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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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かえして

作者: esora
掲載日:2026/07/19

 少しだけ、変わっている子だと思った。変だなとは思ったけれど、それでもあの子は私の可愛い妹。

 家族に愛されて育つ天真爛漫、純粋無垢で愛らしいお日様のような愛らしい私の妹。

 父親似の茶髪の私とは違って、あの子は母親似の癖毛だけれど綺麗な金髪。

 それが天使のようで更に可愛らしい。

 両親も私達姉妹の仲の良さを見て嬉しそうにしていた幸せなあの頃。

 そう、別に特別なんて望んではいない。ただ、私の可愛い可愛い妹がその辺の程度の低い男に引っかかることなく、貴族に見初められたり養子にと請われることなく家族四人で普通に暮らしていければよかった。

 お金持ちになりたいとか、平民は嫌とか。そんなこと、思いもしなかった。

 まぁ、当たりくじで一等当たらないかしらと思いながら買ったりすることはあるけれど。

 畑で育てた農作物を売ったり、森や村の近くで採れる薬草を調合して簡単な薬を作って道具屋に卸したりするだけの日々で良かったのに。

 神様、なぜ貴方は私達からあの子を取り上げるような真似をするのですか?

 確かにあの子は昔から聡く、読み書きもすぐにできました。うちの家系でも一番の才女なのは間違いありません。

 けれど、あの子は聖女じゃありません。普通の子です。ちょっとだけ変わっている私の可愛い妹なんです。

 私は幼い時から両親から教えられ、貴方への感謝と祈りを忘れたことはありません。収穫物もきちんと献上しています。

 あの子が家を出て村を離れることになってもあの子の為になるならばと、あの子の行く末が幸運で満ちているよう貴方に毎日お願いしました。

 けれど……その結果がこれなのですか?

 村は焼かれ、村の人は悲鳴を上げなら逃げ惑いたくさんの知り合いが殺されました。逃げ込んだこの教会内も、あとどのくらい保つのか分かりません。

 私が森へ薬草採取へ行った帰り、村はもう燃えていました。急いで家に帰れば両親は折り重なるようにして絶命していました。

 理由もわからず、誰かに強く引っ張られるまま何とか生き延びた村の人と今貴女の前にいます。

 私は貴方の声が聞こえません。

 あの子であれば、貴方が勝手に天啓をくだし聖女として連れ去ったあの子がここにいたならば、こうはならなかったのでしょうか。

 それともこれは、あの子が望むことなのですか?

 あの子の試練なのですか?

 その為に村は焼かれ、両親や村人は死に私達は死を待つだけなのですか?

 苦しげに呻いていた丘の上のおじさんは、先に亡くなった奥さんを抱いたまま静かになりました。

 泣きじゃくっていた子達も今はもう静かに寝ています。

 出血が酷くて止血が間に合わなかった、花を育てるのが上手な花屋のおばさんも動きません。

 これは必要な贄なのですか?

 狂った男たちは村を蹂躙しながら叫んでいました。

 聖女の覚醒のために必要なイベントだと。

 イベント。

 笑ってしまいますね。彼らにしてみれば村が焼かれ、私達が死に絶えることがお祭りなのですって。

 私達、まだ死んでない者はこのまま蒸し焼きですよ。

 この期に及んで貴方は何も答えてくれないのね。

 祈りも願いも敬愛も全ては無意味。

 聖女生誕の地だろうと、聖女の家族だろうと関係ない。

 お祭りだと笑って彼らは火をくべる。

 助けなんてない。

 奇跡なんてない。

 あの子は聖女なんかじゃないの。私達の大切な家族で、可愛い妹。

 変な言動はよくあったけれど、前世なんてそんなのただの夢のこと。


 ああ、神様。

 私は貴方を怨みます。

 この世界を憎みます。

 私達家族からあの子を取り上げ、聖女に祀り上げ、試練という聞こえのよい言葉でお祭り騒ぎのように村を滅ぼす全てを。

 私はこの命と魂を貴方に捧げることはありません。

 

 かえして。


 あの子を、私の妹をかえして。



 女が持っていたナイフで自分の心臓を止めた時、既に彼女以外の村人は全員息絶えていた。

 固く閉じる教会の扉を破ることなく、狂ったように興奮する男たちは燃える素材を建物の周りに置き、油を撒いて火をつける。

 事切れた女が胸に突き刺したナイフが彼女の血に染まり、床に、神の像の足元を濡らす。

 物言わぬ像の両目から血のように赤い液体が流れ、女の血と混ざった瞬間に文字通りその村は世界から跡形も無く消え去った。

 まるで、最初からそこには何もなかったかのように。

 痕跡一つ見つからない。


 聖女として崇められ、大切にされていた少女は静謐な聖堂の祈りの場で動きを止めた。



 不可逆イベントに失敗しました。

 神の加護を失いました。

 システムの応答を終了します。



 声はもう聞こえない。


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