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片恋  作者: 文月 優
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終わりの始まり

この世界には魔法が存在する。書物にも魔法がでてくる話はある。


でも、自分の幸せのためには使えない魔法なんて……。

他者の幸せのためにしか使えない魔法なんて。


どうして私の魔法はこんな魔法なの?

こんなもの持っていたってどうしようもないじゃない。


私は、私だって……。



**********


私は、エルシャ。

胸あたりまで伸びた黒い髪に、明るい茶色の瞳。身長は150センチメートルほど。

荒地に吹く風に黒いローブがばたばたと揺れていた。

目の前には、右手に青色が所々見える灰色の兵士たち、

左手には赤色が所々見える灰色の兵士たちが対峙していた。

敵対する国同士が戦闘の真っ最中であった。

誰がどう似ても左手の赤組側が不利であった。兵士たちが負傷し、まともに動けそうにないのに対し、右手の青組側はまだ戦える余力が残っているのが明白であった。


こんな戦闘中のさなかに、いきなり部外者が現れて、どちらも戦うのを一時止めてしまった。

正直このまま共倒れしてくれたほうが、本望なのだが。

悲しくも、後ろにいる青年は、それをよしとはさせてくれない。


「もしかして、漆黒の魔女?」

左手の赤側組がざわつき始める。

どうせ、真っ黒ですよ。旅してる身として、汚れが目立つ色の服は使いづらい。本当は、白や他の色の服だって憧れないわけはない。

「王子、ここは奴を頼りましょう。」

他の兵より権限がありそうな30前後くらいの歳の男の声が聞こえた。

王子と呼ばれた20歳も満たなそうな金髪の優男が、不安そうな顔でこちらと男の顔を交互に見た。

しばらく話し合っていたようだが、

「助けてくれっ。」

私を頼ろうと提案した男が私のほうに来て懇願した。

その様子に右手の青組側も一瞬ざわめくのが分かった。

「どのように助けてほしい?」

私はぶっきらぼうに睨みつけて尋ねる。

「今この戦い、我らを勝たせてほしい。」

「国ではなく、この戦いだけと解釈しても?」

私の言葉に男は王子を見て、王子は頷いた。

「それでかまわない。」

「殺すのはあまり趣味じゃない。向こうに負けを認めさせればいいか?」

私の質問に痺れを切らしたのか、

「この戦いに勝利できればそれでよい、私はこれ以上仲間の血を見るのはごめんだ。望むものなら、与えられるものはなんでも与えてやる、魔法使いの者よ。」

「なんでもいいんですか?」

私の感情のない声に王子も一瞬たじろいだが、

「国の代表として誓おう。」

「分かりました。」

口の端を挙げた私の言葉に、右手の青組側の一人の男が

「おい、お前、話が違うじゃねーかっ!」

そういったのと同時であった。


右手の青組側の兵士たちが一斉に倒れた。

左手の赤組側の兵士たちはぽかんとしていた。

私は、先ほど私に声をかけた者に近づく。

「お、まえ、最初から裏切る気だったのか。」

「いいえ。そもそも私はどちらにも味方する気ありませんから。それにしても、よく喋れますね。動けないはずなのになぁ、鍛練すれば魔法が効きにくくなるんでしょうか?」

独り言のようにつぶやきながら、その者の首に掛けられていた黄金のネックレスを奪い取った。

男が何か私に言いたそうな目をしていたが、結局何も言わなかった。

そして、落とし物を届けるかのごとく、王子の前にそれを持ってきて、

「向こうの国の国宝並みのお守りだそうです。戦いに行く際、国一番の強さを誇るものに身につけされる風習だそうで、これを国に持ち帰ればこの戦いに勝利した証になるでしょう。」

「あ、あぁ、助かった。」

手渡して、私はあいつのところへ戻ろうと歩みを進める。

「お、おいっ!」

呼び止められ、

「まだ何か?」

不思議そうに聞き返す。

「あ、いや、その。褒美、褒美の件だが。」

「あぁ、お国に帰られてからで結構ですよ。金銭が本望ではございませんので、ご安心ください。」

王子に不快にさせない程度の微笑みを心がけ微笑んで答えた。


「か、帰るか。我らの勝利だ。」

王子のしまりない声に、兵士たちも

「勝ったのか?」

「でも、もう戦わずに済むなら……。」

困惑しながら左手の赤組側は帰って行った。


もう、平気だろう。そう思い、魔法を解いた。

地面にへばりつき、動けなかった青組側の兵士たちが

「あ、動ける」

「いやぁ、大丈夫とは分かっていても、殺されるかと思ったなぁ」

体が自由になり、もぞもぞと動き出した。


ふぅ、と小さく息を吐いた瞬間、

「お前、一体どういうつもりだっ! もう少しで圧勝できたのに」

一人の兵士に肩を掴まれた。勢いが強く、フードが後ろに落ち首から上がはっきりと外にさらけ出される。

息を吐き、眼前の男に口を開こうとしたとき、

「落ちついてくださいよ、こいつに考えあってのことですから」

私から男を引き離すという冷静な対応をとったのは、長年一緒にいた相棒だった。

男はしぶしぶ、相棒の涼やかな笑顔に引き下がってくれた。



**********



あぁ、どうしてうまくいかないんだろう。

私の考えていることを察してくれて、こんなにも頼れる唯一無二の大切な人。


それなのにどうしてこうなってしまったんだろう。


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