなく行き交っている。

「速力上昇!」

更に魔力を解放して、速力を上げる。

時速にして70キロほどだろうか。

すると、急に背後から声が聞こえてきた。

「転送魔法-声。そこの少年。止まりなさい。」

やばい、警察だ!

振り返ると、青い制服姿の男が警棒片手にこちらに向かって飛んでくる。

この辺りの飛行速度制限は50キロだ。

くそ、この急いでいる時に!

無視するかどうか迷っていると、警察の手にした警棒に緑色の光が宿る。

「付与魔法-風。薙ぎ払うっ!」

いきなり攻撃だ。

薙ぎ払うように警棒を振る。

警棒に宿った風が刃となって飛んでくる。

「うわっ!官憲横暴!」

慌てて高度を下げて、地面に着地する。

すかさず警察が追い付いてくる。

腰から紙を取り出して、そこに何か書いている。

「はい。速度違反ね。」

イエローカードと書かれた紙に、速度違反と書かれる。

ただでさえ遅れそうなのに、いらないところで時間を取られる結果となった。


 警察が見ていないことを確認してから速力を上げて、何とか学校へ到着する。

玄関側面の窓ガラスを突き破るようにして中へと転がり込む。

前回りに受け身を取りながら、俺は魔力を収めた。

「ふう。セーフか。」

「雁里先輩!!」

澄んだ声が廊下に響き渡る。

よく通る声は、魔法を使わずとも俺のところまで聞こえた。

やばい、風紀委員の久留宮旭だ。

久留宮は、一年生にして風紀委員長を務める生真面目な奴だった。

そして、俺のような不真面目な生徒をよく取り締まりにくるため顔を覚えられている。

「くそっ!朝からついてねえ!」

下駄箱に駆け寄って上靴を引っ張り出しながら、逃げる姿勢を取る。

久留宮は竹刀片手にこちらへ向かってくる。

その時、突然玄関のガラス戸が全部粉々に吹き飛んだ。

勢いよく入ってきたのは、クラスメートの愛宕達弘だった。

「あっぶねー。」

強化魔法を利用して突っ走ってきたようだ。

地上を走る分には速度制限はないからな。

だが、今風紀委員長を前にしてそれは火に油を注ぐ行為だった。

彼女は俯いて地面を竹刀で叩き、わなわなと震えている。

「おう。どうした雁里?」

「やばいぞ、愛宕!久留宮が・・・!」

「今日という今日は許しません!!」

左手を翳して眼前に魔方陣を描くと、久留宮はそれに火を灯す。

「おおっ!」

どうやら愛宕も危機を察したようだ。

俺たちは慌てて廊下を走った。

「逃がしません!炎魔法発動!!」

魔力が溜まって、解き放たれる。

竹刀を振り下ろし、久留宮は叫んだ。

「全てを焼き尽くせ!!」

火の玉が幾重にもこちらに向かって飛来する。

廊下が赤く染まる。

火の玉は、頬を掠めて飛んでいき、廊下に並ぶ窓を悉く割っていく。

「「うわああぁぁぁ!!」」

悲鳴が重なり、辺りが爆ぜて体が弾き飛ばされる。

気が付けば、俺と愛宕は並んで廊下に倒れ伏していた。

俺の前に立ち、久留宮は竹刀を突いた。

「反省してください。」

鬼のような形相で仁王立ちしている。

「「はい。」」

俺たちは、倒れ伏しながらもそう答えるしかなかった。

「回復魔法―物質。」

突然そんな声が聞こえてくる。

制服の上に保健委員と書かれた腕章を付けた少女。

三年生の丹羽先輩だ。

割れた窓を直して回るのは、保健委員の仕事だった。

「丹羽先輩。ありがとうございます。」

久留宮は丹羽先輩に頭を下げる。

「いいのよ、久留宮さん。お仕事ご苦労様。ほら、皆。そろそろ予鈴が鳴るわよ。」

「おっと、いけね。」

立ち上がる愛宕に続いて、俺も起き上がり教室を目指すのだった。


 朝から随分と疲れた。

魔力をあれだけ使ったのだから、当然と言えば当然だろう。

数学の授業が始まるが、数式の話など頭に入ってくるはずもない。

前のめりになりながら、ノートを広げて席に座っている。

教員は、あれこれ話しているが右から左にスルー状態。

ダメだ、眠い。

かといって、眠っていたら怒られる。

机の上で軽く右手を上げて、魔力を収束させる。

「幻惑魔法。」

魔法を使用して、教員に幻惑をかける。

今、彼の目には俺は俯いて一生懸命ノートを取っているように見えるはずだ。

これで安心して眠れる。

机に突っ伏した途端、急に教室内に声が響いた。

「看破!!雁里!!貴様!!」

「やっべ!ばれた!」

幻惑魔法を解除され、実態をさらす。

看破されたということは、反撃がある。

立ち上がって、俺は逃げようと後ろのドアに飛びついた。

「お前の魔力で俺の目が誤魔化せるか!付与魔法―雷!」

チョークに雷を帯びさせると、教師はそれを宙に放った。

さっき、久留宮に炎魔法で撃ち抜かれたばかりだ。

その上、雷を付与したマグナム級のチョークを食らったら真面目にまずい。

「思い知れ!雁里!!」

右手を翳した瞬間、地面に対して水平になったチョークが、びりびりと光りながらものすごい速さでこちらに向かってくる。

両手を翳して、咄嗟に防盾を展開する。

「アブね!」

「まだまだ!俺の雷はその程度では防ぎきれんぞ!」

赤、黄色、青。

色とりどりのチョークに雷を付与して、それを飛ばしてくる。

盾を貫通してきて、慌てて頭を下げた。

黒板のチョーク受けのすべてが飛来したようで、漸く攻撃は止んだ。

「あ、危なかった・・・。」

「馬鹿め、雁里。それで終わったと思うのか。」

教師はにやりと笑った。

右手をこちらに向けて翳して、大きく開いた。

「はっ!」

辺りを見渡すと、今まで飛ばされたチョークが俺を囲むように浮かんでいる。

「見るがいい!俺の究極雷魔法!発動!すべて爆ぜろ!そして、眠れ!」

一気にチョークが俺に接近する。

そして、教師が手を握った瞬間、その全てが雷を放ちながら爆発した。

弾き飛ばされ、宙を舞う俺の体。

やっぱり、教員に魔力で勝てるわけないか。

最終的に地面に倒れ伏しながら、俺はそんなことを思った。


 「お前、そんなことばっかりやってると死ぬぞ。」

更衣室で着替えながら、愛宕が言う。

「そうかもな。でも、面倒なものは面倒だしな。」

「否定しないな。」

愛宕は小さく笑った。

これから、体育の授業だ。

ジャージに着替えて、俺たちは更衣室を出た。

「やっぱ、人生楽しまないとな。」

「そうかよ。」

呆れながら、俺たちは整列する。

今日の授業は、ドッヂボール。

準備運動をして、体をほぐし、チーム分けを行う。

体をほぐすといっても、もう嫌というほどほぐれた。

警官に風魔法を撃たれ、久留宮に炎魔法を食らい、教員の雷魔法で爆ぜた。

これ以上ないほどに体はほぐれていることだろう。

魔力のコントロールも十分だ。

「用意!」

体育教員の号令に合わせて、陣営分かれて向き合う。

笛が鳴り、試合が始まる。

ボールを持った生徒は、それを頭上に投げる。

「魔力解放!氷魔法発動!」

「くるぞ!」

辺りが白く染まる。

他の生徒たちも身構えた。

「氷弾。貫け!」

吹雪で視界が悪くなる中、大砲の弾のような速さでボールが飛んでくる。

隣に立っていた生徒に当たり、爆風が起こる。

「くっ!!」

俺は、顔を両手で覆った。

白い雪が舞い、こちらに襲い掛かる。

全てが去った時、生徒は倒れ、ボールが近くに落ちている。

「九番、アウト!」

笛が鳴る。

生徒は起き上がり、外野の方へ向かう。

「畜生!やってくれたな!」

俺は、ボールを拾い上げて構えた。

相手側の生徒も、防御魔法などを展開してこちらの攻撃に備える。

「お返しだ!覚悟しろ!」

俺は、地面に拳を当てた。

母親直伝の岩魔法を展開する。

まずは、連中の盾を破壊する。

「食らいやがれ!究極岩魔法発動!打ち砕けっ!!」

相手側のコートの地面が裂けて、剣山のように鋭くとがった岩が現れる。

「強化魔法―筋力!!」

愛宕の声が響く。

どん、と大きな音が響き、辺りに強い風が巻き起こる。

「くっ!なんだ!?」

煙が晴れる。

なぜか上半身裸になった愛宕が、足を交差させ俯き加減にマッスルポーズをとっている。

筋肉は隆起し、鋼のようになって奴を守っていた。

「あまいな、雁里。今時は物理の時代だぜ。」

「おめえは、気色悪いんだよ!」

コートぎりぎりまで駆け出し、大きく飛び上がる。

「強化魔法―速力!覚悟しやがれ!」

体が羽毛のように軽くなる。

目に見えない速さで腕を振り、風を巻き起こしながらボールが愛宕めがけて飛んでいく。

「ふんっ!」

ポーズを保ったまま、愛宕は反対を向いた。

奴の脇腹の横をボールが突き抜ける。

爆音が鳴り響き、ボールが当たった壁が大きくへこむ。

「外したか。」

小さく舌打ちする。

「ふっ。俺を舐めるな雁里。」

「馬鹿め!ボールはまだ外野だ!」

俺が指さすのと同時に、先ほど氷魔法で弾き飛ばされた生徒が壁にめり込んだボールを引き抜く。

ボールを抱えたまま屈む姿勢を取ると、急に彼を光が包んだ。

垂直に高く飛び上がる。

愛宕は、俺との勝負に熱中していて外野の目の前だ。

他の生徒は、ライン際まで逃げてきている。

「光魔法!見えた!」

光をまとったボールが、レーザーのように愛宕を狙う。

「うおっ!!」

両手でボールを抑える愛宕は、その勢いに押されてライン際まで下がってくる。

だが、ライン際でまさに筋力に物を言わせて耐えきった。

多分、あれで今朝ガラス戸を粉砕したのだろう。

「ふう。危なかったが、それまでのようだな。今度はこっちから行くぜ!」

奴は、普段鍛えた筋肉を魔法で強化したことだけに物を言わせて、ボールを振りかぶった。

「行くぜ!マッスルボール!!」

「強化魔法、範囲強化。速力!止まって見える!」

コート中央にいた生徒が、周囲に強化魔法を周囲にばらまく。

愛宕が投げたボールは、すごい速さで飛んでくる。

だが、それを回避する生徒の動きも、強化魔法のお陰で早い。

壁をへこませて跳ね返ったボールを、相手側の外野が素早く拾い上げた。

後方の外野は、ボールを高く放って素早く横の外野にボールを回す。

ボールを受け取った外野は、内野にボールを流す。

それをぐるぐると繰り返すうちに、一人の生徒が叫んだ。

「合体魔法だ!」

「全体攻撃か!備えろ!」

それぞれ、防御魔法や強化魔法で対策を取る。

コート内に、ボールの流れと同じ方向へ風が起こる。

これはまずい。

「カットだ!」

ボールさえ取れれば、魔法の発動自体を阻止できる。

岩魔法で壁を作れば。

「もう遅い!!」

コートの正面に立つ生徒にボールが渡った瞬間、彼はそれを宙に放り投げて両手を広げた。

外野の生徒たちも、両手を広げて立っている。

「合体魔法発動!全ては灰燼と化す。」

風が、炎が、氷が、雷が。

それぞれ、入り交じってコートを取り囲んだ。

「くるぞ!」

「避けろ!」

生徒たちは、口々に叫んだ。

全ての属性を吸い込んで、ボールが上空から振ってくる。

辺りを一瞬眩しい光が包み込んだ瞬間、凄まじい揺れが体育館を襲った。

「くっ!」

頭上から鉄骨などが降ってくる。

体育館は半壊状態だ。

爆風を辺りが包み込み、悲鳴がこだまする。

防御魔法で何とか耐えきるが、三名ほどが一気にやられた。

「十番、八番、三番、アウト。」

教員は、何事もなかったかのように笛を吹く。

所詮高校生程度の魔力では、教員はびくともしないようだ。

こうなれば、親父直伝のあれを使うしかない。

うちの親父が会社でブチ切れて使ったらしい究極の闇魔法。

「うおぉ!!くらえ!社会への怨み!」

「雁里!やめろ!!」

教員が叫ぶ。

その頃には、既に詠唱が終わっていた。

「究極闇魔法発動!全て飲まれろ!」

両手で抱えたボールに闇を纏わせ、一気に解き放つ。

大きな闇となったボールはすべてを飲み込んでいく。


「「ぐわああああああ!!」」


生徒たちの悲鳴がこだまする。

ボールは、体育館のみならず校舎さえも呑み込み壊滅させた。


 「究極回復魔法―物質。」

丹羽先輩が手を翳す。

白い光が辺りを包んだ。

残骸のみが残る校舎が再生していく。

「雁里先輩!!」

校舎が復活するのと同時に、当然の如く久留宮がやってくる。

これはまずい。

他の生徒も、白い目でこちらを見ている。

これはまずい。

「ひ、飛行魔法!!」

「逃がしません!!炎魔法展開!追尾魔法!どこまでも追いかけます!!」

炎を纏う石礫が、まるでホーミングミサイルのように俺を追いかける。

こうして、ボロボロになって撃墜された俺は生徒指導室へと連行されるのだった。



という、どうでもいい話でした。

個人的に、あまり特別な力を持っていてどうこうという話は好きではないんですよね。

皆平等の方がいい。そして、皆平等だとするとこうなるのが私のお話でした。


ちなみに、どうでもいい世界設定として、一人一人が魔力―マナを内包して生まれてくる。

そのマナの流れをしっかりと見極めて理解することによって魔法が発動できるという世界なのです。

そのマナの多さが魔力の高さとなります。そして、生きていく内に自然界に存在するマナを吸うので、

当然歳がいっている人の方が魔力が高くなるという設定です。

だから、教員の方が強い。老人の方が強いのです。

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