表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

二人目 「お前なんかに渡してたまるか!」

剣士でないなら誰なのか。

俺は考えた末、ポンと手を打った。

あの魔術師か!


剣士に比べれば冴えない感じはあったが、あいつもかなりのイケメンだったし、思い返してみれば、割といつもユリアに近い位置に立っていたような気がする。


俺はこの前と同じ兵士を呼び出した。


「な、なんでございましょうか、魔王様」

「次は、あの魔術師を調べて来い」

「何を調べたら……」

「何でもいい! 趣味とか、好物とか……まぁともかく行って来い!」

「は、はい」


と、兵士が調べに出た翌日。

またもや勇者一行がやってきた。が。


「おい、剣士はどうした?」

「よくもぬけぬけと……お前のせいで未だ療養中だ!」


剣士弱っ! メンタル弱っ!

あのチャラ男の外見でまさかのガラスの心臓らしい。


「剣士の仇だ! 今日こそ私がお前を倒してやる!」

「剣士まだ死んでな——」

「黙れ!」


突っ込んでこようとするユリアを、慌てて手で制す。


「いや、待て待て! 俺はユリ……勇者と戦う気はない!」

「何だと?」

「お前!」


俺はピシッと魔術師を指差した。

え、自分? と不思議げな魔術師にコクリと頷く。


「な、なんで僕なんですか!?」

「うるさい! お前なんかに渡してたまるか!」


俺の可愛い娘を!

最後の部分だけ口には出さないが、俺には言うまでもないことだ。


「魔王……お前、また一人を嬲り殺しにする気か……!?」

「いや、だから殺してはないんだが」

「黙れっ!」


……流石にちょっと理不尽じゃないでしょうか、ユリアさん。

そして勝手に死んだことにされつつある剣士に、ちょっと同情する。


「もうお前の作戦には乗らんぞ!」

「いやいや、嵌める気はない。約束する」

「……本当か?」

「ああ」


そもそも、先日のはタイミングが悪かったのだ。

あの兵士が変な感じで入ってこなければ、問題はない話なのだ。


「じゃ、じゃあ、行きますよ?」

「ああ」


そんな頼りない雰囲気を漂わせている魔術師が、杖を振りかぶろうとした瞬間。


広間の扉がバァンと開かれた。

あ、なんかデジャヴ。


「魔王様、ご報告します!」

「やはり嵌めたのか魔王っ!」

「え、いや、ちょ」


タイミングが悪い!


「そこにいる魔術師は……幼女趣味です!」

「趣味を調べろとは言ったけども! 確かにそれも趣味だけども!」


ほら、また……。

勇者様がたが、固まってらっしゃるじゃないですか。


「違う町にいくたび、必ず三人以上の幼女に声をかけておるとのことです」

「お前、まさか宿屋のあの子もそういうつもりで……」

「やけに仲がいいとは思っていたが……」

「い、いや、それは」


勇者一行はなんだか心当たりがあるらしい。

魔術師を見る目がどんどんと冷えていく。


「ちなみに、彼が勇者たちと酒を飲まないのは、酔うと自作の“幼女ロリの歌”なるものを熱唱してしまうからだそうです。

歌詞なども調べてきましたが、フルで歌いましょうか?」

「やめたげて!」


勇者たちの、魔術師への視線はもはや絶対零度の域である。


「お前、本当に……」

幼女趣味ロリコン、なのですか」


その質問に、魔術師は諦めたようにクククッと笑った。

あれ、目の錯覚か?

後ろに崖のようなものが見えるような……。


「ええ、確かに僕はロリコンですよ。しかし、それが貴方がたに迷惑をかけましたか? かけてないでしょう! 僕は、自分がロリコンであることに誇り、誇りを持って……」


とそこまで言ったところで魔術師はプルプルと震え出した。

一瞬で崖のような背景が霧散する。

魔術師は正面扉の方へ駆け出した。


「誇りを持ってるんですからぁぁぁあっ!」

「なら最後まで言ってから去れよ!」


と、いけないいけない、思わず突っ込んでしまった。


ユリアの方を見れば、それはもう凄まじい形相で睨んでいた。


「やはり、お前、騙していたのだな」

「いや、そういうわけじゃないけど、結果的にそうなってしまったというか……」

「お前を信用した私が馬鹿だった。金輪際、お前のことは信じないっ!」

「えっ」


ここでまさかの反抗期宣言!?

……な訳はない、だってユリアは俺の正体知らないし。


「いや、でもトドメさしたのはむしろ仲間おまえら……」

「黙れ!」

「ちょ、人の話は最後まで聞けよ!」


俺は人の話を聞く大切さは、散々に説いてきたと思ったのだが。


「だってお前は魔王だろう!」

「それがなんだ!」

「人じゃないじゃないか!」

「あ」


なるほど、確かに……じゃない。

納得してどうする。

ああ、空気が緩んでしまっているのがいけないのだ。

俺は慌てて魔王スイッチをオンした。


「しかし、勇者よ。今やお前ら二人しかいないが……どうする?」

「くっ!」


勇者ユリアは拳を握りしめ、そして叫んだ。


「……いいだろう、ここは勘弁してやる」


いや、勘弁してやるのは俺の方だからね?


「しかしまた必ず来るからな! 覚悟しとけよ!」


お手本のような捨てゼリフである。

ユリアは兵士の方をちらりと見て、それからサッと目をそらした。


二人になってしまった勇者一行は堂々と門から出て行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ