表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/34

世の形成

次の日は嬉々として、明人は学校へ向かった。飛べるって素晴らしい。一晩寝たら忘れているかと思ったが、ちゃんと父の前で飛び上がる事が出来た。一晩で飛べるようになった息子に、信明は驚いていたが、あまりに嬉しそうな姿に苦笑しながら、頷いた。

「やっとスタートラインに立ったな、明人。」

二人は宮の方へ、並んで飛んで行った。


宮の入り口で左右に分かれ、信明は軍の方へ、明人は学校へ入って行った。三階の個人教室までは、縦に突き抜けた通路を、明人は初めて使った。もちろんのことながら、階段より断然早くて楽だった。

廊下に降り立つと、ちょうど涼が部屋へ入ろうとしているところだった。明人を見て、目を丸くしている。

「いつの間に飛べるようになったの?お父さんに教えてもらったの?」

明人は涼の方へ歩いて行きながら言った。

「昨日の夜、十六夜がうちに来て。教えてくれました。」

涼は苦笑した。

「ほんと十六夜ったら、私のやり方にいちいち口を挟むのよね。まあいいわ。それであなたも、少しは龍らしく振る舞えるようになったんじゃない?」

明人は真面目に頷いた。

「はい。ここはみんな神だし、オレ、飛べないと落ち着かなかったんで。」

涼は笑って教室の中へ入った。明人もそのあとに付いて入って行った。

一時間目は、本当にテストだった。

涼は机に座るや否や、すぐに何枚もの試験問題を明人に渡し、そして、明人は解答用紙の欄の多さに面食らった。昨日の一般常識のテキストから、絶対に覚えておかなければならないことだけを出してあると涼は言った。

文句を言っている場合ではない。120分の時間が与えられ、明人はテストに集中した。


テストの後、30分の休憩時間をもらった明人は、軽く飛んで訓練場の方へ行った。また、軍が演習をしているかもしれない。明人は、自分が軍神と言われたからかもしれないが、軍にとても興味があった。

思った通り、軍神達が訓練場に散らばって、昨日とは打って変わって落ち着いて剣の稽古をしていた。気で戦うばかりではないのだ。明人は、父の姿を探した。

それは、すぐに見つかった。父と李関は離れた所で二人、他の軍神達とは全く違うスピードと太刀裁きで動いていたからだ。地上で居るより浮いている方が多く、明人はその動きに惹きつけられた。自分がやっと飛べるようになったばかりであるのに比べ、あの二人は自在に宙を舞っている。意識しなければ飛ぶことが出来ない自分のレベルの低さに、明人はため息をついた。あそこまで行くのに、どれほど頑張らなきゃならねぇんだろ…。

明人は、支給された腕時計を見た。もうすぐ休憩時間も終わる。

とにかく一歩一歩踏みしめて行くしかないと、明人は自分の教室へ戻って行った。


涼が、眉をしかめて立っていた。

「悪くはないんだけど。」と答案を返した。「一晩で覚えて来た量は、今までで一番よ。特に月の宮のことは、パーフェクトだったわ。だから、ここで生きて行くには問題ないとは思う…ただ、龍の宮に、もしも帰ることがあったとしたら、問題ね。月の宮は王が元々人だから、決まりごとは最低限だし、それに人の生活を考えて作ってあるの。だから、わかって当然だと私は思っているわ。でも、龍の宮は…」と顔をしかめた。「龍はね、とても古い種族なの。だから厳格だし、特に決まりごとにうるさい上、王は地を統率しているほどの力を持つ龍なの…あなたはいきなり王に会ってしまったから、その重大さはわからないかもしれないけど、王に行くまでに取り次ぐ臣下達に認めてもらえないと、本来話すことも、自分がそこに来ていることすら王に知らせてもらえないものなのよ。龍族はそれだけ厳しんだってことは、覚えて置いて。」

明人は頷いた。自分は龍なのだ。だから、その厳しいことを知っておかないと、龍として認めてすらもらえないかもしれないと、先生は言いたいんだろう。

涼は、違う冊子を明人に渡した。

「じゃあ、今日は龍のことを徹底的に学びましょう。まず、龍の組織ね。」

明人はテキストを開いた。一番上に維心の名が書いてある。そして、下へ向かってたくさんの臣下が掛かれてあった。その数は、月の宮の比ではなかった。

「龍族は王を中心に軍神筆頭義心、重臣達の洪、兆加、李明、そして最近は翔羽も重臣に加わったわ。そしてその下に序列がはっきりとした臣下達が続くの。あなたのお父様は軍神の所に居て、まだ若かったから李関と同じで、かなり下の士官だったそうよ。つまり、龍の宮には力を持った軍神が山ほど居る訳ね。」

全ての名前は書かれていないようだが、その数の多さに明人は面食らった。こんなにたくさんの龍達が、宮に仕えているのか。

「今の王の維心様は、1500年前に王座に就いて今まで、変わらず王でいらっしゃるの。本当は神の寿命は800年ほどなのだけれど、力のある神は長生きするので、最近まで鳥の宮の王も維心様と同じぐらいの年まで生きてらしたわ。もう亡くなったけれどね。」

明人は慌てて次のページをめくった。龍の歴史が書かれてある。

「古来、龍はとても荒々しい性質の神だったわ。それが一人の最も力のある龍が王として君臨して一族を統率し、今の場所に宮を建てたの。その力のあった龍王は、幸い頭の良いかただったみたいね。それまで殺戮の限りを尽くしていた龍を抑えて、近隣の別の種族とも話し合いに応じ、世を安泰に導いて行ったの…その血筋が脈々と受け継がれて、今の維心様があるのね。維心様は一族始まって以来の強い気の持ち主で、その力に敵うものは、別の種族の王でも居ない。絶対的な力を持っていらっしゃるから、今の世を力で押さえつけて太平の世に保っているの。つまり、維心様が譲位されたら、まとまって龍族に刃向おうって勢力も現れるかもしれない。」

明人は眉を寄せた。

「戦争が起こるかもしれないってことですか?」

涼は頷いた。

「だから、1700歳になっても王座を降りることが出来ないでいらっしゃるの。でも、最近では、第一皇子の将維が力を付けて来ているから、もう少しがんばれば可能かもって流れにはなって来ているわ。維心様の子であるので、絶対的な力ではないけれど、確かに他の王よりは力を持っているのよ。ただ、まだ30歳にしかならなくて成人していないから、どこまで維心様に迫るのかわからなくて、様子見って感じ。皇子は他にも三人居るし、皆一様に「気」がとても強いから、この子達が育てば、たとえ維心様が居なくても、きっとこの世は安定させて行けるはずだという考えが、今は主流ね。」

明人は神の世界の一般常識を思い出した。神は200歳で成人なのだ…自分なんて、まだ赤ん坊じゃないか。

神の世界は力社会。今の平和は、絶対的な力を持つ王が一人、世を押さえつけているから成り立っている…考えると、明人は身震いした。それは…本当にもしかしたらオレは、戦場に立つことになるかもしれないのだ。

「月は?月は世を押さえつけられないのですか?」

涼は微笑んだ。

「良い所に気が付いたわね。そうなのよ。月は地の平和を願っているし、どこにも侵略するつもりはないわ。でも、ここを襲って来たら、守る為に攻撃するでしょうね。月の力は絶対的なの…十六夜はああ見えて、簡単に神を封じてしまうわ。維心様は封じるのに時間が掛かるって本人は言ってたけど…あのかたは特殊だから。ただ問題があるの。月は神の世に興味がないのよ。」

明人は思い当たった。昨日、十六夜はそう言っていた。関わらないようにしてる、と。

「十六夜はね、維月の為に、一度は神の世を知らなきゃならないと思ったのだけど、知って行くにつれて、それは維心様に任せた方がいいと決めたようなの。それで、政治向きのことは一切を子の蒼に任せて、自分は困っている時に手を貸す程度に留めて、見守っていることにしているようよ。気まぐれだから、よくわからないけど。」

明人は唸った。

「維月様は、やっぱり十六夜の奥さんなのか。でも、維心様の妃だって、維心様本人も言っておられたし、維月様も横に普通に座っていたし…十六夜も、特にそれを気に留めているようでもなかったのに。」

涼は苦笑した。

「そこはね、ややこしいのよ。だから、授業では言わないけどね。機会があったら、本人に聞いてみたらいいんじゃない?」

明人は頷いた。なんか気になりだしたら、ほんとに気になるんですけど。

涼は先を続けた。

「そういう訳で、月の宮は神の世界でも異質の存在なのよね。独立国家だと思ってもらったらいいわ。鎖国はしてないけど、誰も手を出せないっていう。」とテキストの次のページを指した。「ほら、龍族の所にも書いてるけど、月の宮と龍の宮が密接につながっているのも、龍族が神の世で一番上に君臨出来ている理由の一つなのよ。蒼の妃は維心様の妹瑤姫。維心様の妃は陰の月の維月。それぞれが子を成して、お互いの力は混ざり合い、次の龍の王の将維は陰の月の力を使える龍なのよ。」

明人は感心した…これも龍族の王が考えて成したことなんだろうか?あの時に見た維心は、まだ人だと思って龍に戻り切れてなかった明人から見て、威厳があるが、体格の良い綺麗な若い男にしか見えなかった。あれがそんなにすごい王だなんて。確かに親父は滅多にお目に掛かれないとか言って、ひたすら頭を下げていたっけ…。親父は、全てを知っていたのだ。

涼は、次のページを開くよう言った。

「人の世との違いを総復習しましょう。まずは生活から。今回の試験にあったものばかりだから、あなたにはわかっていることばかりだと思うけれど、とても重要なことよ。人だったんだから難しいとは思うわ…私だって未だに慣れないの。でも、最初は神を演じるつもりで居たらいいと思う。人の自分が龍を完璧に演じるんだって思い込むのよ。ゲームみたいな感覚ね。神の中に龍のフリして潜入している人みたいな設定で。でも、ライフは1しかない。龍でないと気取られたらゲームオーバー。最初はそれでいいわ。そのうちに気が付くと、本当にそうなってるから…それが常識だって思い込めるの。すごいわよ?人の世と神の世の両方で暮らせるなんてなかなか出来ないんだから。」

明人は頷いた。本当にそれでいいんだろうか。でも、それでいいや。長いRPGを始めたような感覚で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ