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始まりは退学

学校裏、あまりにもベタな所で、そいつは土下座していた。

土下座自体、やりたいなら何度でもいつまでもしてくれていていいのだが、している相手が気に入らなかった。

あいつらは、昨日もああやって誰かの金を巻き上げていた。

自分が必死にバイトして金を稼いで家計を支えている明人(あきと)にとって、それは許しがたい行為だった。第一、あんな方法で稼いで後に続く訳がねぇ。

「お前らなあ…ムカつくんだよ!!」

最初はちょっと腕を折るぐらいでいいかなと思っていた。

だが、ちょっと油断した隙に明人のカバンが宙を飛び、それが着地した先に、その仲間が居た。踏みつけられたのを見た瞬間、頭に血が上り…

それで思わず、…やってしまった。

母さんが頭を下げている。

「本当に申し訳ございません!」

校長室で頭を下げる母の横で、明人は早く終わらないかと怠そうに立っていた。バイトの時間が過ぎてるんだけど。母がそれを見て明人の頭を叩いた。

「痛ぇな!」

明人が抗議すると、母は鋭い視線でそれに答えた。

「あんたも頭下げなさい!」

明人は仕方なく頭を下げた。そして言った。

「でもよ、あんなこと見過ごしてるあんたらにも問題あんじゃねぇの?オレ、昨日もあれ見たんだよね。でも我慢した。今日は無理だっただけだ。」

教頭はグッと詰まったが、言った。

「だからって、相手をあんな目にあわせていい訳ないだろうが!両腕両足折れてたんだぞ!」

明人はフンと横を向いた。

「体は狙わなかった。殺しちゃいけねぇからな。あんたらもちんたら仕事してんなら、気を付けな。」

明人はそこを出る為皆に背を向けて歩き出した。その背中に、母に教頭が言っているのが聞こえて来る。

「…まあやられた方もやってたことがやってたことなんで、警察沙汰にはならないようですが、うちとしてはもう、これ以上お子さんをお預かりすることは出来ませんな…」

明人は鼻を鳴らした。清々する。辞めて働いたほうが、よっぽど家計の足しになるってもんだ。

そしてそのまま、バイト先へ向かった。


田中明人(たなかあきと)は、高校3年生18歳の男子だった。

子供は自分一人だが、昨今の不況で生活は厳しい。父は少しでも割のいい仕事をと渡り歩いては居るが、家計はいつも大変だった。

それを知っていた明人は、最初高校進学はしないつもりでいた。なのに父母は、人の世で生きて行くには学歴が必要なんだと無理矢理公立高校へ入れ、父母の希望ならと通っていた。

だが、どうも自分は昔から周囲とかみ合わないことが多かった。

始まりは、幼稚園の時。

鬼ごっこをしていて押した相手が十メートルほど吹っ飛び、大けがをした。自分はそんなに力を入れたつもりもなかった。それに、目撃した人も居なかったので、それは事故として処理された。あまりに怖かったので、それから鬼ごっこはしなくなった。

小学校の時。

リレーの選手に選ばれたが、必死で走るとバトンを握りしめてへし折ってしまうので、それを気に掛けて走るのでひやひやした。皆はそんなことはないようだったので、言わないようにし、次の年からはリレーに出なかった。

中学生の時。

長距離でトップランナーになったが、皆が息切れしているのがなぜだかわからなかった。気が付くと、自分は息をしていなかった。びっくりして慌てて息をしたが、その間全く苦しくなかった自分がなぜだかわからなかった。既に死んでるんじゃないかとハラハラしたが、生きているようだった。

そして今。

バイト先で次々と運ばれて来る荷物をひたすら選別していたが、それも自分には天職だと思っていた。なぜなら、何時間やっても疲れないからだ。

隣で同じように荷物をコンベヤーへ放り投げている先輩が言った。

「お前、がんばるなあ…やっぱ若いからか?オレ、もうへばって来たんだけど。」

「オレ、持久力だけはあるみたいで」明人は言った。「なんかこれ、天職っすよね。」

そう言いながらも捌くのは本当に早い。なんと言うか判断が早い…動体視力が並じゃない。

「これを天職と言うなよ。お前の能力は絶対もっと金になるとオレは見たね!」

明人は目の色を変えた。

「マジで?!なんですか?オレ、何に向いてると思います?!」

相手は驚いて退いた。

「おいおい、まだ学生なんだろ?ゆっくり考えりゃいいじゃないか。」

明人はちょっと沈んだ目をした。

「…それが…ちょっとやらかしたんで、学校は辞めるかもしれないんで…。」

相手は苦笑した。

「なんだよ、ケンカか?」明人がギクッとしたのを見て、頷いた。「まあやらなきゃならない時もあるだろ。そんなことぐらい、学校もわかってくれるさ。」


…わかってくれなかった。

家に帰ると、父と母が並んで座って待っていた。父親には殴られるかと思ったが、ため息をついただけだった。

「そこへ座れ。」

明人は座った。そうすると、母が話し始めた。

「あなたね、学校は退学になるのよ。相手の怪我が酷いから…いくら訴えられなかったとしても、これじゃあ示しがつかないからだって。」

「そうか。」明人は予想していたので、落ち着いて言った。「就職するよ。」

「そんな甘かねぇぞ」父は言った。「そんな理由で退学なって、どこが雇ってくれんだよ。」

明人は胸を張った。

「当分はバイトでも稼ぐさ。あのな親父、オレに偉そうに言えねぇだろうがよ。次々職変わりやがって。オレは今の所やめねぇで続けてやらあ。」

母が咎めるように遮った。

「ちょっと!お父さんは訳があって…!」

「いいぜ、やってみな」父が言った。「お前の今の力でどこまでやれるかってのをよ。言っとくがお前はもう社会人だ。オレ達は何したってかばえねぇからな。」

明人はフンと横を向くと、そのまま部屋へ戻った。

父と母は、それをただ見つめていた。


次の日、いつも夕方からシフトが入っている明人は、久しぶりにショッピングモールを歩いていた。

いつもは金を使うからとこんな所には来ないのだが、あまりにも時間が開いていて、そして家に居づらかったからだ。

しばらくぶらぶらと歩いていると、作業着姿の父が目に留まった。

今は、現場に居るはずじゃねぇか。

明人が不振に思って後を付けると、父は辺りを見回しながら、必死な様子だった。何かを探しているような真剣な目をしていた…一体、何を探してるんだ。明人は、ひたすら人ごみに紛れて、父を追った。

しばらく行くと、父が立ち止まって、どこかの婦人服の店の中を伺うようにして見ている。明人は焦った。まさか、あの店の店員が好みとかじゃねぇだろうな。

しかし、あくまで父の目は真剣だった。しかも、極度に緊張しているようだ。そのまま、極度に緊張して見ている先には、一組の男女がいた。明人は、その男女…特に男の方を見て、鳥肌が立った。外見は体格が良く背の高い、顔立ちの整った30代ぐらいの男で、周囲から確かに目立って浮いていたが、それだけではない。受ける印象というか、圧力が半端ないのだ。明人はケンカ慣れしていたのでわかるのかもしれないが、この相手とは、絶対に戦いたくない。絶対に敵わない。そう思わせる何かがあった。明人も、思わず知らず、足が震えるのを感じた。

その男女が何かを買い求めてその店から出ると、父はその後を付いて行った。あんな奴に何をしようとしているのだ。明人は父を放っておけず、自分もその後を付けて行った。

しばらく歩いて、人気のない所へ出ると、父は思い切ったように、その男に話し掛けた。

「王!」

その人物は振り返った。そして、驚いたように目を見張った。

信明(しんめい)ではないか。主、このような所で何をしておる。」

父は慣れたように片膝を付いて頭を下げた。

「まさかと思いましたが、王が人の世に降りられておるとは…我には天の助けのように思われまする。」

相手は回りを見た。

「妃が元、人であるのでな。買い物とやらをしたいと申すので、共に参ったのよ。」

父は驚いたような顔をした。

「王が妃を娶られたのでございますか?!」

相手は手を振った。

「そうであるな、主が我が領内を出た後の事であったゆえ。だが信明よ、主が出て行ってからもう50年は経っておるぞ。して、何用か。」

父はうなだれた。

「…話せば長い話にございまする。」

相手はため息をついた。

「では、ここでは無理だな。人の目があり過ぎるゆえ」と傍らの女を見た。「維月、時間を取っても良いか。」

維月という、その女は頷いた。

「仕方がありませんわ。維心様はお忙しいのですから。でも、私もお連れくださいませ。」

維心というその王は頷き、父の方を見た。

「では信明、我が妃も連れて行く。それから」と維心は明人の方を見た。「あそこに居るヤツも共にの。」

父は、驚いて振り返って明人に気付き、叫んだ。

「明人!お前、なんでここに居るんでぇ!」

「それはこっちが聞きたいよ、親父。」と維心と呼ばれる男を見た。「誰なんだよ?!」

父は慌てて維心を振り返った。

「王よ、お許しください。息子は人の世で人として育て、我らのことは何も知りませぬ。お時間を頂いて、先にこの息子に話しを付け申す。王は、どちらにご滞在でありまするか。」

維心はちょっと考えた。

「そうよの、我は…我が妃の元の実家に居る。場所を知らせよう。」と相手は父の頭に手を軽く翳した。「ここだ。明日の昼までは居ようほどに。」

父は虚空を見つめた。何かを確認するかのように瞳が動く。

「承知いたしました。では、そちらへ今夜必ず参りまする。」

「ではな。信明よ、その息子よ。」

維心はこちらに背を向けて、妃の維月という女と一緒にその場を離れた。その姿が見えなくなると、父は明人の頭を拳で叩いた。

「このバカ息子め!」

明人はいきなりのことだったので、涙が出た。

「痛ってぇな、何しやがる!」

父は頭を抱えた。

「まあ、お前は何も知らんからな。とにかく、来い!全部話してやるから!」

父は明人の腕を掴んで歩いた。明人は引っ張られながら、何事が起こっているのか混乱した。なんだよ王とか。頭殴られて痛てぇし、もう訳わからねえ!

明人は、半ばやけになって、父に引きずられるようにして歩いて行ったのだった。

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