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真夏の夜の夢

朝焼けに染まる

作者: 笹川 弘

 

 むしむしと暑苦しい夜だった。近頃テレビで堅苦しいスーツを着たオッサンが言っていた

ヒートアイランド現象とか、熱帯夜だとか、そんな言葉がぴったりな感じの。実に現代らしい

夏の夜だった。うだるような暑さに眠気を吹っ飛ばされた俺は家の近所の川原へ来ていた。


 都内とはいえ、23区を外れてしまえばほとんど何もない。何もないという言い方は

いささか語弊があるが、住宅があちこちに建っているだけで、背の高い建物はあまり

見られない。深夜三時。明かりがついているのは街灯のみ。草木も、人も、空も、

寝静まってしまっているこの空間は、普段自分が住んでいるところには思えなかった。


「あれ、翼くん?」


自分を呼ぶ声が聞こえ、振り返る。


「神埼?」


何でこんな時間に女の子が一人で歩いてんだ。


「何でこんな時間に?」

「俺のセリフだから。つーか、あぶねぇだろうが。女の子が一人でこんな時間にうろちょろすんな。」

「お父さんみたいなこと言うんだね、翼くん。」


うふふ、と口元を抑えて笑う神埼。おいおい危機感皆無だな。もうちょっと自覚持て。

こんな事言ったってきっと、当の本人は聞く気もないだろう。神埼はランパンに

タンクトップといったいかにも部屋着な軽装だった。というか脚も肩も出すぎだろ。

それはさすがに冷えるだろ。いや、本当は俺が煩悩と戦ってるだけだけどさ。


「神埼。」

「なーに?」

「これ着てろ。」


自分の着ていた薄手のパーカーを少し雑に投げ渡した。神埼は一瞬きょとりとしたあと、

ふにゃりと笑って「ありがとう」と言ってパーカーに袖を通した。

男物だからなのか若干ぶかぶかとした感じがする。


「袖、長いね。」

「あァ、まぁ・・・。」

「やっぱり翼くんと私じゃリーチが違いすぎるもんねぇ。」

「そりゃあ、そうだろ。」

「いーなぁ、私ももう少し背が伸びてくれたらよかったのになぁ。」


そう言って足りない袖口をぷらぷらさせている神埼。少し眠たいのか目をごしごしと擦る。

コイツ本当に同い年かよ、と半ば呆れながら目腫れるからやめろと言いながら神崎の手首を掴む。


「翼くん?」

「なんだよ。」

「なんで、」

「ん?」

「なんで、呼んでくれないの?」

「何をだよ。」

「なまえ、」

「呼んでんじゃねぇか。神埼って。」

「ちがうよ。なんで、ヒナって、呼ばなくなったの?」


神埼の方を向くと、神埼は目に涙をためながら俺を見ていた。

確かに俺とコイツは幼馴染だから、チビの時はコイツを名前え呼んでいた。

しかし月日は流れていくもので、中学上がる頃にはコイツの事を神埼と呼んでいた。

何がきっかけだったかなんて覚えてないが、気が付いたらこうだった。


「ねぇ、」

「あ?」

「なんでヒナって呼ばなくなったの?」


俺はしばらく考えたが、何にも思い出せなかった。


「気が付いたら、だな。そもそも理由なんて覚えてねぇし。」


覚えてないという事はさして重要な事でもなかったのだろう。そう伝えると神埼は

うつむいてしまった。なんだこのすごい罪悪感は。


「もう、ヒナって、呼んでくれないの?」

「・・・え?」

「翼くんは、ヒナって、呼びたくないの?」


涙を目にいっぱいためたまま、そう俺に問う神埼。目にたまった涙をこぼさないように

している神埼を見ていると、何とも言えない気持ちになった。


「・・・ヒナ。」


ぼそりと。決して大きな声ではないが、数年ぶりに呼んだ彼女の下の名前。


「・・・泣くな、ヒナ。」


泣いてる女の扱い方なんて俺が知るわけない。彼女の溢れんばかりに涙がたまる目に

ゆっくり指を持っていく。涙袋のところに人差し指をあてると、ぼろりと一滴落ちた。




空は、白み始めていた。夜と朝が入れ替わる、この瞬間に。






オムニバス第一弾。いかがだったでしょうか。

深夜~早朝クオリティなこの作品。あーあーあー気持ち悪いくらいに純愛。

とりあえずグダグダ感をお楽しみください。

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