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喪失

十六夜は領嘉と共に行った、領嘉が修行したという師の房から、仙術を記した大量の巻物が無くなっている事実を知った。

十六夜が言った。

「間違いねぇ。誰かがここの巻物をそっくり持ち出しやがったんだ。領嘉、お前が持ち出したのはどれぐらいだ?」

領嘉はショックから立ち直りながら言った。

「…おそらく、全体の三分の一ぐらいでした。それでもかなりの量でございましたので。」

十六夜は頷いた。

「じゃあ残った中に、記憶を封じるような仙術もあったってことだな。」

領嘉はまた頷いた。

「はい。私は自分が知っている術のものは、持って行きませんでしたので。気を遮断する膜も…おそらくはあったはず。」

十六夜は頭を抱えた。

「また厄介な術だな!他にあるのか。」

「初歩の辺りですのでね」領嘉は考えた。「吸い込む花もそうです。あれで他の場所にさらうことが出来る。花でなくても良いのです。他の人型とか…」

十六夜は焦った。

「それは…オレの姿でもってことだな。」

領嘉は怪訝そうに頷いた。

「ええ。でもどうして?」

「維月だ」十六夜は言った。「オレや維心の人型なら、寄ってっちまう。紫月だって、お前の人型なら寄ってくだろうが。」

領嘉は十六夜が何を言いたいのかわかった。

「つまり、簡単にさらわれてしまうってことですよね。」

十六夜は頷いた。

「今度の相手は油断ならねぇ。どうしたものか…特に気を遮断する膜は困ったもんだ。」

間違いなく、どこかの神が、まだ神の世には深く知られていない仙術を使って、何かを画策している…十六夜はふと、龍の宮に居る、維月が気になった。維心は記憶を無くしても維月を大切に扱い、必死に守ろうとしていた。なので預けているが、神の世で仙術が使われ始めたのはつい最近、維心も共にその事件を解決したが、今の維心は400年前の記憶しかない。仙術のことは、やはり知らないであろう。

考えていると不安になって来て、自分が仙術をもっと学ばねばならないと思い、急ぎ月の宮へ戻って来たところで、蒼が待ち構えていて、十六夜に言った。

「十六夜!遅かったな。領嘉、すぐに龍の宮へ行ってくれ!」

領嘉はびっくりした。

「ええ?!龍王は記憶を失われているんでしょう。」

蒼は首を振った。

「400年前までの記憶はあるんだよ。維心様は術の向きとかを読まれて、鳥と虎が関わっていると言われている。仙術が使われているのも感じ取られた。それで、急ぎ領嘉に来てもらいたいと、将維から言って来たんだ。」

領嘉は頷いたが、十六夜が不満げに言った。

「今からオレが仙術教えてもらおうと思ってたのによ。」と領嘉を見た。「オレも行く。」

蒼はため息を付いた。

「じゃあオレは残る。どっちかがここに残らなきゃいけないだろう。しっかり話して来てくれよ、十六夜。」

十六夜は頷いて、帰って来たばかりなのに、また領嘉と共に龍の宮に向けて飛び立って行った。なんだか、胸騒ぎがする…さっき、領嘉にあんな話を聞いたせいだ。

十六夜は領嘉をせっついて、飛べるだけ早く飛んだ。

なぜか、胸騒ぎがする。前に人の維月が命を失う前日もこんな胸騒ぎがした…あの時は間に合わなかった。十六夜は、焦る気持ちを押さえられなかった。

龍の宮上空に着き、庭に維月の姿を見つけた時、十六夜は旋律したーそこには、自分とそっくりの人型が立っていて、維月はそれに向かって近づいて行っていたのだ。

「維月!」十六夜は必死に頭上から叫んだ。「離れろ!」

維心が居間から飛び出したのが見えた。維月は声の方に顔を向けて、そこに十六夜と領嘉を見た…腕を何かに掴まれた感覚と共に、後は真っ暗で何もわからなかった。


あれは吸い込む花と同じものだ…!十六夜は懸念の通りに、自分の人型を使って維月をおびき寄せたことに腹を立てた。

維心が悟って必死で維月に手を伸ばしていた。

しかし、人型の自分が維月の手を掴む方が早かった。一瞬にして維月は消え、後にはなんの気配も残らなかった…。

十六夜は、地面に降り立って叫んだ。

「維月!くそ!」と維心を見た。「あれはあの花と一緒なんだよ!別の場所に送る…」

維心は訳がわからないという顔をした。そうか、あれは最近か。維心にはわからないのだ。

「なんで記憶なんか失ってるんだよ!維月はたった今さらわれた…オレ達の目の前で!あれは仙術だ…前にオレ達が一緒に解決した事件のと、同じ原理だったんだ!」

維心は十六夜が何を言いたいのか悟って、眉を寄せた。危険を察知できなかったのは、我が記憶を無くしているせいか。記憶のある我なら、わかったはずのことなのだ。十六夜はそれが言いたいのだ…今の我だから、維月を守れなかったと。

「すまぬ…!我が油断してこのような術に掛かっておるばかりに、維月を守れなんだ。どうやってこの術を破れば良いのか、それを探ろうとした矢先にこのように…!」

十六夜は、その維心の様子を見て、我に返った。維心を責めても仕方がない。つらいのはこいつも同じなんだ。

「…すまねぇ。お前に当たっても仕方ねぇのに。」と領嘉を見た。「お前、どう思う?あれはどう見えた。」

領嘉は頷いた。

「仙人が使っている術ではありません。力の種類が違う。向きは南です。」

維心が頷いた。

「鳥の気がした。やはり鳥の宮からか…しかし、あの気は炎嘉ではなかった。」

十六夜も頷いた。

「炎嘉は今は龍だ。鳥の気はしねぇ…」と、領嘉を見た。「お前、膜の有る無しが遠くからでも分かると言ったな?鳥の宮はどうだ?膜があるか?」

「少しお待ちを」

領嘉は空を見上げて、何かを唱えた。そして何かを見ているような目をして空を探っていたが、やがて、言った。

「…あります。小さな膜がいくつも分かれて宮の中に点在している。この中の一つに、維月様が居てもおかしくはない。術の向きと合致しています。」

十六夜は立ち上がった。

「すぐに助けなきゃならねぇ!炎翔のヤツが何をしやがるか…あいつは炎嘉とは違う、たちの悪いほうの女好きなんでぇ。炎嘉は一本筋が通ってやがるがな。」

維心はその言葉に苦笑した。確かにそうだ…月は炎嘉のことも良く知ってるのか。

「すぐに参ろう。我が鳥の宮を討ち滅ぼしてくれる。我がその気になれば、一族を根絶やしにも出来ようぞ。」

維心の目は青く光った。十六夜はその目に背筋が寒くなった…この維心は、オレが知っている維心ではない。まだ回りを討ち滅ぼし、気に入らなければ斬り捨てる、残虐な王として名をはせていた頃の維心だ。

確かに、やるだろう。ためらいもせずに、女子供まで斬り捨てる。それがこの時代の維心なのだ。

「…行く前に、話がある、維心。」十六夜の言葉に、維心はいらだたしげにこちらを向いた。「女子供は殺すな。根絶やしにする必要はねぇ。」

維心はフンと横を向いた。

「そのようなこと、選らんでられぬ。残して置いては、後々我が一族に仇なすものとして牙をむく可能性がある。情けを掛けて何度それを討たねばならなかったことか。その度にこちらにも犠牲が出た。我は滅ぼすと決めた限りは全てを滅する。まして我が妃を奪うなど、許されぬことであるゆえ。」と気ぜわしげに空を見た。「…早くせねば、維月が奪われる。話しは終わりだ、十六夜。」

維心はくるりと踵を返すと、叫んだ。

「我の甲冑を!軍を集めよ!鳥の宮へ出撃する!」

十六夜はその背中に、戦国を生き延びで来た維心を見た。自分が維心に出逢った時には、とっくに平穏な世で退屈に過ごしている王でしかなかった。だが維心は、自分でその世を作り上げて行ったのだ。何もかもを自分で判断し、そして多くの命を散らすのも自分の決断次第。400年前の維心は、まだそんな世に居たのだ。

十六夜も甲冑を身につける中、維心は庭の上に浮かぶ人影に目を止めた。慌ててそちらへ走り寄る。

「炎嘉!主…なぜにこんな時にここへ!」

炎嘉は寂しげに微笑した。

「維心、鳥を滅ぼすと決めたか。」

維心は口を結んで炎嘉を睨んだ。

「…もう、我の決断は覆せぬ。いくら主の頼みでもだ、炎嘉。」

炎嘉は首を振った。

「我は龍だ。鳥はもう関係ない…だが、炎翔にとっては、まだ我は父のようであるな。」と下を向いた。「今、我は鳥の宮におる。炎翔が今夜妃に迎えると主から奪い取った維月は、我が炎翔から守っておる。それから」と維心の事を見た。「主の記憶を封じたのは、炎翔よ。我が調べた所、それは術者が死なねば解けることはない。それだけ、主に伝えに来た。維月を連れて参ることは出来なんだが…これは我の幻であるゆえの。」

炎嘉の姿が一瞬揺らいだ。維心は炎嘉を止めた。

「炎嘉!我は今から攻め入るのだぞ。せめて宮から出よ!維月を連れて…」

炎嘉は微笑んだ。

「…主は変わらぬな。400年前からの。我も殺せ。維月を奪われぬためにの。今の主なら出来るはず。400年後の主には出来なんだがな。」と何かに気付いた顔をした。「ではな。」

炎嘉の姿は掻き消えた。維心は拳をギュッと握り締めて、振り返った。

「出撃する!我に付いて参れ!」

軍神達が一斉に飛び上がる。維心はその先頭に立って飛び、十六夜と領嘉は遅れてそれに続いた。

月明かりの中、龍達は鳥を急襲すべく、大挙して鳥の宮へと南に飛んだ。

知らせは、月の宮へも飛んだ…軍は、鳥の宮へ向かうことになるのだ。

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