番外編・前編 「レイエンてめぇ表出やがれ」
前にちらっと言った番外編です。
最終話その後。
「……ここで、とある方からご祝辞を賜りたいと思います。では、どうぞ!」
司会の男が、繕った明るい声でそう言って、“その男”は壇上に上がった。
その姿に、一部のものたちがざわつく。
新婦もただ驚きに息を呑み、新郎もまた言葉を失った。
「えーご祝辞を述べさせてもらいます、魔族全員が協力したことで一億年に一度の奇跡が起こって、あの世から召喚されました……」
その男とは——
「どうも、花嫁の父です」
変身した俺である。
話はしばらく前に戻る——
「国を挙げての結婚セレモニーだ!?」
「うん」
「お父さんそれ聞いてないぞ!?」
「え、だって言ってないし」
ユリアは何言ってんのとばかりのキョトン顏で俺を見てきた。解せぬ。
しかしこんなに興奮していては話が続けられない。
ひとまず落ち着かないと。
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……よし大丈夫。
「それで、式はいつなんだ」
「明後日」
「明後日!?」
前言撤回。全然大丈夫じゃない。
「なんっ、えっ、明後日!? 急すぎるだろ!」
「いや、でももう招待状も出しちゃったし」
「出しちゃったの!?」
お父さんにいうより先に!?
つまり、俺よりも他人が先に知ってたってことだよなぁ!?
「しかも、招待状って……え? 国を挙げての結婚式が招待制?」
「いやいや、国用のセレモニーはまた別だから。明後日の式は、まず身内で集まって祝ってもらおうってことで」
「最大の身内を差し置いてるのに!?」
「えー、だってお父さん面倒なんだもん」
グサリ。い……今のはかなり心臓に刺さったぞ……。
ショックのあまり倒れこみそうな俺に、ああ違う違う、とユリアは付け足した。
「お父さんの性格とか存在とかが面倒ってことじゃ……なくはないけど……」
ユリアさん、聞こえてますよ。
「と、ともかく一番に面倒なのは、ほら、お父さんって死んでることになってるから!」
「死ん……ああ、そっか。俺ってユリアに——勇者に倒されたことになってたっけ」
「そうそう、それなのに参加したらほら、騒ぎになるじゃない」
「あー……」
確かにそうだけど。
「そもそも騒ぎになるような奴に出したのかよ?」
「あーうん。ほら一行のみんなには出したからね」
「なるほど。……少し気になってたんだが、あいつらって今どうなってるんだ?」
「……えっと、まぁみんな元気にやってるよ」
その間が凄い気になるんだが。
レイエンも、自分のせいでという引け目があるのか、チラチラと少し聞きたげに視線を向けてきている。
「えっと。まず剣士は覚えてる?」
「ああ」
あの豆腐メンタルな。
「あの人はまぁ、魔王討伐の功績が認められて、さる王国の王女と結婚したよ」
「おお! 大出世じゃないか!」
「うん……でも週に一度くらい泣き言の手紙が来るけどね……奥さん凄い怖くって、しかも逃がしてくれないんだって」
「……」
頑張れ、豆腐。
「じゃあ、あの魔術師は? ……捕まったのか?」
「ああ、あの事件は結局、さらわれた女の子の方も魔術師にベタ惚れでね。結ばれたみたい」
「それはよ……」
「ただ、女の子が大きくなってきちゃって、魔術師の方が冷めて、今は喧嘩が絶えないそうだよ」
「……くないな」
ロリコン! 芯までロリコンかよあの男!
中途半端な誇りしか持ってないくせに!
「あとは、あの僧侶か」
「まぁ、あの人はね……うん、今は良い人だよ。私が本気で教会とあの人たちの心の“お掃除”にかかったからね」
その言い方に不穏なものを感じて、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「……それってまさか粛清とかそう呼ばれる掃除じゃあないよな?」
「……黙秘権を行使します」
「ああやっぱりそっちなんだ!?」
「黙秘権を行使します」
くっ、セリア……! 俺たちの娘がいつのまにか黒く染まってしまいました……!
「でも、話聞いてる限りそいつら来れなそうじゃないか。なら俺が言っても大丈夫じゃないか?」
「いやいや、村のみんなとかも呼ぶんだよ!? 無理、ゼッタイ無理!」
くそ、俺が存命の時にはなかった反抗期が、よりにもよって今来るなんて……ん?
「えっ、てことはなに!? お父さんのユリアの結婚式出れないの!? 晴れ姿見れないの!?」
「だから最初からそう言ってるでしょ!」
「マジかよぉっ!?」
「ああもう、お父さんうるさい!」
そりゃうるさくもなる。
だって可愛い娘の晴れ姿、あきらめていたそれが、明後日に実現するというのに!
「見れないだなんて……っ!」
「もー、こうなるから教えなかったのー!」
こうなるからってなんだー!? なんて怒鳴る俺たちに、まぁまぁ、とレイエンが口を挟む。
「まぁまぁ、お二方とも落ち着いて……」
「お前は黙ってろレイエン!」
「は、はい」
「ちょっと、お父さんレイくんに当たるのやめてよ!」
レイくん? ……レイくん!?
「ちょっと待て! いつの間にそんな呼び方する関係になってんだそこ!?」
「呼び方!? もうすぐ結婚するんだし、このくらいの呼び方普通だけど? お父さん考え方古すぎ!」
「ハァア!? そもそも俺、二人にまだ結婚していいとか言ってないし! レイエンからも正式に“僕に娘さんを〜”とか言われてないぞ!?」
「えっ、あ、僕にユリアさんを……」
「「今言うの!?」」
「えっ!?」
二人に口を揃えて言われて、オドオドしだすレイエン。
三本目の腕までワタワタと動いている。
「えっ、でも言わないと……」
「いやもう遅いからな!? 普通前に言うもんだし! これもはや事後報告だし!」
「じゃ、じゃあ、えっと、ユリアさんは僕が貰いました!」
「あ、レイくん!」
過去形……だと……!?
もうユリアは俺のものだ的な?
もらっちゃったぜ的な?
……よし。
「ちょっとレイエンてめぇ表出やがれ」
「えっあれ、ダメでした!?」
「あーもうレイくん天然すぎ……でもそこが好き」
「ユリアそこで惚気ない! そしてレイエン、お前はニヤニヤすんな!」
一層カオスになっていく状況の中、しかしカオスはこれだけじゃすまなかった。
突然家の扉が開いて、声が飛び込んできたのだ。
「陛下!」
「うるさい今取り込み中……え?」
俺のこと、陛下って呼んだってことは……。
警戒するように表情のユリアと驚いたのか間抜け面のレイエンの、その視線の先を追うように振り向く。
そこには、二度と会いたくなかった者たちがいた。
「陛下、お久しぶりっす!」
「再びお会いできるとは……!」
「し、死んじゃったかと思ってました〜っ!」
「……どうも」
それぞれ全然違う反応を返してくる四人。
その特徴的な髪色なんかが、あからさまに彼らが魔族であることを示している。
「ちょ、なんでここにいるんだよ四天王……!」
「四天王?」
ユリアの不可思議そうな声が妙に響いた。
後編に続きます。