四人目 「まずは清く正しい交際から」
「ちょっと待って。魔王が……私のお父さん!?」
ユリア、素が出ている。
しかし俺だってそれどころじゃない。
「それは今良いだろう。で、この兵士が——」
「私の話が先! そんなのは後!」
「あ、はい」
思わず勢いに飲まれてしまった。
なかなか強くなったなぁ……ユリア。
死んだ妻にちょっと似てきたかも。
そしてそんなの呼ばわりした兵士が微妙にショボンとしているように見えんでもない。
まぁ、同情はしないけど。
「でも、だってお父さんは死んだはずで……」
「転生したんだよ、魔王にな」
「何で魔王に」
うん、いや、それは俺も思ったけど。
「だけどユリア……お前がこうして立派に成長しているのを見れて、俺は幸せだよ」
「……お父さん」
「ユリア」
さぁ胸に飛び込んでこいとばかりに手を開けば、ユリアはタタタッ、と走ってきて——その腕をぱしりと弾いた。
ええー?
「感動の再会っぽい雰囲気を作っても無駄だからね」
「そうか……」
お父さん、ちょっとこう「お父さん、会いたかった……!」でギュッとされるような展開、期待したんだけどなぁ……。
「第一、魔王がお父さんだって証拠はあるの? 正直あれだけ騙しておいて、今更そんなこと言われても」
「いや、あれはそんなつもりじゃ……」
「はい黙って魔王兼お父さん(仮)!」
かっこかり、って酷い!
「証拠は?」
「……言っていいのか?」
「……何を言う気なの?」
こちとら一応お父さんだもの。
弱味……というか、恥ずかしいだろう過去の話のストックなら結構ある。
「子供の時、村で一番大きい木の上には子供を食べる魔物がいるんだよって言ったら一人でそこいけなくなっちゃったとか」
子供ならでは臆病エピソードをバラせば、うっ、と一瞬詰まった。
「で、でもその魔物なら出発前に倒してきたもん!」
「え、本当に魔物いたの!?」
ちょっとした冗談のつもりだったんだけど、まじか。
「な、ならえーっと、宿屋の前の犬の置物を本物だと思って延々と話しかけ続けちゃったとか!」
「あ、あの犬ならとうとう魂宿って、今は宿の看板犬してるよ?」
「魂宿った!?」
俺の死後、なんかすごいことになってないかあの村!
いつか立ち寄ってみたいとか思ってたけど、ちょっと怖くなってきたぞおい……!
「あと他に、は……」
「ああでも、言うのはやっぱりもう無し! 恥ずかしいし! 他の方面から検証してこう!」
「あ、そう?」
残念そうなのを装ってはみたが、少し安心したのは秘密だ。
生まれ故郷が魔の巣窟になってそうで怖い……。
と言っても、俺がその王なんだけど。
「お父さんの名前! 言ってみて」
「ラクタ」
「じゃあ、お母さんの名前は?」
「セリア」
「そうだなぁ……じゃあプロポーズの言葉は?」
「え、ユリア知ってんの!?」
「いや、知らないけど」
じゃあ聞くなよ!
ちなみに、俺と共にこれからの時間を生きてくれないか、だ。
……ああ、思い出すだけで恥ずかしい。
ユリアは俺の質問への答えから、とうとう結論を出したようだ。
「うーん、まぁ聞いた感じでいけば……お父さんっぽい、かな」
「雑っ!」
「ん、でね、お父さん」
「早くも(仮)が取れてしまった!」
いや、つけておいて欲しいわけじゃないけどさ。
もうちょっと警戒心……警戒心が欲しいよ……!
ユリアは隅に寄っていた兵士を中心へと押した。
「はい、で、こちらが私の好きな人ね。零円さんです」
「くっ、言葉じゃまず伝わらないけど実際に漢字をみたらショックを受けるタイプの誤変換を……!」
「え? ああ、レイエンさんです」
当の本人はキョトンとしていた。
ふう、知らぬが仏という奴だ。分からないようで良かった良かった……。
って、何で俺がホッとしなきゃいけない!?
俺は仕切り直す為に、一つ、コホンと咳払いをした。
「えーっと? 二人はその、どうやってお互いを意識したんだ? 出会いは?」
二人はちょっと照れたように顔を見合わせた。
……くっ、我慢だ我慢。
ちゃんと話を聞かなければ。
「出会いは、その魔王城で……」
「えっここ?」
「初めて魔王を倒しに来た日に会って……」
「ん?」
「お互いに一目惚れ……」
「はいストーップ! ちょっと待ってー!」
初めて魔王を倒しに来た日って、要は初めて魔王城に来た日ってことだよな。
「じゃあ、何か。出会ったすぐ後に、この戦いが終わったら結婚するんだ、とか言ってたのか!?」
「え、そんなこと言ったっけ?」
「言ってたよ!」
だからこうして俺がんばったんだけど!?
……最近の若者怖い! 恋愛の展開が急すぎて怖い!
「しかも何、一目惚れ?」
「うん……えへへ」
「えへへ、じゃなくて!」
いや、兵士の方がユリアに一目惚れするのはよく分かるさ、だけど。
兵士——レイエンの姿をまじまじと観察してみる。
明らかに人じゃない、三本の腕と青い皮膚。
ギョロリとした目は爬虫類風で、口から覗く牙はギザギザに尖っている。
……え、マジで!? これに一目惚れ!?
「ユリアは男の趣味どうなってるんだよ!?」
「えぇ、ひどいよお父さん。それに、彼、ちょっとお父さんに似てるでしょ?」
「どこのどの辺りが!?」
「んー、腕、とか?」
「まさかの!」
前世じゃ普通の人間だし、今だってツノとかキバとか除けば、肌も髪も目も体も、だいぶん人に近いはずなのに!
ユリアには早急な目の手当てが必要だ!
「でも、人は見かけじゃないでしょ」
「そいつ人じゃないだろう」
「細かいことはいいの!」
前回同じ言葉で責められた俺の立場……!
「くっ……じゃあ、もう一つ聞くぞ。何で、この戦いが終わったら、だったんだ?」
「あ、それは、まぁ魔王が死んで、魔族と人間の和解ってことで結婚の方向に持っていけないかなぁって」
ね、とユリアが兵士に話を振れば、コクンと頷かれる。
あっぶね! 俺、うっかり知らんうちに二人の幸せの礎にされかかってたのかよ!
というわけで、とユリアは誤魔化すように笑い、二人で手を取った。
「「私たち、結婚します!」」
「阻止する!」
愕然とする二人に俺は小さな声で付け足す。
「……まずは清く正しい交際を経てからにしなさい」
二人は顔を見合わせて、それから小さく笑った。
……何がおかしい。
もしかしたら後日談も書くかもしれませんが、とりあえずここで完結です。




