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片恋  作者: 文月 優
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その出会いは

小さい頃、まだ両親から愛されていると感じ、幸せだと思えた頃、私は自分の魔法が好きだった。

魔法を発現する歳は個人差があるが、私は物心がついた時から魔法を使えていた、のだと思う。


実際、自分でもどう魔法を使っているのかわからないのだ。相手の願いが鍵になり、自然に体が動きいつのまにか願いに見合う魔法を発現している。そのときだけは魔法の力がみなぎる感覚はあるのだが、いざもう一度再現してみようとしてできた試しはない。だから、はっきりと自分自身で魔法を駆使しているとは言い難い。結局他者のために使えても、自分のために使えない、というなんとも理不尽な魔法使いが私なのである。


繰り返すように、この魔法が最初から大嫌いだったわけではない。小さい頃は自分の力で誰かを幸せにするのが、好きだったし、自分も幸せな気分になれた。

でも、歳を重ねるにつれて、いい面だけ見てはいられなくなる。それに、叶えてあげようにも私の魔法には限界もあった。

みんな自分の幸せを優先する、いやみんな結局自分が一番大切で、一番かわいい生き物なのだ。

「お金持ちになりたい」

「~と両想いになりたい」

「~を生き返らせてほしい」

どうしても私の魔法でそれは叶えてあげられない。

「~を消してほしい」

「過去に戻って、やり直したい」

「~の力がほしい」

無理なものは無理だし、例え魔法で叶えてあげられると体で悟っても、私にも叶えてあげたくないことだってあるのだ。

自分の思い通りにいかないことだってあると諦めることも肝要なのに、私の力は他人のその感覚を鈍らせる。そして、挙句の果てに妬み、嫉妬の感情を植え付けた。

いざという時助けてくれるのが真の友というが、そんなものはもともといなかったから、涙することはあっても仕方ないと諦めることができた。15になるまで、友と呼べる同年代の子供はできなかったが、仕方がないことだ。私に近づいてくるのは、自分に都合がいいものだけ、私の価値なんてそんなものだった。

また、家族もそこまで絆があるというわけでもなく、虐待などはなかったものの、険悪な中になり、息苦しさから15になり家を出た。ずっと、望んでいたことだ。故郷を捨て、広い世界に出れば何か変わるかもしれない。いつか、自分の居場所が見つかるかもしれない、そんな淡い期待を胸に飛び出したのだ。




そして、彼に出会った。




故郷を出て、とにかくお金を稼がなければいけなかった。

最初はまだ運がよく、住込みの飲食店でアルバイトをして細々と生活していた。でも、欲が出て、魔法でこっそり稼ぐようになった。私の魔法の詳細は内緒で、なんでも屋と称し小さなこと(なくしたものを見つけてほしいとか、害虫駆除)から大きなこと(内容はいろいろ)まで魔法で解決できる依頼を受け、お小遣い形式で見返り(主にお金、その他食べ物)をもらうということをしていた。依頼によっては断らせてもらうことももちろんあった。

一年半ほど過ぎ、懐もあたたかくなるにつれ、物騒な依頼も増えていった。人から人へ口伝いに私の存在が知られていき、近くの大きな国からわざわざ私のところへ出向いてくる者もいた。そして、同じ魔法使いにも自分のことが伝わるということを甘く見ていた私は痛い目を見ることになる。


ある日、バイト先の買い出しから戻る途中のこと、

「あの、ここに何でも願いを叶えてくれる魔法使いがいるって聞いたんですが、ご存じないですか。」

いきなり声をかけられた。

物珍しさで、青い髪をじっと見ながら、

「えっと、何を頼みたいんですか?」

質問に質問を返す。同い年くらいのその者は、優しそうな口調を変えず、

「いやぁ、一緒に探してほしいものがあって。中々見つけやすいものではないんだけど、その子がいればきっと見つかる気がするんだ」

柔らかな物腰を崩さない。

探し物かぁ……。それにしても、見ず知らずの私のこんな対応に、依頼内容を詳細まではいかないが少し教えてしまうくらいのものなら、引き受けて大丈夫な気がするなぁ。

そんなことを思いながら、ふとおつかいから戻る途中だったのを思い出した。

「あ、私仕事中で戻らなくてはいけないので。こちら、どうぞ。では、失礼します」

その男に、私は仕事依頼で使うここから少し遠くのカフェの場所がわかる小さなカードを手渡すと、アルバイト先へ小走りで駆け出した。

まぁ、真剣に依頼を頼みたいなら、いずれまた会うだろう。カードには、アルバイトが休みの日の依頼時間も手書きで載せてある。勝手に感づいて、勝手に来てくれればそれでいい。最近妙に変な依頼が増え、そろそろ違う場所へ移ろうかとも思っているし。


アルバイトが終わり、私は床には就かずバイト先を後にした。依頼人の依頼を完遂するためだ。なんでも遠くにある物品をここまで運んでほしいとのことだが、どこかきなくさい気がして、予めうまくいかないかもしれない旨も伝えていた。やばいものじゃないといいんだけど……。

集合場所に着くと、依頼人たちがすでいた。

「遅れて申し訳ございません」

とりあえず一礼する。

タバコをふかしながら中年の男はいった。近くには3人の護衛らしき男たちもいる。

「あぁ、お勤めご苦労さん。早速だけど、始めてもらっていいかい?」

「……分かりました。それで詳しい情報をいただきたいのですが」

男性が隣国のとある住所をいい、こちらまで届けてほしいものの形や色などを事細かにいい、最後

「中身は、生き物が入ってる。つい、うっかり忘れてきてしまって」

遠くを見るような目でいった。

腹を決めるしかない、か。嫌な予感がする。一応、一通り私の魔法にも限界があるとは伝えている。

目をつぶり、深く息を吐き、私は右腕を前につきだした。そして、依頼人の望むものをこちらへ呼び寄せた。

『来い』

口には出さず、強く念じた。

黄色や白色の光が現れ、一瞬にして目の前に箱のようなものが現れた。いや、この形、嫌な予感が的中した。

棺桶だ。青色の棺桶。

依頼人たちは先ほどより喜んでいるような顔をしているが、私の予想が当たっているならすぐにそれも消える。早くここから去ろう。面倒事はごめんだ。

「依頼はこちらでよろしいでしょうか? 私はそろそろ行かないといけないのですが」

勿論嘘だ。相手は間髪いれず、

「いや、中身を確認させてくれ」

私は心の中で舌打ちをした。どうする、このままじゃ最悪な事態になる。絶対に回避しないと。

護衛のような者たちが重い蓋を開ける。ギ、ギギッとこすれる音がして、棺桶の中が見えてくる。

「ぎゃっ!」

護衛の男の一人が中から飛び出してきたものを見て、しりもちをついた。

蛾のような虫が一匹、外へ飛び出した。私はそろりと棺桶に近づき、案の定中に入っていたものを見て、歎息をこぼす。

「やはり、だめなのか……」

白骨を見て、依頼人はうなだれた。

そりゃ、無理だよ。私はどんな依頼でも回復魔法系の魔法は使えないし、ましてや死人なんて生き返らせるなんてできやしない。そう、説明したはずなんだけど。それでも諦めきれなかった気持ちはわかる。

護衛の人たちの悲しみも伝わる中、私は空気を読んで帰ろうと踵を返した。上手くいけば、逃げられるという一縷の望みがあった。

「逃がすな」

依頼人の声と同時だった。私は後ろから護衛の一人に左手で口を押えられ、右腕で体の自由を奪われる。

あまりの力の強さに、体に痛みが走った。恐怖と痛みに涙目になる。

「依頼は仕方ない、最初からダメもとだった。だが、こんな便利なものを見捨てる俺でもない」

依頼人が私を見ながら、胸糞悪い笑みでいう。

「娘を生き返らせてくれれば見逃したが、できないんじゃなぁ」

部下にタバコの火をつけさせながら独り言のようにいった。


どうする? 逃げなきゃ、こんなことなら最初から断っておけばよかった。とにかく後悔してる場合じゃない。っとに、こんなとき私の魔法は役に立たないんだから。


どうにか男の腕から逃れようとするが、大の男の力にかなうはずもない。

「なぁに、別にとってくったりはしなさ。きちんとこちらの言うことを聞けば、いい暮らしができる」

それって、裏を返せばいうことを聞かなければ身の破滅ってことだろうがっ。

そう思った時だった。


「うわっ!」

「なんだっ?」

男たちの声がした。

そして、彼らは赤い光に包まれて急に消えた。

一瞬の出来事に、私はその場にぺたんと座り込む。そして、殺されていたかもしれないという恐怖に一層駆り立てられた。

「大丈夫?」

その声に体がびくついた。声のしたほうを見て

「今日の……」

それしか出てこなかった。

今日のおつかい途中で出会った青髪がそこにはあった。

「それにしても、危ない橋わたってるなぁ、よく今まで無事だったね」

冷静な、でも冷たくはないその言葉に、私も心の中で同意した。本当に今まで運が良すぎたのかもしれない。

「どうして?」

「んー、それはどうしてここに? それともどうして助けたか?」

彼は苦笑いしながらいって

「両方、です」

私は片言気味に言い返す。

彼は首をかきながら

「そうだね、まず始めに俺はさっきの奴らと同じような目的じゃないからってことはいっとく。そこは安心してほしい。どうしてここに、というと、昼間君に会ったとき、俺の質問に君の返答や、このカードからから俺は君が噂の魔法使いの知り合い、もしくは本人と判断した」

昼間渡したカードをちらつかせた彼に、私は軽く頷く。

「まぁ、このカードに書かれてる日に君に会いに行けばよかったんだけど、好奇心ってやつで君の魔法や君自身に興味があった。で、働いている飲食店からどこかへ足早に行く君をつけてきたら、さっきの場面に遭遇。俺は自分の依頼もあったし、そこまで見過ごすほどの冷酷な奴でもないから助けたってわけ。あ、ただの興味本位でストーカーしたみたいになってるけど、そこは結果オーライということで引かないでもらえると嬉しい」

あはは、という感じの彼に私は息を大きくすって、はいてから

「ありがとうございました。おかげで助かりました」

頭を下げた。続けて

「このお礼は必ずします、私にできることであれば」

ようやく立ち上がりながらいった。

「見返り求めてないっていったら嘘になるし、それはありがたい」

相も変わらず感じのいい彼に、私は今のところ感謝の気持ちしかない。

「でも、俺の相談の前に、ここから一刻も早く出たほうがよさそうだ。君のうわさは隣国や、魔法使いたちの間にダダ漏れ状態。さっきみたいなのが今の今までなかったのが不思議なくらいだ。ここに思い入れもあるかもしれないけど、君のため、それに君の周りの人のためにも、ここから去るのが賢明だと思う」

「私も、前からいつかこんな日が来るんじゃないかと思っていました。それに近々引っ越さないとと思っていたので、ある意味きっかけができて良かったです。いきなりすぎて驚きもありますが……」

素直に彼の言葉を受けとめる。

「いろんな魔法使いがいるけど、君のような魔法は下手して悪用されかれないしね。すてきな魔法だとは思うんだけど」

「気を使ってくださって、ありがとうございます。あなたも、魔法使い、ですよね?」

「そ、君と同じ、条件付きだけど」

私に微笑みを向け、彼は大きく伸びを一つ。


そのあとは、何もかもとんとん拍子に事が進んだ。まず、一目散にお世話になったアルバイト先のご夫婦に事情を説明し、その日のうちに荷物をまとめて出ていくことになった。二人とも私がやっていたことを黙認してくれていて、それでも何も私に求めなかったいい人たちだった。どうしても最後に何かお礼がしたいという私に、二人がそこまでいうならと店の改築を頼んだ。私は快く引き受け、数秒にしてお店は古風な雰囲気は変わらずに新装開店できる状態にして、彼とともにここから消えた。

そう、言葉通り一瞬にして消えたのだ。


「さぁ、着いた着いた。今日は野宿でかんべんしてくれ」

「すごい、一瞬で」

辺りを見渡す私に

「それはどうも。さっきもいったけど、俺も君と同じで魔法を発動するには条件があるんだ。君の場合は……」

「他者の願いや幸せ、ですね」

「そう、俺の場合は、やっかいなことに、これなんだよなぁ」

そういって彼の手のひらから現れたのは、赤いガラスのような欠片だった。

「宝石? ですか」

首をかしげる私に

「やっぱり、知らないよね。これは、よく分かんない赤い石」

「え? 自分でも分からないんですか」

「うん、名前も何も分からない。いろんな人に聞いたり、鑑定もしてもらったけど、いまだに謎の赤い石。でも、この世界のどこかに散らばっているし、俺がこれで魔法を使えるっていうのは分かっている」

「………」

「あー、そうだよね。そういう反応になるよね」

「すみません」

「謝らなくてもいいよ。お互いこういうのは慣れてるだろうし。ただ、どうしても俺はこの先これが必要になるし、見つけたいと思ってる。それで君のうわさを聞いて、飛びついたってわけ」

なるほど、と納得した。確かに私の力なら、いける、気がする。あくまで、予想だけど。

「とにかく、そろそろ在庫が底をつきそうだから補充したいってのが本音なんだよね」

「分かりました、できるだけのことはやってみます」

「そうしてくれると助かるよ。まぁ、今日はお互い疲れたし、寝よっか」

そういって彼は、魔法アイテムの野外テントを出現させた。これは魔法が使えない人でも使用できる、便利アイテムの一つである。手の平サイズのミニテントを地面にたたきつけるとあら不思議。大きなテントが出現、どこでも野宿できる優れものだ。

「そうですね。じゃあ、お休みなさい」

私もかつて旅で使っていた古いテントを出そうとして、

「え? 一緒にこっちでいいじゃない」

いきなり腕をつかまれた。私はずるずると引きずられるかのごとく

「まだまだ寒いし。こっちで一緒に寝たほうがあったかいよー」

彼ののんきな声を聞いていた。

「あの、大丈夫、なんですか」

いろいろと心配になって聞くと

「大丈夫大丈夫」

彼は私の靴を脱がせ、自分の靴も脱ぎテントに二人して足を踏み入れる。


その晩、ほんっとうに何もなかった。

えぇ、今では悲しい限りですが、何一つ私や年若い女の子が期待する淡い、甘い出来事は何一つなく、隣で肩を寄せ合うように横になり朝を迎えましたとも。


あとで知ったことなのだが

「俺、寒がりだし、寝るときはいつも家族で川の字っていうか洲状態っていうか一人じゃ寝付けなくて」

後半なにいってるか、訳がわからず突っ込んでしまいました。



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