写真の記憶 【月夜譚No.394】
掲載日:2026/03/22
写真の中の景色は、色褪せずにそこにある。空の青に大地の緑、そここに咲いた花の鮮やかさと共に笑顔を浮かべているのは、着物を着た少女である。
まだあどけなさが残るその表情は大人と子どもの境にあり、ほんのりと染まった頬が可愛らしい。
彼女が一体誰なのか、彼には一切覚えがなかった。そこに写る景色も記憶がないのに、何故かこの写真を見ていると懐かしさが胸に湧く。
彼は写真を顔の前に掲げたまま、ソファに寝転んだ。
自分はこの景色を実際に目にしていたのだろうか。その記憶を過去に置き去りにして、いつの間にか褪せて薄れて、消えてしまったのだろうか。
そう思うとなんだか切なくなって、ふと視界が滲んでいることに気がつく。写真を持った腕で目元を抑え、自身の感情に戸惑う。
押し入れの奥から出てきた一枚の写真。覚えのないそれを、彼は大事にしようと心に決めるのだった。




